幼保無償化を通して、保育の現場で変化したことはある?〜新 幼児と保育 × ほいくるコラボアンケート結果より〜
幼児教育・保育の無償化がスタートして約1ヶ月。
保育の現場でも、変わったこと、変わらないこと、よくわからないこと、不安に感じていること…いろいろなことがあると思います。
ニュースを通して、さまざまな情報が飛び交っていますが、保育の現場の声はあまり取り上げられていません。
そこでほいくる読者のみなさんに実施した、幼保無償化に関するアンケート。
今回、その回答結果を通して、保育現場の現在の様子や課題を読み解いていきたいと思います。
このアンケートは、小学館『新 幼児と保育』2020年2/3月号(2019年12月27日頃発行)とのコラボ企画。
『新 幼児と保育』では、さらに詳しいアンケート結果と識者のコメントが掲載されます。ご覧になってみてくださいね。
アンケート期間:2019年11月5日〜11日
有効回答数:525件
Q1、あなたが勤務している施設や事業は、幼保無償化の対象ですか?
今回のアンケートの回答者の96%が、幼保無償化の対象施設や事業に勤務されている、という結果でした。
Q2、 幼保無償化がスタートして、日頃の保育の仕事に変化などはありましたか?(Q1で「対象である」と答えた人に質問)
意外にも、「ない」という回答が、全体の半数近く。
「よくわからない」と回答した方も、20%近くいました。
「あった」と答えたのは、全体の3割ほどの方々でした。
今回のアンケートを実施したのは11月初旬。
幼保無償化がスタートして1ヶ月、保育現場にはまだ、目に見える変化は出ていない時期だったのでしょうか…
それとも、そもそも現場や保育者への影響は大きくない制度なのでしょうか…?
「あった」と回答した方が、実際に感じたり見たりしている実情について、さらに詳しく答えてくれました。
Q3、どんな変化がありましたか?(Q2で「あった」と答えた人に質問)
・副食代の徴収であったり、一時保育利用の家庭には対象家庭と非対象家庭があったり、混乱している。
(私立認可保育所/主任)
・副食費を現金で集金しているので、その時期になると、空気がピリピリする。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保護者から、今までの保育料より給食費として徴収されるお金の方が高いと言われました。あまりいい反応をする保護者はいない。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・給食費の計算。無償って言いながら無料じゃないじゃんって言う保護者からの苦情、文句。私たちが決めたんじゃないのに…。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育内容などについては何も変わっていませんが、幼児クラスでは、今まで保育料の中に含まれていた給食費を単独で徴収するための銀行振込みのシステムが始まったため、全員に口座登録していただく事務処理が必要になりました。
来年度からは延長保育の料金も手での集金から振込みシステムに変更することになり、乳児クラスの家庭も口座登録が必要で、そのための呼びかけや確認作業を進めているところです。
それが完了する事で、保育士が送迎時間に集金の窓口となる負担は減ることになります。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
年度途中からの切り替りに向けて十分な準備期間を持てなかった園や施設では、運営者は各家庭による徴収額の確認・手続きや保護者への説明業務が、保育者は子どもの送迎時に保護者との現金の受け渡しの作業なども発生しているようです。
結果的に、本来の仕事である保育以外の仕事に追われ戸惑っている、という声がありました。
一方で、
・毎月の徴収が銀行振込になったので保護者との現金のやり取りがなくなった。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・請求業務が楽になった。
(障がい児の発達支援/保育者(常勤・正規職員))
・保育料の徴収の印鑑打ちをしなくてもよくなった。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
という声もあり、幼保無償化をきっかけに事前に集金手続きの流れを整えられた園や施設では、職員の仕事の省力化につながったケースもあるようでした。
さらに具体的な「変化」として多かった回答は、無償化により保護者の意識が変わってきているのでは、と思われる事例です。
特に幼稚園やこども園では預かり保育や延長保育も一部無償化の対象となり、利用者が急増している、という回答がたくさんありました。
・預かり保育が増え、保育人員が足りず、翌日以降の保育の準備が十分にできない。
(公立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・10月以前から預かり保育はないのに、希望が急に増えてしまい人員が足りず断っています…。それに対する保護者からの不満も感じます。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・延長保育、土曜保育など、今まで利用してない人が利用するようになり負担が多くなった。
また、途中入園の子も増えギリギリのところで保育を行なっている。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・保護者が、無償化したのだからと開園から閉園まで目一杯預けようとするので、短時間の就労だから早朝延長のお預かりはご遠慮してほしいことと、なおかつ延長代は別途にかかると伝えたが、納得してもらえていない。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・預かり保育が無料だと思い込み、預かり保育料を払おうとしない保護者が数名(そういう方に限って説明会には出ていない)。
(私立幼稚園/副園長)
・預かり保育の利用が増えそうだったため、やむを得ない人だけ利用してもらう形を取るなど対策を取った。
(私立幼稚園/保育者(常勤・正規職員))
・4年保育(満3歳児)の入園希望が増えた。
(私立幼稚園/主任)
回答からは、預かり保育や延長保育利用者が増えたことに伴う保育者の確保や仕事量の調整が追いつかず、現場にしわ寄せが来ている様子がうかがえます。
数は多くありませんが、
・預かり保育の時間制限などがなくなり、お迎えに早めに来れる保護者が増えた。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・新たにお仕事を始めて預かり保育に登録をする方が増えた一方で、お仕事を少しセーブして利用回数が減っているご家庭も増えたような気がします。
(私立幼稚園/保育者(非常勤・パートタイム))
・今までは保護者がお仕事がお休みでも子どもを預かっていましたが、無償化になってからは、保護者も「保育料払ってるから」と言わなくなり、お休みのご協力をして頂けるようになりました。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
など、一部の家庭で預かり保育の利用回数が減った、就労等の理由がないのに子どもを預けることが減った、という声もありました。
預かり保育利用者や利用回数については、幼保無償化がスタートして、増減の二極化が見られるようです。
そのほか、
・完全無償化される園に子どもが行ってしまい、3月いっぱいで閉園します。
(認可外保育施設/主任)
・特色のある園が増え、子どもたちの取り合いが始まるのでは。保育時間の短い公立幼稚園に通う子どもがどんどん減るのではと心配しています。
(企業主導型保育事業/保育者(非常勤・パートタイム))
・私の市では、幼稚園への申し込みが減り保育園への申し込みが増えたそう。幼稚園は空きが出て保育園はよりオーバーしてしまっているそうです。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
といったような、園の運営に関わる大きな影響や今後に対する不安を感じているという回答もありました。
Q4、幼保無償化について思うこと、感じることなどがあれば、なんでもいいので教えてください!
幼保無償化による変化は特になかったと答えた方も、ほとんどの方が、この質問に回答してくださいました。
中でも特に多かったのは、
・「制度が煩雑で、運営者や保育者も、保護者側も、理解するのが難しい」
・「幼保無償化をきっかけに、待機児童の増加、預かり保育や延長保育利用者の急増による保育者の仕事量の増加や保育士不足が慢性化するのでは」
・「幼保無償化の前に、保育者の待遇改善について社会的課題にしていってほしい」
といった、3つの傾向のご意見でした。
・子どもを簡単に預けられると保護者に思われてしまう不安があります。子育てをラクする手段と捉えられることは、保育者は一番つらいです。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育士確保のためにも、保育士として働きたいと思えるような、責任に見合った給料にするなど、国を挙げて進めるべきだと思う。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育や教育の内容よりも、幼稚園よりも保育園の方が長く預かってくれるからよい(どっちに預けてもよい)と考える保護者がいる事を感じました。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・今後、保護者支援では多様性が求められ、大きく変わってくるのではないか、と思う。対応しきれるのか。漠然とした不安。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・今のところ大きな環境の変化はないが、今後、職員が少ない中でたくさんの子どもをみることになり、一人ひとりの子どもへの手厚い対応がしにくくなることで、保育の質の低下を招くのではないかと不安に思う。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・無償化になることで、家庭の負担が減ったことは率直に良いことだと思います。一方で、保育園の門戸が広がり、本当に必要な家庭が待機児童になる懸念も感じます。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育士の仕事は、子どもの命をあずかり、未来の大人の礎を形成する、大切な仕事です。幼保無償化の前に、男性でもこの仕事を選べば妻子をしっかり養えると確信がもてるような給料にすることを先にするべきだったのでは、と正直思います。
(公設民営認可保育園/看護職(パート))
・保護者と子どもの成長を喜び合い、架け橋になりたいと思い、この仕事に日々取り組んでいます。でも、日々子どもが怪我をしないように見守ることしかできず辛い現状です。保育の質の向上がうたわれていますが、実際にできる環境をまず整えてもらうことが、子どもの成長につながるのではないかと感じます。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育では食育がとても大切です。しかし使える給食費が限られたために、安い食材中心の給食、デザートの削減、手作りおやつの削減など、食の面が乏しくなってしまいました。補助なども無いので、その月に支払えない家庭があれば、またその分を削っていかなければなりません。食育には力を入れたいので、この状況は改善しなくてはならないと思います。
(公立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・保育者は長時間労働、持ち帰りの仕事に追われ、残業手当も早朝手当もなく低賃金でボロボロになりながら働いている。これ以上負担が増えたらますます保育士不足が深刻になるのではないか。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・幼稚園教育がしっかりできない。こども園が増える一方で、質の高い教育ができない。働きたい親のニーズばかりで、子どもの心や実態は置き去りになっている。無償化ではなく、福祉や三歳児教育の充実を図るべき。
(公立認定こども園/主任)
・保育士の時給や待遇が変わらず…預ける側ばかりが優遇され保育士は、ヘトヘトです。また、扶養範囲内で働くパート、アルバイト保育士は、使い捨て!!
(企業主導型保育事業/保育者(非常勤・パートタイム))
・これからまだ預かり保育の子どもが増える勢いです。あってないような定員で、少子化って本当?と思わざるを得ません。研修に行けば質の高い保育を…と言いますが、このような状態では質の高い保育なんてできません!国の政策に矛盾を感じます。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・待機児童は、田舎でも増えてるいるのが現実。都会の方が多いのは知っているが、田舎は働く年齢の人口が減り、実習生も全然来なくて新しい職員が増えない。そんな中、辞めていく人がいるので、残された方が年々大変になっている。
(私立認可保育所/保育者(常勤・正規職員))
・資質向上と言い勉強しろと言うが、代わりの保育者がいないから、なかなか研修にも出られないし、休みもとりにくい。こんなことでは、待機児童が減る前に保育者が減ると思う。
(私立認定こども園/保育者(常勤・正規職員))
・10月直前の行政とのやりとりでは主食費、副食費問題がいちばんピックアップされていたような気がする。いちばん考えたいことは、全ての子どもに平等で質の高い幼児教育を提供するためにどうしたらよいかなのに。
(私立認可保育所/施設長・園長)
多数の回答の中、幼保無償化に対して肯定的なご意見はごくわずか、という結果でした。
スタートしたばかりの中、日常の保育や仕事に何らかの変化があったと感じた方は全体の3割ほどですが、今後の動向や、来年度以降の影響に対する不安や心配を感じている方はとても多いようです。
最後に、回答してくださった方々の勤務形態や立場をご紹介します。
Q5、今のあなたの立場で、いちばん近いものを教えてください。
Q6、あなたの勤務先の形態をおしえてください。
回答者の勤務先は認可保育所が47%、認定こども園が25%、幼稚園が16%で、全体の85%が保育者(常勤・正職員、非常勤・パートタイム)。
また主任(8%)、副園長(2%)、施設長・園長(4%)の立場である方々からも回答をいただきました。
このアンケートは、小学館『新 幼児と保育』2019年2/3月号(2019年12月27日発行)とのコラボ企画。みなさんの回答結果をさらに読み解いた記事が掲載される予定です。
アンケート回答にご協力くださった読者のみなさん、どうもありがとうございました。
500件以上という数多くの回答から、今、保育に携わるみなさんの関心がとても高いテーマなのだということを、ほいくる編集部も実感しました。
幼保無償化による保育現場での変化について、今後も定期的にみなさんと一緒に考えていく機会をつくっていけたらと思っています。
関連情報:“新 幼児と保育”について
新 幼児と保育(小学館)
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