保育の中で手放さず、そっと握りしめたもの。 子どもたちとのセッションの中で。〜こどもの“やってみたい”を やってみよう/しぜんの国保育園の実践より〜
子どもたちから生まれる、あんなこと、こんなこと「やってみたい!」という気持ち。
大人はどんなふうに一緒に楽しめるでしょう…?
子どもたちの「今日は何をしよう?」から生まれる保育を大切にしている、東京都町田市・しぜんの国保育園。
その実践の様子を紹介いただきながら、子どもの「やってみたい」の受け止めかた、楽しみかたのヒントを見つけていけたらと思います。
第2回はしぜんの国保育園の保育士・角さんの記録より、「保育の中で手放さず、そっと握りしめたもの。子どもたちとのセッションの中で。」。
しぜんの国保育園(東京都町田市)
しぜんの国保育園 small village (スモール・ヴィレッジ)
町田市に1979年設立。「すべてこども中心」という理念を掲げ、特定の教育メソッドに拠ることなく一人ひとりの子どもたちに寄り添い、自然豊かな環境での保育を実践。「ものがたりメニュー」を中心とした食育の試みや、創造力をかきたてる保育など新たな取組みを行う。クラスの枠組みを超えた異年齢保育の時間、クラス、ワークショップという3つの時間を柱とした活動を特徴とする。
https://sizen-no-kuni.net
しぜんの国保育園では、午前中は3、4、5歳児の異年齢のチームで日々を暮らしています。
この実践は「ばったチーム」の出来事です。
子どもたちとの関係。その見えない「糸」がしなやかになっていくのを感じて。
しぜんの国で大切にしている時間の一つ。それは「セッション」。
子どもたちと輪になって、話をする時間です。
それは、お互いを「知りたい」という気持ちから始まります。
セッションは、想いを伝え合う場であり、考えたことアイデアを叶えていくプロセスになくてはならないものです。
ばったチームでもその瞬間を重ねてきました。
車座になって体を寄せ合うと、一人ひとりの表情が本当によく見えます。
この空間に一緒にいること自体が嬉しくなったり、見られている視線も意識したり。
「あつまる」「まるくなる」「からかわない」「おしえて」という4つの大切なことを始めに伝えたとき、私たちだけの特別な合言葉のように、子どもたちも一緒に唱える姿がありました。
進級して4月初めの頃は〈チームの名前決め〉や〈今日こんなこと楽しかったよ〉〈こんなもの作ったよ〉という話題。
どんな気持ちも受け止めてくれる安心を感じる中で、自分の想いや考えをたっぷり表現するとともに、友だちの想いに触れて考えていきました。
暮らしとともに伝え合いの場を重ねていくことで、繋がりが様々な方向に結ばれて、次第にその糸はしなやかさを増して、関係性があたたまってきたことに気づきました。
「ある日の避難訓練からの花火の話」「まちあるきでどんな発見した?」
「次は、どんなことしよう」「忘年会しようよ!」
発達年齢の違い(学年の違い)によっても、アプローチの方法は色々ですが、その日の出来事や今後の行事のことなど、そのときに話したいことを子どもも保育者も持ち寄って、伝え合う瞬間を大切にしている日々です。
畑で「にく」を育てたい。
しぜんの国の「畑」で何を育てるかをセッションすることにしました。
次々に野菜の名前が挙がっていく中で、一人の子が「…にく」と言いました。
呟いた瞬間に、「?」と私自身もどう声を掛けたらよいのだろうか迷い、みんなのその空気が一瞬止まったように感じました。
「そうだ!バーベキューしようよ!」と一人の明るい声。
「いいね!」その場が揺れ動き始めます。
「川に釣りに行ったことある」「その時にテントもあった」「お泊りして寝たことあるよ」
「とうもろこしとか」「野菜、焼いておいしいやつがいい」
「トウモロコシときゅうり」に決まりました。しかし、広さの関係上、一つしか育てられないことに。
「きゅうりになるだろうな…」と私は思っていたのですが、ばったチームで相談すると「焼いたらおいしいやつ!」ということでパプリカ3人、ナス11人。
多数決で決めるのは嫌だったので、とことん話して決めようと思いました。
ナスのいいところを聞くと「ナスがいい人はナスだけで食べてもいい」「お肉に巻いて食べればおいしい」「たれをつければ食べられるかもよ」というナス派の意見にパプリカ派の気持ちが動いて、全員納得の末、ナスを育てることに決まったのです。
バーベキューにはテントが必要!となって…。
ナスの生長とともに、“バーベキューやろう”の気持ちがぐんと膨らんでいきました。
「何が必要だろう?」とスーパーで買ってくるもののセッションしたところ、
「テントが必要!」「燃やす木」との提案も。
メインで話している話題から、ぴょんと飛んでいくばったチームらしい面白さ。
翌日、テントを立てるために、けやき組(5歳児)の子が一人、かえで組(4歳児)の子が一人、つばき組(3歳児)の子が三人集まって、ペットボトルと布と紐とを用意し、立てようとしました。
いろいろな方法を試してもなかなか自立しません。
チーム内で失敗したこともセッションで相談して、何度か別の方法でもチャレンジしてみました。
その後、火を使う点での日程の調節が上手くできず、感染症の状況も重なって、次第に時期がずれ込んでしまいました。
次第に、バーベキュー熱は弱まってきてしまいました。
年明け、別の異年齢チームである「ぺんぎんチーム」が竹を使ってテントを立てていたとき、
「あ、竹でやればいいじゃん!」と窓に張り付いて、園庭を見下ろす姿。
何かを目指したときに、その過程や道のりで「思った通りにいかない」と気持ちが折れてしまいそうなこともあります。
地域の人との関わりもコミュニケーションが取りにくい状況にありますが、迷ったときにいろんな方法を探しにいってみたり、様々な方法や人の意見に触れるなど繋がりを意識していく必要があった、保育の中では閉じこもる必要はないのだと気づきました。
テントが出来ず、その後のアプローチを私が怠ってしまったことで子どもたちに諦めさせてしまったと、後になって気が付きました。
今日が明日へ、明日が明後日へ。繋がっていく意識、続けて取り組める環境も必要でした。
そんな時、ぐんぐん進む「ぺんぎんチーム」が、いよいよ園庭で「キャンプごっこ」をしているのを窓ガラスにぐっと張り付いて見る子どもたち。
「ばったチームもやるんだから!」「ね!」と話し合うみんな。
「ぺんぎんより、もっとおいしいやつにしようね」と私の耳元でそっと呟くまゆちゃん。
仲間と一緒においしいものが食べたい。みんなで決めたことを叶えたい。
子どもたちの暮らしの中に入ってきた感染症、その基本は気をつけつつ、大人の行動力次第だと感じました。
できるだけ失敗しないように…と考えてしまっていた私。子どもたちとの暮らしから教えてもらったこと。
ばったチームの仲間である「わたし」。
問いに対しての正解は決まっていません。
みんなで考えて、答えが生まれるからこその面白さを、子どもたちとの暮らしから私は教えてもらいました。
一緒に歩む人。共に創っていく人。のびやかに、大人の考えを突き抜けていく瞬間が私は大好きです。
「いいね!」「やってみたい!」と場が揺れ動いたとき、それと同時に「え、それって…」「実際やるとなると…」すごく現実的に考えてしまうことがあります。自分の経験から伝え、できるだけ失敗せずに成功に導こうとしていました。
できなかったのは感染症のせい、なんて言い訳を考えればいくらでも思いつきます。
あの時、上手くいかなくても、いろんな人に意見を求めて、今すぐやろうと行動に移せばよかった。
もっと柔らかく、やってみればいいのではないか。
いきいきと暮らしを共にできる場所、その瞬間を今こそ私たち大人が守りたいのです。
今も楽しい、明日はもっと楽しい、と希望を持って行動する人に、私もなりたいと今強く思っています。
「その一瞬」をのがした悔しさの中で。
思い返せば、その一瞬でした。
「やってみたい」「それって楽しそう」が膨らむとともに「自分たちの手でやってみよう」という楽しみとチャンス。
その時には「また明日」と思っていたけれど、次第に難しい状況になりました。感染症の影響からの暮らしの変化。この状況になって「今、この瞬間」の大切さを痛感しています。
見計らいすぎては逃してしまうのです。
だからこそ、逃さない準備力とスピード感。アンテナを広げて、気持ちの動きに敏感に。
一緒に「おいしいね」と食べていた給食を大人と子どもと分かれて食べるようになり、異年齢のチームでの活動ではなく、一時的に学年での活動を子どもたちにお願いしている状況です。
子どもたちはこの変化をどのように感じているのだろう、と毎日考えます。
言葉としては現れることのない表現、目線と体の向き、まなざしのその先。
私が見えていない一面が、他の人には見えている。
一方で、他の人には見えないところを私が見ているのかもしれない。
そこにも、人と人とが伝え合う意味があるのではと思います。
「どうしたら叶えられるか」は「今の状況からは難しい」をまとっています。
「やってみたい」「それいいね」「こうしたらいいんじゃない?」いつも楽しさを創り出す子どもの姿が、鮮やかに浮かんでくる今。
思ったことや考えたことは、自分たちの手で叶えていくことができる。
絶対に手放さず、そっと大切に握りしめて、諦めずにいたいです。
この大切な今を生きる子どもも、そして大人も。
実践・文章/角 葵(しぜんの国保育園)
編集/齋藤 美和(しぜんの国保育園)
しぜんの国保育園の記事
子どもたちの心のままにまちを歩いてみたら〜こどもの“やってみたい”を やってみよう/しぜんの国保育園の実践より〜
その実践の様子を紹介いただきながら、子どもの「やってみたい」の受け止めかた、楽しみかたのヒントを見つけていけたらと思います。
第1回は、「子どもたちの心のままに まちを歩いてみたら」。
「環境から保育を始めよう」—しぜんの国保育園(東京都 町田市)
都内にあるとは思えない豊かな自然のなかで、子どもも大人も自分の「好き(得意)」や「やってみたい」という思いを大切にしていました。
「自分たちで考え、対話することを止めない。」しぜんの国保育園 齋藤紘良さん〜コロナ禍での保育実践と思考vol.2〜
お話をしてくださったのは、過去にほいくるで園の取材をさせていただいた社会福祉法人東香会理事長の齋藤紘良さんです。