「自らを生き、共に生きる」ー うらら保育園 (東京都葛飾区)
今回訪れたのは、東京都葛飾区にある“社会福祉法人清遊の家”が運営する、「うらら保育園」。
まるで誰かのお家にお邪魔したような感覚になる、時間の流れかた、居心地の良さ、そして、人と人との関係性。
「自らを生き、共に生きる」ー保育理念であるこの言葉が、まさにうららの暮らしの中にありました。
うららの暮らし
「暑い中、よくきてくださいました。」
そう言って出迎えてくださったのは、今回お話を伺う織田澤 笑子さん。
うらら保育園に勤めて3年、現在、主任保育士をしていらっしゃいます。
門をくぐるとまず目に入るのが、大きな縁側。
庭と園舎、部屋と部屋を緩やかに繋げるこの縁側を、子どもたちは好きなように行き来します。
場を繋げるだけでなく、人と人を繋げる役割もある縁側。
誰かが遊び始めると、自然といろんなところから、いろんな人が集まってくる場面も。
10時頃、各々好きなところで遊んでいた子どもたちが、ちゃぶ台の周りに集まってきました。
「大人が『今日はこれやろう』とかではなく、朝のおやつを食べながら『今日は何する?』と、話をすることから一日が始まるんです」と、笑子さん。
今日のおやつは、きゅうりと自家製の梅干しです。
んー、美味しそう。
室内をよく見ると…
障子で部屋が分けられていることに気がつきます。
3〜5歳は、異年齢保育を実施し、3つのグループに分かれて生活をするために、このような環境になったのだそう。
そして更にユニークなのがクラス名。
担任の苗字を入れて「◯◯家」と呼びます。
「うららのコンセプトは「下町の長屋暮らし」。隣り同士のおうちで暮らしている、擬似家族がいるというイメージなんです。だから、幼児三家は担任の名前で「◯◯家」と呼ぶし、一つひとつのクラスが壁で隔たっているのではなく、オープンにつくられているんですよ。」
その言葉通り、子どもたちは、自分の家と他の家、廊下や縁側を行ったり来たりし、その姿に、近所で遊ぶ子どもたちを連想します。
0歳児室も、1歳児室も、ガラス張りや障子になっていて、周りを感じられるような空間になっているというのも、特徴的。
他のクラスの子どもの存在を身近に感じ、自然と興味や関わりが生まれる瞬間が、この日も何度も見られました。
いい匂いがしてきたぞと思ったら、給食室でつくられたお昼ごはんが、少しずつ廊下に並びはじめます。
給食の匂いが、子どもたちを呼び寄せる。
お腹がすいた人たちが、そっと覗きにくる姿がなんとも言えません。
自然と子どもたちの気持ちは、「そろそろごはんにしよう」に向いていく。
自分の分は自分で配膳し、食べたい人から食べ始めるのが、うららスタイルです。
誰かが食べ始めると、それにつられて他の人も食べにくる。
ちゃぶ台がいくつも並び、美味しいごはんと会話をたっぷり楽しむ様子は、まさに大きな家族そのものでした。
うららのこだわり
【丸いちゃぶ台】
家族(クラス)の団欒や食事など、ちゃぶ台を囲むひとときを大切にしています。
丸い形は、座る場所も、人数も、座り方も、思いのままに変化する。
「もの」が伝える関係性や距離感が暮らしの中で養われてゆきます。
【食の器】
両手で包むとあたたかな感触、食材の彩を邪魔しない和洋の食器にこだわっています。
おひつ、飯台、竹や藤のかご等で食事の美味しさを引き立てます。
幼児三家になると、それぞれの柄の異なるMY箸とMY茶碗が園より贈呈され、愛着をもって卒園まで大切に使います。
【障子】
障子の反対側に映る人影、反射、そして息遣い。誰かいるんだな?と気配を感じること。
そして、その人が誰かうっすら分かること。
障子という紙で分けられた空間。
お互いの空間を尊重し合い、うららの空間をそれぞれに分けて共有しています。
障子を破いてしまったら…そこから、長く大事に使う暮らしの知恵や約束事を学んでいきます。
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一つひとつこだわりのある、道具や環境。
一人ひとりが尊重された、時間の流れと関わり。
うらら保育園の豊かな生活の秘訣はどこにあるのでしょうか。
じっくりとお話を伺ったインタビューは、後編でお届けします。
取材・文:三輪 ひかり
写真:雨宮 みなみ