保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「保育は、必ず変えられる。」大豆生田先生が提案する、今からできる4つのこと

三輪ひかり
掲載日:2020/01/31
「保育は、必ず変えられる。」大豆生田先生が提案する、今からできる4つのこと

(写真)書籍「日本が誇る! ていねいな保育 - 0・1・2歳児クラスの現場から-」より、まちの保育 吉祥寺・(株式会社)ナチュラルスマイルジャパン/東京都武蔵野市

前編(大豆生田先生と考える。日本の「保育の質」ってなんだろう?)を通して、日本の保育の質は、「子どものこころもち」を大事にすること、子ども主体の遊びや生活を大切にすることだとお話してくださった、大豆生田先生。

後編では、子どものこころもちを大事にした保育を行うためのヒントを伺いました。


1)   保育はとても重要な素晴らしい仕事

ー 子どもに寄り添う、丁寧できめ細かな保育がしたいと思いながらも、今自分がいる現場ではそれが難しいという保育者の方も多くいると思うんです。その時に、それぞれの現場でできることは何なのでしょうか。

まずは、保育者のみなさんには、保育って子どもたちのその後の人生にも影響を与える、大事な、素晴らしい仕事なんだということを知ってもらいたいです。    

大豆生田 啓友

青山学院大学大学院修了後、幼稚園教諭などを経て、玉川大学教育学部教授。
保育の質の向上、子育て支援、などの研究を中心に行う。
NHK Eテレ「すくすく子育て」でも活躍中。すく子育て」でも活躍中。著書に『あそびから生まれる動的環境デザイン』(学研教育みらい)、『21世紀型保育の探求ー倉橋惣三を旅する』(フレーベル館)など多数。

日本社会からは、保育者の社会的価値についてまだまだ十分に理解されていません。でも、忘れないでほしいのは、目の前の子どもは、あなたとの関わりの中で元気づけられたり、自分の尊厳みたいなものを回復したりしている、ということ。

もしかしたら、「私はそんな保育できていないよ」と思う人もいるかもしれません。
でも、そうではないのです。
あなたが目の前でぐずっている子を抱っこしてくれたり、泣いている子をぎゅっと抱きしめてくれたり。その目の前の子がそれでどれほど救われているか。それは、あなたが思うより、もっとずっと重要なことなんですよ。

日本保育学会第5代会長の津守眞先生も「保育は一日一日が大切だ」とおっしゃっていますが、日々の一瞬一瞬の中でどう子どもと関わり、見守るのかが大切なのです。
園の方針の中で難しいこともあるかもしれないけれど、その子の大切な乳幼児期を保育者は支えているのです。

だから、あなたがいるということが、あなたが子どもと出会うということが、それは小さなことかもしれないけれど、とても意味があること。
そして、できることは溢れるほどあるはずだ、ということを、改めて保育者の皆さん自身に知ってほしいです。


2) 「よさ」に着目しよう

ー 一人ひとりにできることはあって、保育は変えられると。

そうです。「うちの園ではそれはできない」「変わらないんじゃないか」と思う人もいると思うんですけれど、保育は変えられます。それは大きくは変えられないかもしれないけれど、小さなところから変えていけるのです。

その一つとして、僕は「よさをみる」ということを提案したいです。


ー よさをみる。もう少し具体的に教えてください。

保育の仕事をしていると、マイナス面ばかり気になることがありますよね。
子どもに対して「◯◯くんはいつも座っていない」「噛みつきが多くていやなのよ」とか。
「親の育て方がダメだから」、「〇〇先生はいつもダメだから」と、保護者や同僚に対してネガティブに思ってしまうこともあります。

もちろん、愚痴を言いたくなることだってあると思います。それはいけないことではないし、それ自体を否定しているわけではないです。
だって、保育の仕事は肉体的にも精神的にも疲れることが多いし、ついそんな気持ちにもなりますよ。でも、愚痴を言うのはいいけれど、それだけでは保育はよくはならないですよね。

だから、まずはマイナスに見えがちな子どもの姿の「よさ」に着目するところからはじめてみませんか。
その子のいいところを発見しようとするのです。

でも、「よさ」って、丁寧に見ないと気づけないんですよね。
悪いところを見るのは簡単ですけど、良いところを見つけるのは、ちょっとエネルギーが必要なんです。


ー たしかに、よく見ようとしたり、その背景にあるものにまで目を向けようとしたりしないと、良いところに気づけないことってある気がします。

たとえば、座らない子がいた時に、その子がなぜ座らないかを丁寧に見ようとすると、「この子はやりたいことがいつも中途半端だから気持ちが切り替えにくいのかも」と、その子がなぜ座れないのか、が見えてくるのです。
そうすると、「この子のやりたい世界ってこういうことがあるんだ。じゃあ、それを満たせるように関わってみよう」と、その子との関わり方や環境のつくり方が変わっていく。

だから、保育はプロの仕事なんです。マイナスの指摘は素人でもできます。

そういう意味でいうと、丁寧さというのは、目の前の子自身の「よさ」を見出していくということの出発点にもなるかもしれませんね。


3) 「振り返り」をしよう

その時に必要不可欠なのが、「振り返り」です。

例えば、噛みつきがあった時に「噛みついちゃってダメだよね、減らさなくちゃ」ではなくて、「今日、◯◯ちゃんあんなに噛みついていたんだけど、なんだったんだろう」と振り返ってみる。

もちろん、噛みつきを減らすノウハウはあるかもしれないですけれど、それよりもまず「この子が噛みついちゃう気持ちって何なんだろう」ということに着目して、振り返るんです。
それが、きめ細やかさや丁寧さですし、そういう振り返りが保育の質を担保していくことにも繋がっていきます。


ー この振り返りは、複数人でやったほうがいいですか?それとも一人でやってもいいものでしょうか?

それぞれの良さがありますね。でもまずは、「◯◯ちゃんのあれ、なんだったんだろうな」、「◯◯くんのあれ、面白かったな」と、自分で振り返ることをおすすめします。


振り返りというと、記録を書かなくちゃいけないと思う人もいらっしゃるんですけど、僕は記録は書かなくちゃいけないものじゃなくて、そのことを書き留めたい、考えてみたいという時に書けばいいと思うんです。

人って書くことで、自分と対話しますから、自己内対話のひとつの方法として記録をしてみるのはいいかもしれない。

喋っちゃったほうが早いという時もあると思います。
人と振り返りをすると、他の見方が入ってパーっと開かれることもあるし、言葉にしてみることで自分の考えの中に新しい発見をすることもありますしね。


4) おしゃべりと発信をしよう

もうちょっと言えば、振り返りはかたいと思うので「おしゃべり」でいいと思います。

そして、そのおしゃべりは保育中でもどんどんやればいい。先生たちは時間がないから、そのために時間をとるのはほんのちょっぴりでいいと思うんです。

なんなら、園内研修はおしゃべりでもいいんじゃないかと思いますよ(笑)。


ー おお、そんなにおしゃべりは重要ですか。

「◯◯ちゃんが、こんなに素敵で、面白いんです」と、周りの人と話をする。
その面白さは人に伝わって、周囲を変えていく力があります。そう見られている子ども自身も変わっていくし、その保護者も変わっていく。

そして、「子どもってこんなに素晴らしいんだ」と保育者自身が思えると、結果的に保育も丁寧になっていくと思うんです。
「保育を丁寧にしましょう」じゃなくて、そうする中で「丁寧になっていく」。
だって、子どもってこんなに面白いんですもの。


子どもにとって園とは


ー 最後にひとつ。大豆生田先生は、子どもにとって園という場がどんな場であるといいなと思われているのかお聞きしたいです。

保育園って昔から「おうちのような場所」と言われてきたんですよね。子どもたちが普段過ごしている家庭はあるけれど、もうひとつの家庭として保育という場がある。

それはつまり、子どもが自分らしくいられる場所ということだと思うんです。しかも、たくさんの多様な子どもの群れの中での居場所です。

家庭が核家族化して小さくなっていますから、もうひとつ大きなおうちがあるというのは、今の時代、子どもたちにとってとてもメリットがあると思います。
いろんな人からいろんな刺激を受ける。自分が嫌いな食べ物も他の子がおいしそうに食べていれば「じゃあ、おれも食ってみようかな」とそんな風にして、苦手だったものを食べ始めるのもそのひとつです。

自分らしくあるというのは、自分勝手でいいということとは必ずしも同じではなくて、他の人の面白いものに触れるから、ついつい自分の世界は広がるし、いろんな子たちといるから自分もちょっとは我慢しなくちゃいけないことがでてくるということだと思うんですよね。

だから園という場所は、子どもたちにとって「本当に私は私らしくていいんだ、でもみんなと一緒の場所でね」という場所であるといいなと思います。

そして、保育者という人は、そういう子どもたちのことを温かく見守りながら、でも自分も自分らしく、そこに関わる人なんじゃないでしょうか。


関連書籍

▶「日本が誇る! ていねいな保育 - 0・1・2歳児クラスの現場から-」著/大豆生田 啓友、おおえだ けいこ(小学館)


前編: 大豆生田先生と考える。日本の「保育の質」ってなんだろう?

大豆生田先生と考える。日本の「保育の質」ってなんだろう?

共著書「日本が誇る! ていねいな保育 - 0・1・2歳児クラスの現場から-」(2019年7月発行)を小学館より出版された、玉川大学教育学部・教授の大豆生田啓友先生。

大豆生田先生がここで述べている“ていねい”とは、“保育の質” とは何なのか。
じっくりお話を伺いました。
 



取材・執筆:三輪ひかり
写真:雨宮みなみ