キャンプの再現遊び・キャンプごっこ 〜第52回「わたしの保育記録」佳作〜
第52回「わたしの保育記録」応募作品の中から、佳作を受賞した作品をご紹介。
(一般部門)
キャンプの再現遊び・キャンプごっこ
浪花認定こども園
中屋 裕子
楽しかった経験の後は、必ずと言っていいほど再現遊びが始まる。個々の経験から再現される遊びも面白いが、クラス全体が経験した後の遊びは、イメージの共有がしやすく、作りたいものや、やりたい遊びが伝わりやすい。年長になってからは、伝え合う力がぐっとついてきて、こちらが思いもよらないような発想で遊びを展開していく。春から行事の後の遊び(5月:遠足ごっこ、7月:夏祭りごっこ)を目いっぱい楽しみ、園全体を巻き込んで遊んできた。
今回のキャンプに向かう遊びや活動の中では、「キャンプが終わった後のキャンプごっこが楽しみや!」と、その後の遊びを楽しみにしている声も聞かれた。きっと、このキャンプの後の遊びも楽しい展開になるような予感がした。
1泊2日のキャンプを終え、登園してきた子供たちが、その興奮からいまだ冷めずにいる。「もっと泊まりたかったな。」「僕の作った水鉄砲、すごく水が飛んで面白かった。」「あんな重たいスイカが浮かぶなんて驚いたわ。」「木で作った貨物船が一番早く流れたね。」と、楽しかった思い出に共感しあう子供たちの言葉が、そこかしこで飛び交っている。木工・製作コーナーでは、早速金づちを手に、「川に流した舟、直したいんやってな。今度は、もっと早く進む舟を作ろう!」と、友だちと協力しながら舟づくりの続きが始まる。
子どもの遊びを予想し、その要求にすぐに対応できるように素材やコーナーを用意しておくと、自発的に遊びが広がっていく。その姿からは、キャンプの続きの遊びが広がっていくことを感じさせられる。楽しかった経験からのあそびは、共通のイメージが湧きやすく友だちと会話を弾ませながら遊びに熱中していく。私は、それぞれに楽しんでいることと並行して、キャンプのグループで何か共通の再現遊び(お泊りごっこや、忍者の探検ごっこ等)ができないかと考えていた。子供たちの中から遊びのきっかけになる言葉が出てこないかと、アンテナを張っていると、キャンプに行く前からその後の遊びを楽しみにしていたS男が、もう一回お泊りしたいと言う、友だちの声を聞き、「バンガローを作って、みんなで泊ろう!」と、提案をした。それはいいアイデアだと、クラス全体に投げかけ、みんなでバンガロー作りをすることにした。
グループの仲間とバンガロー作り
グループの仲間と作ることを意識してほしかったので、『グループの仲間がそろってから作り始める』という約束をする。すると、「明日何時に来る?」「8時に集合しようか。」「えー!もっと早く来ようよ。」とグループで相談する声が上がる。次の日から、玄関先には、早く登園した子がグループの友だちを待つ姿が見られるようになる。グループの仲間が登園してくると、「おはよう!待ってたよ!」と声をかけたり、ハイタッチしたりするのが日課となる。グループの仲間の登園が遅くいつまで待っても連絡がない日は、「僕たちずーっと作れんで、Hちゃんに電話してほしい。」という意見が出た。その時すでに最初のグループが作り始めて1時間が経っていた。そこで、保護者の理解とご協力をお願いしたいと思い、電話をすることにした。いつもは登園するのが遅いH子だが、次の日からは、保護者の協力もあり友だちと約束した時間までに登園するようになる。H子が登園すると、グループの友だちが迎え入れ、嬉しそうにバンガロー作りに参加する姿が見られた。
経験を生かしながら、協力して作り上げる
最初に準備した大きくて頑丈な段ボールは、バンガローの大きな枠組みや間取り、大きな家具を作り始めるといいなと思い、出したものである。しかも、大きいので一人の力では運ぶことも立てることもできない。子供たちは自然と声を掛け合い協力しながら作り進めていく。箱を広げて「これ、お風呂にぴったりや!」「こっちは、シャワールームにしよう。」「これは、ベットな。みんな横になってみて。」と友だちと話し合いながらイメージを膨らませていく。それを初めに設置するグループ、バンガローの壁を先に作っていくグループ、「ここ、私たちのバンガローの場所にしよう。」と床に段ボールを敷くグループもいる。N子のグループは、以前の経験から、段ボール同士をくっつけるときはガムテープより紐で結んだ方が良いことを覚えていたようで、手際よく段ボールに穴をあけ紐を通して結んでいく。もちろん紐の先にテープを巻いて穴に入れやすくすることも忘れていない。「K君そっちに紐通すよ。引っ張って。」「わかったよ。もう少しで見えそうや。そこそこ!よし!通ったよ。」N子とK男は言葉を掛け合いながら、どんどん段ボールをつなげていく。なかなかの手際の良さに驚くほどである。
思いを実現できないと涙が出るF男
窓を開けようとI子と段ボールを切っていたF男が突然泣き出した。F男は、「何で全部切ってしまうの?」と怒っている。どうやら二人の思いが違ったようだ。泣かずに伝えられるようになることはF男の課題であり、泣いてしまうF男に気を使って周りの子が自分の思いを言えず、F男の言いなりになってしまうところはクラスの課題でもある。保育者はそれぞれの課題を頭に置きながら、仲立ちに入る。個々の聞く力、伝える力の育ちを支えていくことが集団の育ちに繋がっていく。
支援児のMちゃん
クラスの仲間には、自閉症のM子がいる。お気に入りの空間で過ごすことが多く、集団の中には入らない。1歳児クラスの時から一緒に過ごしてきたこともあり、M子を気にかけてくれるY子I男の姿がある。キャンプグループで、M子はY子がリーダーを務めるグループに入っている。
今回の再現遊びでバンガローを作っている時は中に入らずにいたM子。いつものお気に入りの空間で感覚遊びをしていることが多い。私は、バンガローが出来上がっても、きっとM子は中には入らないだろうと思っていた。しかし、Y子がM子のことを誘いにくると、M子は素直にY子に手を引かれてバンガローに入っていく。そこには、M子が遊べる空間があり、M子の好きなおもちゃが用意されていた。M子が遊ぶ姿を嬉しそうに伝えに来るY子。それを見て、同じグループのO子が「私、Yちゃんがリーダーで本当に良かった。だって、Mちゃんのことよく見てくれるし優しいし。」とつぶやく。支援児を通して仲間関係の育ちが見られる場面であった。
膨らむイメージ
バンガローの形が出来上がってくると、子どもたちの生活は、バンガローの中へと移っていった。バンガローで生活しながら、必要なものがどんどん作られていく。窓、カーテン、シャワー、ごみ箱、カバン入れ、鏡、テレビ、鍵、コンロ、フライパン等それぞれのグループが個性豊かに小物を作りだす。友だちと相談しながら作った物や、自分が考えた物がバンガローに設置されると、よりバンガローに愛着がわいてくるのがわかる。そうして自分の居場所を作り上げていくことで、どんどん変化するバンガローが楽しくて、「ずーっとここで暮らしたい。」「おうちに帰りたくないな。本当にお泊りしたい。」と、お泊り計画を立てようとする姿が見られた。
遊びの終わり
楽しかった遊びも終わりの時が来る。子供たちが始めた遊びの終わりは、子どもたちと相談して決める。まだまだ遊びたいという思いも汲み取りつつ、長い休みに入ることや、ホールを空けなければならないことを伝え、子どもたちに片づけの相談を持ち掛ける。まだ、遊びたい!このままにしておきたい!という意見もあったが、遊びきった満足感からそろそろ片づけようという意見も多くあがった。そのことをみんなで話し合い、子どもたちが納得したうえで片づけの日にちを決めた。12日間続いた遊びの片づけは、たくさんの段ボールをはこび、段ボールのガムテープをすべてはがし、資源ごとに分別していくので、時間がかかるだろうと踏んでいた。しかし、子どもたちの力には、目を見張るものがあり、ホールいっぱいに広がっていた遊びを2時間足らずですべて片づけてしまった。
遊びの中の学び
子どもたちは、友だちと一緒に楽しみ、考え、工夫し、協力しながら遊びを進めていた。その中には、たくさんの学びがあった。やりたいという意欲こそが学びに繋がり、遊びを通して学んだことは、実現する喜びとなる。
子供の育ちを支えるために
私たちの役割は、『個々の願いを読み取りその願いを実現させるための手助けをすることである』そう思いながら、影の役者となって動いてきた。子供が必要としているものを準備したり、時にはアイデアが膨らむように何気なく素材や、遊びを仕込んでおいたりした。子どもの遊びに乗りながら、思いが実現できるように働きかけていくことは、容易ではないが楽しくて仕方がない。
個の願いをとらえるため、アンテナを張り巡らして関わっていても、すべての個の様子を把握し、援助するのは難しい。そこで、関わってくれる保育士(園長・主任・様子を見ていた他クラスの先生)からも話を聞き(情報を提供してもらい)複数の視点から子どもの姿をとらえるように心がけている。今後も、園全体で連携を取りながら『共通体験した後の遊び』を充実させ、子供の育ちを支えていきたい。また、子供たちが意欲をもって遊びや生活を進め、遊びの中から学んでいく事を大切にしていきたいと思う。さらに、クラス全体においては、思いを伝えあい認め合う集団作りを目指していきたいと思っている。
受賞のことば
この度はこのような素晴らしい賞を頂きありがとうございます。
一年の遊びを通して、子どもたちが自ら遊びだす力や発想の豊かさ、保育者の援助の難しさを感じました。豊かな遊びを通して遊びの中に色々な学びがあることにも気づかされ、個と集団の育ちと保育者の願いを確かめ合う充実した活動でした。
これからも、日々の保育の中で子供たちの興味に沿いながら、遊びを通しての学びを大切にして保育を行っていきたいと思います。
最後になりましたが、常に保育の楽しさを教えて下さる園長先生はじめ、日々の保育の中での喜びや悩みを話し合う仲間に支えられていることに感謝しています。ありがとうございました。
講評
國學院大學教授 神長 美津子
この「キャンプごっこ」には、共通体験を生かし、いろいろにイメージをわかして協同的な活動をエネルギッシュに展開する5歳児の子どもたちが登場しています。
12日間を遊びきった満足感や充実感が、みんなで遊んだものを2時間かけてきれいに片付ける行動につながっているのではないでしょうか。
遊びを通して成長する背景にある、子どもの言葉やそのやり取りを敏感に受け止めつなぐ保育者の存在は見逃せません。