保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

夢中になって遊び込めるままごとコーナーを作りたい!〜 「思い」と環境をつなぐワークショップ 第1回〜

新 幼児と保育
掲載日:2021/06/15
夢中になって遊び込めるままごとコーナーを作りたい!〜 「思い」と環境をつなぐワークショップ 第1回〜

保育環境を変えたいけれど、何から始めていいのかわからない、以前挫折した…
そんな方にぜひ読んでほしい!こども環境学の専門家、佐藤将之先生による連載です。

第1回は、佐藤先生と宝光保育園が取り組んだ、1歳児の保育室改善の試みをレポートしていただきます。

(この記事は、『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2021春 に掲載された「保育空間ビフォア→アフター」を元に再構成しました)

お話

佐藤将之先生
早稲田大学人間科学学術院教授。専門はこども環境学、環境心理学、建築計画学。建築や都市におけるフィールドサーベイを通じて人間行動と環境との相互作用に関する研究を進めている。2020年に出版された著書『思いと環境をつなぐ保育の空間デザイン 心を育てる保育環境』(小学館)は、2020年度 こども環境学会 こども環境論文・著作奨励賞受賞。

取材協力/宝光保育園(東京・日の出町)
社会福祉法人八晃会が昭和48年に設立、「和」を大切に保育を行う。定員151人。

佐藤将之先生(前列右)と、宝光保育園のみなさん。


一人ひとりの遊びを保障できている?

宝光保育園は裏山に林が広がっているのが特徴で、子どもたちに豊かな遊びを提供してくれています。保育室は広々としていて、参観に来る保護者には好評でしたが、子どもたちにとっては落ち着かないようで、部屋を走り回って遊ぶ子どもと静かに遊ぶ子どもが互いに邪魔になってしまうこともあり、保育室での一人ひとりの遊びを保障できていないのではないかという問題意識が保育者にはありました。保育者それぞれに改善のイメージはあったものの、話し合う機会が持てずにいたそうです。

そんなとき保育者のひとりが筆者の講演に参加し、それをきっかけに、筆者のもとに保育環境ワークショップの依頼が来ました。まずは1歳児の保育室に、じっくりと遊べるままごとコーナーを作ることになり、ワークショップがスタートしました。


保育者の思い/不満だった点(1)

毎日長時間使う保育室が、遊び込める環境に乏しかったこと。

ワークショップを行う前の1歳児保育室。遊び込めるコーナーを常設していなかった。


保育者の思い/不満だった点(2)

部屋の一角が荷物置き場のようになってしまっていること。

事務・管理道具置きの下のスペースに箱や袋を活用して効率よく収めているが…。

試しに換えてみながら意見を出しあう

まずは1歳児の保育室に、じっくりと遊べるままごとコーナーを作ることになりました。
ワークショップでは、「遊びのゾーン」「食べるゾーン」といった室内のゾーン分けを図面で確認し、それから実際に保育室に行って、試しに家具の配置を換えることから始めました。実際に家具を置いてみて、そこに置く理由を考えることが、思いを環境につなげることになります。

職員を5グループに分けてディスカッション。

保育室内を「遊ぶ」「食べる」などのゾーンに分けた図面。時間や状況によってゾーンの目的を変えることが検討されている。「遊びスペースの仕切りを用意」「自分でおもちゃを取り出せる棚があるといい」などの意見が書かれている。

実際の部屋で、子どもの身長に対して適切なサイズかどうかを確認している。

他園の例も参考にしながらままごとコーナーを作ってみた。間仕切りも兼ねた棚の位置や向きをさまざまに変えて、子どもの遊びやすさや入っていきやすさを観察した。

ある担当者のメモ。試してみて「よかった点」「問題点」「継続するための方法や解決策」を項目立ててまとめている。


夢中で遊べて見守りもしやすく

試行錯誤を重ねて下の写真のようなままごとコーナーが完成しました。


ポイント

コーナーを囲む家具をL字形ではなくIの字の形に並べ、手前が低く、奥が高くなるようにした。

いろいろと試す中で、手前入り口近くに置く家具は低いものにして、外側から家具越しに見守りやすいようにしました。奥は棚を上下に重ねて高くしました。子どもが左側のベンチにすわったときにコーナーの外側が見えないようにして、遊びに集中できるようにするためです。

また、広さは家具を含めて1畳分程度だったのを、2畳分程度に広げました。間仕切りの棚を一直線に並べて間口を広げ、その分じゅうたんを敷いてゆるやかに空間を区切りました。子どもたちが入っていきやすく、保育室の離れた場所にいる保育者からも見守りやすいコーナーになりました。

2〜3人一緒に並んで遊ぶことを思い描いて、ひとり用のいすだけでなく小さなベンチも作った。牛乳パックを切り開いて作った三角柱を組み合わせて土台を作り、籐家具の柄の布で作ったカバーをかけ、その上に布でくるんだスポンジを置いた。

環境に対する解釈は人によって異なります。例えば、ゾーンを囲ったときに、「外から見えなくなる」とマイナスに思う人、「遊び込めそう」とプラスに思う人が出てきます。実際の環境を通じてお互いの考えを理解しあい、意見の一致を図っていくことが、保育観の共有につながります。

撮影・構成/丸橋ユキ 写真提供/佐藤将之、宝光保育園

この記事の出典  『新 幼児と保育』について 

新 幼児と保育(小学館)

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