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\イベントレポート/「りんごの木夏季セミナー2020 online」HoiClueスタッフも受講しました!

竹原 雅子
掲載日:2021/07/14
\イベントレポート/「りんごの木夏季セミナー2020 online」HoiClueスタッフも受講しました!

例年夏に開催されている「 りんごの木夏季セミナー」。
りんごの木保育クラブ代表の柴田愛子さんを中心として、登壇者たちが保育のこと、子どものことをたっぷりと語り合う講演です。

ほいくるスタッフも毎年参加し、たくさんの学びや思いを深めているこのセミナー。
2020年度は新型コロナ感染予防のため、初めて録画配信で開催されました。
この昨年の講演でのおはなしの一部を、レポートとしてご紹介します。

2021年度の夏季セミナーも、8月にオンライン配信で開催されるそう。
ぜひお楽しみに…

【りんごの木夏季セミナー2020 講演内容】
第1部『今が変えどき 新しい保育!』講師:汐見稔幸さん
第2部『どうにもわかりにくい主体的保育』講師:大豆生田啓友さん
第3部『すべての子どもの学びを保障するとは』講師:木村泰子さん&柴田愛子さん
第4部『Q&A どうしよう私の保育』講師:柴田愛子さん
第5部『子どものうたの選び方』講師:新沢としひこさん

2021年【オンライン】りんごの木 夏季セミナー 申込みスタート!



第1部 『今が変えどき 新しい保育!』講師:汐見稔幸さん

第1部は、これまでなかなか変わること、変えることができなかった“古い保育”を、これからどう克服していけるのかをテーマにした汐見稔幸先生のお話。

そもそも古い(昔の)保育とは、どんな保育を指しているのか。
指導型、集団型、しつけ重視など、古い保育観や慣習が根付いた保育は、江戸、明治、昭和とどんな経緯をたどって今に至ったのか。
歴史的な解説を通して、日本の保育がなかなか変わることができなかった背景についても、理解が深まる内容でした。

さらに汐見先生から見たコロナ禍での現場の様子は…。
少人数保育や異年齢保育を通して「子どもたちにこんな力があったんだ」ということを発見したり、三密にならないようにのびのび豊かに遊べる場所に連れていったり、遊具を工夫することで子どもたちが新たにおもしろいことを見つけたり…
むしろ今まで以上に保育を楽しんでいるという保育者の声が、多くあがっていたのだそう。
子どもと丁寧に関われるようになり、指示や叱責、命令が減ったという声もあったそうです。

「葛藤しながら、一歩出ていく。このコロナがチャンスなのでは? 」

誰もが初めて経験する混乱した状況下での保育でしたが、汐見先生は、この経験を逆手に取って保育を変えていくためのヒントを投げかけられていました。

汐見稔幸さん
東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育者養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長
社会保障審議会児童部会保育専門委員会委員長。
専門は教育人間学、保育学、育児学。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』の責任編集者。



第2部『どうにもわかりにくい主体的保育』講師: 大豆生田啓友さん

“主体的な保育”って、なんだろう?
第2部では大豆生田先生が、いつものように現場の保育者と子どもとの事例を通してお話しされました。

例えば、朝ぐずる1歳児の男の子の事例。
「ぐずる」ことを通して自分を表現しているのかもしれない、という考察や、保育者の関わりによる子どもの変化、「ぐずる」(ネガティブと捉えられる)ことも含め、「自分らしさ」が大事にされることは主体性の重要な核となること…など。

また、2歳児の水遊びを保育者が止めることをせずに見守ったことで、子どもの遊びが広がっていったという事例では…
子どもの“やりたい”を保障することが大切なのは、子どもは満たされることで「幸せ」を実感し、それを大切にするようになる(子ども時代の「幸せ」の原風景)からだということ。
同時にそれは、子どもたちの主体的な「学び」(自己世界の拡大、驚き、探求的な活動 等)を保障することにもつながり、まさに「主体的で、対話的で、深い学び」となること、など。

大人が受容的、寛容的に関わることで、子どもは自分の世界を自分で広げ、 さらには豊かな学びにもつながっていく。わかりやすい事例を通して、ぼんやりしていた“主体的な保育” の輪郭が形を帯びてくるようなお話でした。

その他、
・個性を尊重すると平等性は?
・主体性を大切にすると「わがまま」に育つ?
・なぜ子ども主体の保育なのか?

など、「主体的な保育」と向き合うなかで感じるさまざまな疑問について、丁寧に解説してくださいました。

大豆生田啓友さん
玉川大学教授。日本保育学会副会長。主著に『あそびから生まれる動的環境のデザイン』(学研)『21 世紀型保育の探求』(フレーベル館)『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)『保護者支援の新ルール10の原則』(メイト) 等。



第3部『すべての子どもの学びを保障するとは』講師:木村泰子さん&柴田愛子さん

第3部で配信されたのは、柴田愛子さんと木村泰子さんの対談。
木村さんは、映画『みんなの学校』(2015年)の舞台となった大阪市立大空小学校の初代校長先生をされていました。
3回目となる「りんごの木セミナー」への登壇では、コロナ禍での学校のあり方、子どもたちへの学びの保障について柴田さんと語り合いました。

2020年4月、初めての緊急事態宣言を受けた休校期間中、小学生は学校から配布された学習プリントや教材を使って、自分で学習を進めていくケースが多かったよう。
子どもの学びを止めてはいけないと奔走した学校。
一方で、家庭には子どもの学習のサポートという負荷がかかったり、オンライン環境による学習格差が生じたり、虐待や育児放棄にさらされている子どもを助けることができないといった数々の問題も浮き彫りになったのだそうです。

学校がビジョンとしてやるべきことは、その日困っている子どもを必ず見つけること。
子どもが困っているとき、「助けて」と言える環境を作ること。

「子どもを育てるんじゃなく、子どもが育つ学校を作るべき。目の前にいる子どもと向き合うだけ」

先生がちょっと自分を変えれば、子どもはすぐに変わる。木村さんがご自身の経験から語っていた言葉が印象的でした。

木村泰子さん
大阪府生まれ。2006年に開校した大阪市立大空小学校の初代校長を9年間務める。
「すべての子どもの学習権を保障する学校」を公教育の理念に掲げ、地域住民とともに「地域の学校」をつくることに尽力した。文科省特別推薦映画「みんなの学校」が公開された2015年春に、45年間の教員生活を終え、現在は講演活動で全国各地を飛び回っている。



第4部『Q&A どうしよう私の保育』講師:柴田愛子さん

「いつにない保育をしてると、保育の原点ってなんだろうと…」
そう話す柴田愛子さんは、事前に募集した参加者からの保育現場や子どもにまつわるお悩みに、Q&Aで答えました。

遊びや人間関係の経験が少ない5歳児、コロナ禍で保育日数も少ない中、このまま小学校へ行ってしまっていいの?
30名が過ごす保育室、“ちょうどよい”声の大きさを、どうしたら子どもに教えられるだろう。
正職員だが、嘱託職員やバイトとの格差を感じる。
…など、コロナ禍においてぶつかった保育への戸惑いから、保育者として共感するお悩みまで、様々な質問に対し丁寧に回答されました。

「けんかの仲裁が苦手です」というお悩みには、手が出る、1人対多人数などの事情がない限り仲裁は必要はない、でも見守る必要はあると思う、とアドバイス。
りんごの木保育クラブでは条件をつけてケンカを認めている例をあげ、「子どものことは子ども自身で解決をする、大人がなにかしようと思わなくていい」と話されました。

ほかにも保護者への声かけで心がけたいことなど、長年の経験に裏打ちされた現場目線での回答は、具体的でわかりやすく、温かく、ときに背筋が伸びるような気持ちに。
コロナ禍を理由や言い訳にせず、子どもへのまなざしや保育の原点をシンプルに真正面からとらえることの大切さを感じました。

柴田愛子さん
りんごの木代表。保育者。保育雑誌や育児雑誌などに寄稿。
子育て支援ひろばや保育園・幼稚園・小学校の保護者、保育士や幼稚園教諭の研修会などで講演。37年間「子どもの心に添う」を基本姿勢としている。著書『とことんあそんで でっかく育て』(世界文化社) 等。



第5部 『子どものうたの選び方』講師:新沢としひこさん

保育の中で子どもとうたう歌の選び方をテーマに話をしたのは、シンガーソングライター新沢としひこさん。

毎日の暮らしに彩りを添えてくれる、歌は楽しい!そういう感覚を持っているはずなのに、いざ保育現場で歌うとなると、季節や行事にまつわる定番ソングばかりを選んでいない?
大人が心から「いいなぁ」と思える歌を選んでる…?
そんな問いを投げかけました。

子ども自身が描きたいものや読みたいものを選ぶお絵描きや絵本とは違い、大人側から「この歌をうたおう」と子どもを誘う場面が多いのが歌。
「子どもが心から楽しいなぁと思える歌。それは、保育者自身も心から楽しい、好きだなぁと感じられる歌なんじゃないかなぁ…」
新沢さんのことばは、歌を通じた子どもとのコミュニケーションを振り返るきっかけとなりました。

講演の最初と最後には、新沢さんによる『にじ』『世界中の子どもたちが』の弾き語りが(大好きな曲に包まれ、ぜいたくなひととき…)。
大人自身が歌の素晴らしさを体感しながら、それをどう子どもに伝えていくか、日々の意識の持ち方に変化をもたらしてくれるようなお話でした。

新沢としひこさん
シンガーソングライター。元保育者。神戸親和女子大学 客員教授。
中部学院大学 客員教授。こどもの歌研究所所長。20代の頃、りんごの木子どもクラブで、柴田愛子と一緒に保育を経験する。ファミリーコンサート、保育講習会など全国を回って活動している。


各回約60分、全5部の講演という、聞き応えたっぷりのりんごの木夏季セミナー。
レポートにもかかわらずご紹介がちょっと長く(熱く)なりましたが…
実際には聞かれた方それぞれに、登壇者の語りから受け取ること、見つめ直すことがもっとたくさんあっただろうと思います。


また2021年度「りんごの木夏季セミナー」の申し込みもスタートしていますよ。
今年は新たな登壇者も加わり、さらに子どもや保育への考えを深められる充実した時間を過ごすことができるのでは…!


2021年【オンライン】りんごの木 夏季セミナー 申込みスタート!

昨年は録画配信を行い多くの方にご覧いただけました。
今年のセミナーもオンライン配信をさせていただきます。

今年は6講座にパワーアップ!ぜひお楽しみ下さい!

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