コドモコトノハ「だけど、しんでる?」(しげる 5歳)
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しげるくんが、カナヘビを捕まえました。
しげるくんと、ぼくとで、クモやバッタを捕まえて、カナヘビにあげました。
ある日、しげるくんが「にがす」と言い出しました。
「このこが、こどもだったら、おかあさんがしんぱいしてるから。」
次の日、カナヘビを捕まえた、原っぱへ行きました。みんなも一緒です。
カゴを開けてみると、カナヘビは動かなくなっていました。
しげるくんは、静かになったカナヘビを不思議そうに見つめています。
「かえるのあしと、おなじだ」
しげるくんがつぶやきました。見つめているうちに、気がついたのです。
「めが、しんでる。」
しげるくんが言いました。死んだのかどうか、半信半疑のようです。
しげるくんは、カナヘビを草むらにむかって投げようとしました。
「なげたら…だけど、かわいそう。にがしたらまたいきるかな。」
そうだね、とぼくは言いました。
「きのうえに、おこう。はやく、てんごくへ、いける。」
しげるくんは木に登り、枝にカナヘビを引っかけてみましたが、またカナヘビを持って、降りてきました。
「ねてる?よるにおきるかな。」
どうだろう、とぼくは言いました。
りゅうせいくんと、みちおくんがやってきました。
「あー、しんだの。またつかまえたら?」
「かなへびがいるばしょ、いっぱいしってるけど。」
しげるくんは、何も答えずに、
「あなに、うめようかな。だけどさ、むしとかに、たべられないように。」
地面を見つめながら、
「おじいちゃんだったのかな。」
と、つぶやいています。
ゆうきくんがやってきました。
「しんだふりじゃない?あさは、にんげんが、いっぱいいるから。」
しげるくんは、カナヘビをじっと見つめています。
「だけどさ、これ、しんでる?」
少し間を置いて、言いました。
「しんでる。ゆるゆるになってる。おなか。ここ、あなぼこあいてる。だから、しんだ。」
カナヘビの首のところにある、小さな穴を、ぼくに見せながら言いました。
かんたくんがきました。
「しげる、ざんねんだね。ちょっと、かしてごらん。」
かんたくんは、カナヘビを手のひらに乗せ、もう一方の手をカナヘビの上に被せました。
「こおりおーに、とーけーた!」
かんたくんは、被せた手をどけてみました。やっぱりカナヘビは動きません。
「あれ?えーとね、うごくはずなのに。ごはん、たべさせてみる。」
「だめ、しんでるから。」
しげるくんがきっぱりと言いました。
それからカナヘビを掴むと、草むらに投げました。
「カナヘビ、いきてたら、ツルツルにげるね。」
歩きながら、しげるくんは言いました。
「だけど、しんだふり?ちゃんとエサあげてたよね。なんで、しんじゃったか、いみがわからない。」
子どもは今まさに、世界と出会っています。
ゆっくり、ゆっくり。
大人は「死」という言葉を知っていて、ともすると、世界との出会いを省いてしまう。
死んだ生き物は、埋めてお墓を、なんて言いがち。
でも、子どもは「死」というものとも、今、出会っているのです。
まさにカナヘビに触るようにして。