第2回 正職員、パートタイム…保育者の働き方で役割に違いってある?園長先生たちに聞いてみました。〜わたしが選ぶ、はたらきかた。 〜
現場で子どもたちと向き合うときには、同じ“保育者”。
でも“労働者”としては、それぞれに違う形をもっています。
正職員、非常勤職員、パート・アルバイト…。
今の社会では様々な働き方があるように、保育の現場でも様々な働き方があります。
あなたは、あなた自身が選んだ今のはたらきかたに、満足していますか?
保育者のみなさんが現場で抱える葛藤や迷いをお互いに知り、共に考えたり意見交換をしながら、それぞれが納得のいく「はたらきかた」を見つける手がかりをつかんでいってほしい。
連載「わたしが選ぶ、はたらきかた。」スタートしました。
第2回は、正職員、パートタイム…保育者の働き方で役割に違いってある?
もちろんこれは保育業界に限らない話だと思います。
しかし、保育業界だとそれがより如実に現れてはいないでしょうか?
シフト制によるチーム運営の難しさ、資金不足、保育士不足…。
保育経営面の問題も大きくあり、経営・園長先生側だから感じる難しさや葛藤、チャレンジしていること、一保育者さんが気づいていない視点みたいなものもあるかもしれません。
そこで、3つの園の園長先生に、「実際どうなのでしょう?」というリアルな実情をお聞きすることにしました。
立場に関係なく、同じ視座を持ちたいけれど
T 保育園
(東京都)企業主導型保育園
うちの保育園は、正職員とパートタイム職員がいますが、パートさんを2つに分けていて、フルタイム、もしくはそれに近いような長時間の勤務をしているスタッフを「コアスタッフ」と呼び、会議にも参加してもらえるようにしています。
スタッフによってはクラスリーダーもお願いしたり、書類、伝達やおたよりなど保護者とのコミュニケーションも、正職員と同じように行います。
このコアスタッフ制度は開園当初からあって、なるべく全てのスタッフが雇用形態に関わらず望む働き方ができるように、という思いで作りました。子育てや介護など家の都合や、自身の体調などによってパートタイムでの雇用にならざるを得ないスタッフもいるので。
そのために、年に3回はスタッフ一人ひとりと目標や働き方の話をする時間を設けていて、そこでそれぞれの要望を聞いたり、こちらからも「もう少しこういうことにチャレンジしてみない?」と提案したりします。
ただ、全ての要望を実現することはやっぱりできなくて、子どもの心身の安定を第一に考えると、なるべく長い時間いるスタッフを中心に保育を考えていくことになります。
保育以外にも掃除や準備などやらなくてはいけないことも山ほどあるので、どうしてもそういうところをスポット的にお願いするスタッフはでてきてしまいますね。
また一方で、「私は自信がないので」「短時間勤務なので」と、正職員と同じような責任を持つことを望まない人もいますし、学生さんなど無資格のスタッフもいます。
そうすると、運営側や正職員勤務のスタッフと同じだけの視座を持ってもらうことや、園や子どものことを等しくみんなが共有している状態をつくるのが難しかったりします。
基本的に書類はパートさんも含め、みんなが全部見られるようにしているし、「週案は必ずみんな目を通してね」と声をかけ壁に貼っているのですが、熱心に読んでいる人もいれば、そうではない人もいます。
“できれば”考えてみてね、読んでみてね、やってみてねということに関しては、正直取り組まない人の方が多いです。
特にパートさんは決められた勤務時間中は割り振られた仕事があってスキマ時間がないし、基本的に残業はしないので、やるとしたら家に帰ってから取り組むことになってしまう。
本当はそこに対して手当が出せればいいんでしょうけど、それができるほど潤沢な資金はないので悩ましいところです。
スタッフの関係性が、子どもや保育に影響する
A 保育園
(東京都)認可保育園
私が園長を務めるのは、開園2年目の認可保育園です。
スタッフが気持ちよく働くために、まず大事にしているのは採用ですね。
以前、株式会社が運営するもう少し規模の大きな保育園で園長をしていたのですが、その際職員は本部が採用し、各園に配属されるという流れでした。
いざ蓋を開けてみると「最初は補助的な役割で一からゆっくり教えてもらえると思ったのに」「面接の時はもっと楽な勤務だと聞いていました」と職員からは「採用の時に聞いていた話と違う」との不満があがりました。
こちらとしても一職員として最低限お願いしたいこと、努力してほしいことはありますから、そうは言われても…みたいな感じで、食い違いが起きてしまったんです。
そういう経験もあって、今の園ではどういうことを大切に保育をしたいか、その為にどういう人材を求めているのかということを採用の時点できちんとお伝えし、お互いのニーズがマッチしている状態からはじめることを大事にしています。
例えば、保育の計画立案は担任をしている正職員が行いますが、連絡帳や個別の日誌、記録などはパートのスタッフにも正職員と同じように書いてもらっています。そのことを採用の時点で伝え、実際にやってもらっています。
“業務の軽減”という事だけでなく、スタッフ一人ひとり子どもの見え方は違うので、いろんな人がその子を捉え、記録したり伝えたりすることが大切だと思うんですよね。
パートスタッフの視点により子どもの見え方の幅が広がり、スタッフにとっても発見があると考えています。
ただ、もちろんフリーで動けるパートのスタッフだからこそ頼みたいことって保育の中では出てきます。
今このクラスにヘルプが必要だな、ここの掃除お願いしたいな、とか。
その時に、なぜそれをお願いするのか意図を伝えるのが、すごく重要だなと思っています。
「子どもの遊びの流れを大事にしたくて」とか「午後の時間も子どもたちが豊かに生き生きとできる時間にしたくて」と、必ずそこには意図があると思うんです。
それを伝えずに「〇〇してください」だけだと、パートのスタッフも下に扱われている感じがしたり、もやっとしたりしてしまいますから。
そのあたりのコミュニケーションは、もっと磨いていきたいです。
保育士としての経験が長い人ほど、前の園のやり方とか考え方みたいなものが染み付いていて、無意識に正職員とパート職員の関係性を上下で考えてしまうことがあると感じます。
実際、うちの園も1年目の時に、「〇〇さん(無資格のパート職員)は1カウントできないですよね」みたいな言い方をしたスタッフがいました。
その人は悪意があったわけではなく、それを普通だと思ってそういう言い方をしていたようです。
「働き方が違うだけで同じチームのメンバーでそこに上下関係はないよね」「互いの人権を尊重する職場にしたいよね」「人を物のようにカウントするのはやめよう」とスタッフ全員で共有しました。
スタッフの関係性は、子どもたちの生活にも影響を及ぼす大事なことだとひしひし感じています。
でも、現場のスタッフだけでうまく関係性を築くのはなかなか難しかったりするので、その架け橋になるのが園長や主任の役割なのだと思います。
正職員雇用を増やせない
K 保育園
(神奈川県)認可外保育施設
うちの保育園は小規模の認可外保育施設です。
保育スタッフは、正職員スタッフが2名、パートタイム職員が7名、事務局員が2名というチームで構成されています。
正職員スタッフが少ないと感じる方もいるかもしれませんが、無認可の保育施設は国や市からの補助金がないため、資金のやりくりを考えると、正職員で雇用できるのはこの人数がギリギリなんです。僕も園長になってはじめて知りましたが、職員の社会保険等の園の負担額も結構大きいですし、一斉保育をしてしまえば保育士配置基準で定められている保育者の人数でも保育ができなくはないのですが、子どもたち一人ひとりを大切にした保育をしたいと思うと、正直それでは保育者が足りない。
基準よりも1〜2名は多くスタッフを配置しているので、それだけ人件費も日々積み重なっていきます。
ただ、人によって仕事に求めていることは異なり、どのくらい(時間)働きたいか、どんな風に働きたいのか、保育にどう携わりたいかということでも、「こうしたい」という思いが本来それぞれにあると思います。
そういう意味では、一人ひとりのスタッフが望む雇用、関わり方で働けるようなシフトの組み方をしているので、働きやすい職場と言ってもいいかもしれません。
それは、資金上仕方なくという面もありますが、それよりも子どもたちに園で心地よく生活してもらうためには、大人も居心地がよいことが大切だという思いが根底にあります。
大人のあり方が子どもへの関わり、保育に大きく影響を与えると思うので、年に3回は全スタッフ一人ずつと面談をしたり、普段の雑談の中でも「最近どう?」とスタッフの声を聞くことも意識しています。
あと、必要ない書類は減らしたり、なるべく簡略化するようにしていますね。
というのも、書類の作成や行事・保育の準備はどうしても子どもが帰ってからしかできなくて、そうするとどんどん残業が増えていってしまいます。
僕が以前、一職員として働いていた園でも、本当に必要なのかなと思うものを準備するために、毎日2時間、3時間の残業が当たり前になっていて、そういう悪い循環、習慣みたいなものはつくらないようにしたいなと思っています。
それでも、行事の前やじっくりと話をしたいことがある時は、残業が多くなってしまうこともあるし、人数が少ない分、正職員への負担はより大きくなっているところもあると思うので、本当に難しいですね。
でも、何を大切にし、何に時間をかけるのか、その辺りの時間の組み方は、これからも大事にしていきたいです。
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この記事の連載
第1回 いまの働き方に、モヤッとすることありますか…?〜わたしが選ぶ、はたらきかた。 〜
今の社会では様々な働き方があるように、保育の現場でも様々な働き方があります。
あなたは、あなた自身が選んだ今のはたらきかたに、満足していますか?
第1回は、パート、正職員。
それぞれの形で働く3人の保育者の、今のリアルな本音を聞いてみました。