「なんでもありのようで、なんでもありじゃない」_ 子どもの「やってみたい」を支える、東江幼稚園の環境づくり

今回訪れたのは、東京都葛飾区にある学校法人東江寺学園 東江幼稚園。
(前編記事はこちら)
園を見学するなかで、特に印象に残ったのは、生き生きと遊び、思い思いにチャレンジする子どもたちの姿でした。
その姿を支えているのは、どんな環境や関わりなのでしょうか。
後編では、園長の浅井正信さんに、東江幼稚園の保育についてじっくりとお話を伺いました。
「やってみたい」を、自分で選べるように
_ 園の特徴を教えていただけますか?
園の特徴は、全部で4つあります。1つは、お寺の幼稚園なので、仏教行事を大事にしていること。そして残りの3つが、「しなやかに動かせるからだ」「人と関わる力」「自然から学ぶ体験」。そして、その中で「子どもが自分で選ぶ」ということを大切にしています。
今日も、水遊びをものすごくやっている子もいれば、全くやらないで鶏とだけ戯れている子もいたと思いますが、いろんな子がいていいんですよね。

今年の2月には、冬なのに「水遊びをしたい」という子もいたんです。「今日は2月にしてはたしかに暖かいけど、でも寒いよ」と言っても、「どうしてもやりたい」と。「びっくりバケツ」っていう緑色のバケツがあるんですけど、あれを出してくれって言うんです。「ほんとにいいの?」って聞いたら「いい」と言って、15分くらい水遊びをしていました。その時は、その子1人だけ。

他の子たちは、「焚き火がいい」という子がほとんどでした。でも、自分で選ぶと、2月の寒い時の水遊びも楽しいんですよね。逆に、寒い時や自分がやりたくない時に大人から「水遊びしなさい」と水をかけられたら、水が嫌いになるのが普通だと思うんです。自分で「やりたい」と思ったら、どんなことも吸収するし、自分の経験になる。積み重ねになっていく。だから、いろいろ選べること、子どもが決められることを、できるだけつくろうとしています。全部を大人で決めすぎないようにしよう、と。
_ 「自分で選ぶ」というところでいうと、つくられた遊具も、遊び方が一つじゃないものがすごく多いというのが、見学させていただいて印象的でした。
そうですね。特に遊具は、「自分で登れるなら、高いところに行ってもいい」というのが全体のルールです。さっき見た楠の木登りでも、縄梯子みたいなところから登る子もいれば、丸太のところから登ったり、裏側にあるブランコから登ったり、いろんなところから登っています。

もちろん、多少のルールはあります。高いところに物を置かない、上から物を投げない、落下した時のために遊具の周りに置いている保護マットの上には三輪車を置かない、とか。でも、それ以外はできるだけ、子どもがどこから登ってもいいし、上で寝転がってもいい。
泥んこ遊びをして、遊具に泥を塗りたくることもあります。「じゃあ、最後みんなでキレイにしようね」というところまでやればいい。そうやって、いろんなことをしていいようにしています。
_ 今は社会全体として、危ないものや危険なものを排除する方向にあると思いますが、ここには「危険かもしれないけれど、挑戦できるもの」がたくさんありますよね。でも、なんでもありのように見えて、実はなんでもありではない。その加減が絶妙だなと感じていました。
ありがとうございます。例えば、「いつも真っ暗」という遊具があるんです。立方体、長方形の形が3つつながっているんですけど、あの高さは「年少が登れるけど、簡単には登れない高さがいいな」と思ってつくっているんです。みんなで、「ちょうどよさそうだね」とか「ちょっと低かったから、下に丸太を入れて10センチ高くしよう」とか、そういうことを繰り返しています。

子どもたちには、ちょっとずつ挑戦して、「できた」というのを味わってもらいたい。低いところだったら、失敗して落っこちても大きな怪我にはならないので、失敗するんだったら低いところで失敗してほしい。一番高いところで失敗しないだけの力と経験と、それを登りきる意志を育ててから、高いところに挑戦してほしいという願いもあって、いろいろつくっているんです。
「危険」と「安全」の間で、大人も挑戦する
_ 子どものやってみたい・挑戦してみたいという気持ちが、私たち大人が思っている以上にあるんだろうなということを、今日、東江幼稚園で過ごさせてもらいながら強く感じました。一方で、これだけいろんなことができる環境だからこそ、先生たちもその都度、判断が必要なんだろうなとも思いました。
そうですね。職員でよく話し合いをします。「去年まではやっていたけど、今年はちょっと無理だね」とか、「この時期は中止しましょう」とか、「こういう約束をつくってみたら、大きく禁止しなくてもいいよね」というように、一度こう決めたからそのやり方でというわけでなく、その都度話をすることを大切にしています。
この間も、砂場にある井戸水を出すポンプのカバーをどうするか、という話になりました。指を挟むと心配なのでカバーをつけていたんですけど、カバーがあると中の構造が見えなくて、仕組みがわからないんですよね。

「ここに水が溜まって出てくるんだよね」「ポンプを動かしてもスカスカっていう時は、ここに水がないんだ」と、そういうことを子どもたちにわかってほしい。だから「じゃあカバーを外そう」となったんですが、いざ外してみたら、今度は指を挟んでしまうかもという話になり、カバーを改良して、どちらも叶うような形にしました。
でも、また先生たちから「改良したけど、やっぱり危ないと思う」という意見が出てくることもある。そうしたら、また安全なほうに戻して、その間にみんなで考える。絶対安全とか、絶対大丈夫とか、絶対危険とか、そういうところじゃないところで、どこまで挑戦させられるか。大人も挑戦しているというか、日々試行錯誤です。

絶対にこのやり方、ということではなくて、その子に合わせたり、その時の環境に合わせたりして、調整していく。そこが難しいところでもあるけれど、保育の面白いところでもありますよね。
「めんどくさい幼稚園」で、人と一緒に生きる
_ 学年ごとのクラスはありながら、縦割りのグループもあり、日頃は異年齢で過ごしているということでした。縦割り保育には、どんなよさを感じていますか?
人としっかり関われるチャンスをいっぱい増やせるなと思っています。
さっき子どもたちがやっていた白玉団子づくりでも、年長がリードして、年少・年中も取り組むという姿が自然と起こります。
エプロンをつける時なんかも、リボン結びをしないといけないので、自分でやるのが難しい年少さんには年長さんがやってあげるんです。そうしてやってもらっているうちに、だんだん自分でもできるようになっていく。そして、自分がしてもらった経験があるから、学年が上がって今度は自分より小さい子が来たときに、やってあげる立場になるんです。
いっぱいやってもらった子は、大きくなったときに、「やってあげる子」になってくれているんですよね。「私が年少だったとき、お姉さんの〇〇ちゃんがやってくれた。だから私も、年長になったからやってあげるんだ」って。そういうことを、子どもたちは結構はっきり、リアルに覚えているんです。

一方で、異年齢で過ごすからこその難しさもあります。年少・年中・年長が一緒にいると、どうしても真ん中か、ちょっと下くらいの子に合わせるような活動になってしまって、年長さんにとっては、物足りないことが多くなってしまう。
だから、保育者はそれぞれの年齢の発達をちゃんと把握して、異年齢で一緒に生活しながらも、年長には年長が満足できるような機会やチャンスを、うまく設定していくようにしています。

_ クラスやグループは毎年変わるんですか?
変わらないんです。同じ学年の子は、3年間ずっと一緒です。なので、もちろんその中には、喧嘩をしたり、相性が合わなかったりする子もいます。でも子どもたちはその中で、自分のことを知ってもらったり、相手のことを知ったりしていって、いろいろなことがある中で関係をつくっていく。
それは子どもたちだけじゃなくて、保護者の方も一緒なんですよね。
「小学校に行っても、子どもが20歳になっても、ずっと親同士でつながっています」という話を聞くこともありますし、「気が合わない人とも付き合っていかなきゃいけない大変さもある」と聞くこともあります。
それも含めて、以前、保護者の方から「めんどくさい幼稚園」って言われたことがあるんです。しかも、それをキャッチコピーに幼稚園のポスターまで作ってくれて。「『めんどくさい幼稚園』なんてポスターにしたら、人、入んないんじゃないの?」って言ったら、「いや、これぐらいのほうが刺さるし、それぐらいの覚悟を持ってきてもらったほうがいい。それができたら、全然大したことないから楽しめる」って(笑)。

_ 今日も保護者の方がサークル活動で縫い物をされていましたが、保護者の方の関わりしろも、すごくたくさんありますよね。
そうですね。保護者の方のサークルも14個ほどあって、陶芸、コーラス、リコーダー、手芸、染めなど、自発的にやりたい人がやっています。
先日も七夕コンサートがあって、お母さんたちがバイオリンやホルン、フルート、リコーダーなど、いろんな楽器を演奏してくれました。子どもたちは生の演奏を聞くことができるし、保護者のみなさんも楽しんで演奏している。とてもいい風景でした。

あと、「お母さん先生」「お父さん先生」と言って、保護者の1日保育体験の日も設定しています。
「今日はいつも通り自由遊びをしています。大人も自由に遊んでください」と伝えると、お父さんも一緒に水遊びを始めて、びしょびしょになって。「今日、濡れるつもりじゃなかったのに(笑)。でも楽しいですね」って。実際に体験してみると、わかってくださるんですよね。
ツリーハウスも、下から見ていると「早く登ればいいのに」「20分もかけて、何を躊躇しているんだろう」って思うんですけど、実際に自分で登ってみたら、むちゃくちゃ怖い。「降りるのが怖くて泣きそうです」っていうお母さんもいました。
やっぱり、見ているだけと、実際に体験してみるのは、全然違うんです。うちの園では、子どもたちが日々遊んでいることを「お母さん先生」「お父さん先生」で体験してくださっている保護者の方が多いので、子どもたちがいろんなことに挑戦したときにも、「いいですね」と応援したり、理解したりしてくださる方が多いんだと思います。
「自分はどんな人間なのか」を見つけてほしい
_ これまでのお話を伺っていると、子どもが「自分はどうしたいのか」を知って、それを表現できることを大切にされているように感じました。
幼稚園で過ごすのは、たった3年ですけれど、ここでの日々が子どもたちの人生の根っこになると信じています。そこだけは信じて、今までやってきました。
大切な時期だからこそ、「園で過ごしたり、遊んだりするのは楽しいな」と思ってもらいたい。できれば、人と関わっていくなかで、「楽しいな」と思えることがあったらいいな。そういう日々を子どもたちが過ごせているといいなと思っています。

それから、「自分ってこんな人間なのかな」という、それこそ根っこの部分を、幼稚園のなかで見つけてほしい。
「これが好き」「これが嫌い」。「これは気持ちいい」「これは嫌だ」。「これはやりたい」「これはやりたくない」。
そういう自分の気持ちが、だんだんはっきりしてくる。そして、それを出していいんだと思えるような場でありたいなと思っています。
撮影:雨宮みなみ
写真の一部ご提供:東江幼稚園
この記事の連載
「ワクワクする毎日を。」_ 東江幼稚園(東京都葛飾区)
「人と関わる力」「しなやかに動かせるからだ」「自然から学ぶ体験」を大切な3本柱として掲げる東江幼稚園。どんな子どもたちの暮らしがそこにはあるのでしょうか。園見学とインタビューを通して、たっぷりとお届けします。
