第2回 笑顔で語ろう! ポケットからおはなしを ~保育に活かす おはなしテクニック~
いつもの保育に「おはなしの時間」を取り入れてみませんか。
絵本や紙芝居と違って、話し手と聞き手の間に入るものがない「語り」。
子どもたちは、「先生が自分に話しかけてくれている」と感じながら聞きます。
両者の心の距離はぐっと縮まります。
(この記事は、『新 幼児と保育』2014年4/5月号に掲載されたものを元に再構成しました)
お話を聞いた人
こがようこさん
絵本作家・「語り手たちの会」理事
25 年以上にわたってさまざまな場所で「語り」を届ける活動を続ける。そのかたわら幼年童話・絵本の執筆、お話の小道具などの創作を手がける。主な著書に『保育に活かすおはなしテクニック』(小学館)、『わらべうたでひろがる赤ちゃん絵本』シリーズ(童心社)、『語りかけ絵本』シリーズ(大日本図書)、『ぺこぺこ ペコリン』(講談社)など。
「おはなし」が届けるものは?
子どもたちは「おはなし(語り)」を聞くのが大好きです。頭のなかに物語を描き、想像の世界を旅します。
さらに「おはなし」を聞きながら、語り手(「おはなし」をする人)の表情・声を楽しみ、その人柄に触れてもいるのです。笑顔で語れば笑顔が届き、「この人は安心できる人」という先生の素顔を短い時間で子どもたちに伝えることができるのです。
わたしはおはなしが大好きでいつも表情はゆるみがちです(笑)。おはなしのあと、出会ったばかりの子どもたちが以前からの知り合いのように集まってくれたという経験を何度もしています。なかにはそっと手をとるなど体に触れてくる子どももいます。笑顔で「おはなし」を楽しみましょう。
笑顔を届ける10分間
「おはなしの時間」は日常を離れ想像の世界を楽しむという意味で、ちょっと特別な時間といえるかもしれません。この「特別な時間」を「笑顔の時間」として活用してみてはどうでしょう。
先生にとっても「特別な時間」と位置づけ、この時間は笑顔の時間、怒らない時間と自分のなかで決めるのです。あるいは先生という立場を離れ、おはなしを楽しむ人として過ごす時間でもよいでしょう。10分程度の「おはなしの時間」が先生の気分を切り替え、子どもたちには先生の笑顔と一緒に、にこやかな素顔が届くはずです。
今回もおはなしのテキストをひとつ紹介します。
テキスト 「ほいくえんに いくんだよ」
こが ようこ作
あるところに こいぬが いました。
ワン太くんです。
「ぼく、ほいくえんに いって
ともだち つくろう。
こんにちは って ニコニコ いえば
きっと ともだちになれるワン」
そこで、ワン太くん ニコニコ おでかけです。
(歌うように)
♪ほいくえんに いくんだよ
ほいくえんに いくんだよ
こんにちワン って いうんだよ♪
あっ、チューリップ。こんにちワン!」
ワン太くん ニコニコ あいさつ。
「いいワン いいワン このちょうし」
(歌うように)
♪ほいくえんに いくんだよ
ほいくえんに いくんだよ
こんにちワン って いうんだよ♪
「あっ ちょうちょ。こんにちワン!」
ワン太くん ニコニコ あいさつ。
「いいワン いいワン このちょうし」
(歌うように)
♪ほいくえんに いくんだよ
ほいくえんに いくんだよ
こんにちワン って いうんだよ♪
「あっ、みずたまり。こんにちジャーンプ!」
ワン太くん ニコニコ あいさつ。
「いいワン いいワン このちょうし」
(歌うように)
♪ほいくえんに いくんだよ
ほいくえんに いくんだよ
こんにちワン って いうんだよ♪
ワン太くん、とうとう ほいくえんに つきました。
こどもたちが いっぱい あそんでいます。
(子どもたちをぐるーっと見渡す)
ワン太くんは おおきく いきを すいこんで…、
「こ、こ、…はずかしい」
あら、ワン太くん はずかしくなっちゃったんですって。
「こ、こ、…こんにゃく」
「こ、こ、…こけこっこ」
「こ、こ、…こまったワン」
「こ、こ、ク~ン」
あらまあ…
ワン太くん とうとう なきだしちゃいました。
(子どもたちに向かって)
どうしよう?
こんにちは、って みんなで いってあげようか?
「せーの」
(子どもたち全員で)「ワン太くん、こんにちは!」
「こんにち…ワン!」
みんなの ニコニコの こえを きいたら、
ワン太くんも ニコニコ あいさつ できました。
ワン太くんには ともだちが いっぱい。
よかったね。ワン太くん。
「ワン!」
※「ほいくえん」のところを、「ようちえん」「こどもえん」と適宜変えてください。
※こがさんの著書『保育に活かすおはなしテクニック』では、ペープサートを使ってこのおはなしを語るアイデアを掲載しています。
ポイント!
環境設定にも心を配りましょう。
目線が合うエ夫
先生はイスに、子ともたちは床に。少し高い位置からだと目線が届きやすくなります。
集中しやすい環境づくり
先生が壁を背にすわります。子どもの視界に動くものが入りません。
回避できる音は避ける
入退室の多い時間、音楽の流れる時間などを避けます。
「おはなし」を通して先生の笑顔と素顔を届けてくださいね。
イラスト/こがようこ 撮影/茶山 浩
この記事の出典 『新 幼児と保育』について
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この記事の連載
第1回 「語り」は難しくない! ポケットからおはなしを ~保育に活かす おはなしテクニック~
保育園の先生たちがふだんしていることの、実は延長上にあります。
肩肘張らずに、まずは始めてみませんか。