「保育者だって、謝ってやり直せばいい」あんず幼稚園の考える、保育者の役割と在り方
埼玉県入間市にある“学校法人アプリコット学園”が運営する、「あんず幼稚園」。
(園や保育の詳しい様子はこちら)
自由に遊びまわり、そして遊び込む子どもたちの姿。
一つひとつ意図をもって作られた、環境。
あんず幼稚園の保育はどんな想いから成り立っているのか、園長の羽田 二郎さんにお話を伺いました。
遊びを中心とした生活
ー改めまして、今日はありがとうございます。
どうでしたか、ゆっくり見られましたか。
園長の羽田二郎さん。保育への熱い想いをたくさん語ってくださいました
ー 子どもたちがクラスという枠だけにとらわれるのではなく、園舎の好きなところで、好きな人と共に過ごし、遊びこんでいる姿が、とても印象的でした。
あんず幼稚園は、遊びを中心とした生活を基盤にしています。
子どもが「やりたい」と思えること、そのために自分から主体的に遊ぼうと思えるような環境を作っていくことが大事だと考えていて、園内のどこでも過ごせるようにしているのも、そのひとつです。
他のクラスや回廊デッキ、園庭をぐるぐる回っているだけでも楽しいという子どもの姿もあったりしますよ。
回っている中でいろんなものを目にして、 目についたものが興味関心の対象となり、その子の世界を広げているんでしょうね。
今日も、ドーナツ屋さんごっこをしている子どもたちがいたでしょう。
その中でいろんなクラスにインフォメーションして回るという役をやっていた子がいたと思うんですが、実はそれは1学期の間に、年中や年長がお店やさんごっこの中でやっていたことだったんです。
作ることや売ることではなく、お知らせをする姿に憧れて真似をした。あの「ドーナツうっています」って歩き回っていた子たちは、ドーナツは自分たちでは作ってないですからね(笑)。
自分のクラスの中だけで遊びを完結しなくてもいい環境がある。そうすることによって、遊んでいる子にとっても、周りにいる子にとっても、いろんな出会いと発見が生まれ、そこで発見してきたものがとても魅力的だと真似をして自分の遊びへと展開していくという姿がでてくるんだと思います。
ー 開かれた空間で混じり合うということが、日常の中で自然と行われているからこそ、見られる子どもたちの姿だなと感じました。同時に、保育者の動きや連携が難しそうだなあと。
各クラスや園庭の各担当がコミュニケーションをしっかりと取ることは意識しています。
特に、ベテランの先生と1・2年目の先生がお互いを補い合うこと。保育者同士の連携がうまくいっていないと、やっぱり子どもたちも自分のクラスではない部屋に行ったら、緊張してしまいますからね。
おしゃべりからうまれる、保育者の連携・保育の質
ー 具体的にどのようなことを実践されているのか、ぜひ教えてください。
園内研修と外部研究会をやっています。 でも、一番大事なのはおしゃべりの時間かなと。
ー おしゃべりですか。先日、玉川大学の大豆生田先生にお話をお伺いしたのですが、その中でも「保育者間のおしゃべりが保育の質をあげる」という話がでてきました。
15時半から30分間、毎日「お茶の時間」をみんなでとっているんです。やらなくちゃいけないこともあるかもしれないけれど、この時間だけは部屋に戻らないでみんなでお茶を飲む。そして世間話をする。そうすると、保育や子どもの話に自然となっていくんですよね。
お茶の時間以外には、保育中での立ち話、掃除中での立ち話。
そういうところで「◯◯ちゃんが今日こうだったんだよ」という話を共有する。自分のクラスで必ずしも子どもたちが過ごしているわけではないので、情報交換を立ち話でして連携をとっているんです。
ー 幼稚園ってクラスが明確に分かれていたり、一人担任制をとっているところが多いので、保育園と比べてもより、チームで保育するという意識を持つのが難しいかなと思っていたのですが、あんずさんではおしゃべりを通してチームをつくっているんですね。
クラスによって、保育の質が大きく異なるという経験もしてきましたが、なるべくそういうのは少なくしたい。
だからこそ、経験のある先生たちに、若い先生たちには「用があればおいでよ」ではなくて、自分から積極的に話をしに行ってくださいと伝えています。
困っている時に声をかけられるような関係性をつくるのは、経験のある先生たちの役割だよねと。
あと、自由に子どもが遊んでいると放任みたいに言われることもあるじゃないですか。でも、「遊ばせとけばいいよ」という放任でやっているわけではないわけです。
人は体験していないことはやらないので、 体験をどのように子どもたちに伝えていくのか、やったことないことをどのようにその年齢の子どもたちの発達に合わせて提案し、自由な遊びをより豊かにしていくのかということを常に考え、その中で自由な保育は成り立っている。
そして、そこから作られるのがカリキュラムだと思うのですが、カリキュラムも一度立てたら終わりというものではないと考えています。子どもの姿からカリキュラムは見直して、変えていくべきものだと。
なので、職員会議にはあまり重きをおかず、学年会議で今の子どもの姿を中心に置きながら、話をする時間を大切にしています。
節目の行事というものも定めていますが、毎年子どもの姿で何をするかは変わっていく、変わっていいだろうと捉えています。
行事は、日々のなかの一日に過ぎない
ー 行事を保育のなかでどう位置づけるのか、そして当日までどう取り組むのか、扱い方ってとても難しいなと思います。
あんずでは、元白梅学園短期大学付属幼稚園園長の久保田浩先生(1916〜2010)が提唱した「保育の三層構造」を参考に、保育を考えています。
ー 保育の三層構造、ですか。
第一層は日常生活である「基底になる生活」。
第二層が「中心となる活動」。
そして第三層が「積み上げる活動」。
あんずには運動会以外に、制作展、生活発表という大きな取り組みがあるのですが、運動会を含めたこの3つが、第二層の「中心となる活動」にあたります。
第一層である日常生活がベースにあって、それが膨らみ、共有する目標がはっきりと現れることによって、中心となる活動は展開される。日常の中で培ってきた力が中心となる活動で発揮されて、発揮されたことでもっと個人の力というものが日常の中に戻ってくると考えているんです。
だから運動会でいうと、この時期にやるからこそ育てたいことは何なのか、育てたいものがあるとすれば、それに向かって子どもたちが意欲的に取り組めることは何なのか、保育者は子どもたちの今の姿や育ちに寄り添いながら、内容を考えて、提示しています。
そうすることによって、子どもたちの中でイメージが広がり、自分たちがつくる運動会なんだという気持ちで、種目を決めたり、準備、運営をする姿が見られるようになっていく。
ー 子どものやりたいという気持ちを大切にしているあんずさんだと、子どもたちが一から考えているのかなと思ったのですが、保育者が提示をしているんですね。理由があれば、教えてください。
もし仮に、保育者からの働きかけがない中で「運動会の種目を決めていいよ」としたら、基本的には今まで体験した中から出てくることになると思うんです。 何もないところからアイデアって出てこないですから。
そうなると、毎年毎年同じものをやるようになって、子どもたちが新しいことにチャレンジする機会がなくなってしまう。
だから、種目になりそうな遊びやゲームを保育者からの働きかけで、1学期から何度かやっています。
年中組は今年「海賊ごっこ」を行いますが、海賊というアイデアはそういう遊びの積み重ねから生まれました。
ー 子どもたち自身が経験したことだけでいくと1と2しか出てこないものを、実は3も4も5もあるんだよと選択肢を増やすという意味で、保育者が提示しているということですね。
その通りです。あと、あんずの子どもたちにとっては行事当日が本番という意識が少ないかもしれません。
今日も保育を見てもらう中で、年長組がリレーをしていたと思うのですが、毎日優勝カップを目指してリレーしているんですよね。その姿は運動会当日にもあるんですけど、また次の日から争奪戦になるんです(笑)。
もちろん、当日親が見に来るというのはありますよ。でも子どもたちにとっては、毎日の争奪戦の中の一日という位置づけだと思います。
ー なるほど。運動会というものが全然違うものに見えてきますね。
子どもたちの中に緊張感というものも一切ないんですよね。毎日やっていることの一日に過ぎないので。
そういう姿を見ていると、行事というものを大人の固定概念で考えないようにしようと、改めて思います。
見守るだけではなく、アクションも起こしてみる
ー 先ほど保育者間のコミュニケーションの取り方や関係性の築きかたについてお話いただきましたが、最後に、子どもとの関わりの中で大事にしていることもぜひお伺いしたいです。
アクションを起こしてみるということを大切にしています。
最近、見守るということが保育のなかで大きく取り上げられていて、もちろんそれも大事だと思うのですが、こちらが見えていない子どもの姿はいっぱいあるだろうから、「話しかけて想いを聞き、それを受けとめて、また話しかける」ということを繰り返すことがとても大事だと考えています。
ー こちらが子どもの気持ちに心を寄せ、想像することも大事だけれど、それが本当にそうかどうかは本人しかわからないと。
そう、ただ黙って「ああ、そうなんだ」と見ていただけでは、分からないことはあると思うんです。だから確かめなきゃいけないですよね。
子どもに聞いてみると、思っていたことと全然違うということもありますから。
ー たしかにと思う一方で、子どもとの関わりを一つひとつを大事にしたいなという思いや、私たち大人が子どもに与える影響の大きさを知っているからこそ、アクションしづらくなるということもあるかなと思いました。
子どもとの関わりは、瞬時に判断しなければならないことが多いし、 判断がものすごく難しいこともたくさんあると思うんです。でもその判断って、その保育者が生きてきた価値観の中で判断するわけだから、間違いはないわけです。
そして、もし子どもの反応を見て、自分のやり方はちょっと違ったかもしれないなと思ったら、 謝ればいいし、やり方を変えてやり直せばいい。
そういう風に保育者も気持ちを外にだしながら、子どもと「確かめあう」ことも大切なんじゃないかなと思うんです。
取材・文:三輪 ひかり
写真:雨宮 みなみ
前編: 「遊びを中心とした生活を大切にしよう」ーあんず幼稚園(埼玉県入間市)
子どもの「やりたい!」を刺激し、遊び込める豊かな環境。
「きのうのつづき」がうまれる生活の中には、保育者のみなさんの想いとたくさんの工夫がありました。