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「子どもも大人も無理しなくていい」りんごの木・柴田愛子さんからの言葉。

三輪ひかり
掲載日:2020/09/18
「子どもも大人も無理しなくていい」りんごの木・柴田愛子さんからの言葉。

神奈川県横浜市にある「りんごの木子どもクラブ」の柴田愛子さんを訪れた、今回の取材。

前編では、保育者の専門性は、“親が感動できる保育”をしていくことではなく、いかに“子どもに感動できる大人”を育てていくことにある、と語ってくださった愛子さん。

後編ではさらに、保育者の「役割」や「在り方」について、たっぷりとお話を伺います。


自分の言葉で伝える

大人の“こうあるべき”を崩して、どれだけ大人たちの心を震わせることができるかには、喋りか文字か映像か、なんでもいいけど保育者の技術は必要よね。

そのためのテクニックを磨いたり、勉強をしたりすることは、してもいいかなって思う。


ー どうやったらそのテクニックは磨くことができるのでしょうか?

ひとつは、りんごの木だと保育者同士のおしゃべり。ちょこっと時間を見つけては、子どもの姿やエピソードについて、みんな本当によく喋るわよ。

青くん(上町しぜんの国保育園の園長の青山誠さん。長くりんごの木に勤めていた)って知ってる?青くんが、りんごの木に入ってきたばかりの頃なんかは、「あんたの話、報告書みたいで全然面白くない。子どもが描けない」って言ったりしてたわね(笑)。わりと青くん、ちゃんとした先生だったから。でもね、うまくなるのよ。彼は落語をよく聞いてた。

ー たしかに落語って、情景が浮かんできますもんね。子どもの姿が描けるような伝え方のヒントがありそうです。

そういう努力はしていいと思う。私は若い頃、自分の保育をテープに録音して聞きなおせと言われたこともあったわ。恐ろしい話よね(笑)。

でも、お知らせのお便りなんかもそうだけど、“お知らせ”だけならやらなくてもいいと思わない?「りんごの木はこんなことをしてます。そこで私は、こういうことを感じています」って、そういう視点があってこそ、人の心は掴めるものだと思うのよ。


ー その人だから伝えられるものがある、ということが大事なんですね。

そうそう。保育者のお面被ってて伝わることなんてないんだから、喋り方が稚拙でもいいから、まずは自分の言葉で伝えてみる。

その時に、「今日いいことがあって」からはじめてみるのはおすすめね。そうすると、相手も「なになに?」って聞きたくなるじゃない。肯定的に聞こうとしてくれるのよ。それで、「今日誰ちゃんと誰ちゃんがケンカして…」って笑って話すの。


ー ケンカも良い話として伝えるんですか。

ケンカの話だって、子どもの嬉しい成長の話。でも、こちら側が自分の視点を持って伝えないと、親もその成長に喜んだりすることはできないわよ。だって、その感動が伝わらないもの。




無理しない、無理させない

他にも昔、「私は3人以上の子どもを相手にするのは無理です」っていう保育者が、りんごの木にはいたの。「それなのに、みんなと同じ給料もらっちゃ悪い」って言うから、「大丈夫よ。これ平等、不平等の話じゃないの。あんたは、ちまちまやるのが好きなんでしょう。大勢を引き受けるのが好きな人もいるからさ」って言ったのよね。

そうしたら、その人が「親も苦手なんです。3人以上は無理です」って(笑)。じゃあどうやったらあなたの思いは伝わるかねって考えたら、その人の場合はイラストだったのよ。

イラストにちょこっと文章を書いた「絵日記」を、毎日入り口に貼り出すことにしたのよ。子どもたちをまんべんなく出そうという配慮はもちろんないんだけど、それ自体が面白くて。

「えー、こんなことあったんだ!」って、お父さんのファンもできるくらい、親たちもその絵日記を楽しむようになっていったのよね。とうとう書いたものを集めて冊子までつくって、売っちゃったりしてさ。コピー代がかかったからって(笑)。

でね、私思うんだけど、“その人らしさが活きる”方法ってあるはずなのよ。でもそれを、“みんな同じ”にさせようとすることに無理がでてくる。子どもの保育も同じよね。


ー 愛子さんは、子どもに対しても、大人に対しても、無理させないですよね。あなたのまま、そのまんまでいいよって。

2つ目に勤めた園で発表会があったんだけどさ、ピアノが苦手な先生がいたのよ。そんな人が、発表会で弾くなんて大変じゃない。緊張して、いつも以上にできないわよね。それで、私はピアノ得意だったから、私が全部弾くからってしたこともあったわ。できないことを努力してやることが立派なわけじゃないからって。

ちなみに、私は絵が下手だから、絵は一切やらなかったわね(笑)。でも、本当はそうやって補い合える関係で、大人も子どももいればいいと思うの。


子どもの隣にどういればいい?

ー その人らしさが活きる方法があるとおっしゃっていましたが、子どもの隣にいる時の保育者の在り方も、それぞれの“らしさ”があっていいものなのでしょうか?

もちろん。でも、子どもの邪魔をするのは違うよね。

あそび歌作家の鈴木翼くんが、りんごの木に勤めていた時にギターを持って歌い始めたのよね。そうしたら、子どもたちはバラバラ集まってくるわよね。だから私、「何やってるの?サウンドオブミュージックでもやりたいの?」って聞いちゃったわよ(笑)。

戸惑っていたから、「子どもそれぞれ遊んでるのに、あなたがこんな風に呼び寄せるから、しょうがなく子どもたちがきちゃうじゃない。そういうのやめてくれない」って言ったの。

そうしたら、「今までの保育園は、子どもを退屈させないことが大事だった。例えば、帰りの時間の30分は、子どもたちを同じところにいさせなくちゃいけないから、歌遊びをやったりして、僕がエンターテイナーにならなくちゃいけなかった」って言うのよね。

何それって。子どもが退屈しないようにそういうことをするなんて、全然子どものためじゃない。それって、大人に都合よく子どもを動かすためにやっていることで、それは保育とは言わないと思うの。子どもに興味を持って、隣にいてごらん。そうしたら、そんなことしなくなるわよ。


ー 子どもに興味を持つ、ですか。


そう。子どもへの興味の持ち方って、その人(保育者)のタイプにもよると思うけど、つい口出したり、遊びをとったりしてしまう人は、ちょっと引いてみるといいわね。

カメラを持つようにしたっていう人は、「何やってるの?」という言葉を飲み込むようになったって。子どもにとっても背景になるから、いいわよね。

もちろん、面白そうなことやってるなと思ったら、一緒にやってみるのはひとつ。ハイハイしている子どもの気持ちってなんだろうと一緒にやってみたら、ゴミが意外と落ちてて気になるなとかね。まずは共にやってみることで見えてくることもあると思う。

ぼーっと見るのが上手な人もいるわね。「大丈夫」っていう空気が伝わるんだろうね、子どもは顔色を見ないでのびのびと遊ぶのよ。

それから、例えば、5歳の子がすべり台をしようとしている。その時に、「どうやって滑るつもりだろう?3歳みたいに、ただ滑るだけじゃ楽しいわけないよね。少し危ないことをするのが好きだからなあ。さあ、どうやるつもりよ」って、その姿を面白がるというのも、興味を持って寄り添うひとつの方法。

あなた(子ども)の気持ちとか、思い描いていることを共有してもらう。そうすると、子どもが“子どもたち”ではなく、“一人の人”として見えてくる。



子どもたちは、ダメなことを何もしてない

子どもたちにだって、いろんなことがあるよ。でも、その時に「あー、こんなになっちゃったね」って言ってくれる人が、頑張っている時に「頑張ったんだけどね。思い通りにいかないよねー」と言ってくれる人がいてくれたら、それでいいと思うの。


ー そうすることによって、子どもがその子のままでいられる場所になっていき、その子のやりたいがやれるようになる。そして、それがまた「面白いね」と共有できるものになっていくんでしょうね。

そうなのよ。りんごの木に見学にきた人は、よく「ダメって言わないんですか?」って聞くんだけど、ダメなこと何もしてなくないって。


ー 登園して早々、お弁当を食べるとか、室内と外を裸足で行き来するとかも、きっとそれでいいの?と思う人はいますよね。

そういう時は、まず「ああ食べたくなっちゃったんだよね」って。それでその次に、どうして食べたくちゃったかな?寂しくなっちゃったかな?なにしていいか分からなくなっちゃったかな?って、想いを馳せる。

だって、子どもってわからない時にすぐ「おなかすいた」って言うでしょ。やりたくない時は、すぐ「おしっこ」って言う(笑)。「つかれた」とかさ。それって、子どもの知恵なのよ。そうしたら、大人は「そっか、やだったんだよね」って思うじゃない。

だからね、私思うの。保育者だって、毎日せわしなく、必死かもしれないけど、「子どもも一人の人である」、「子ども一人ひとりの気持ちは違う」ということからは、目を逸らしちゃダメ。でも、そうするとね、もう保育はやめられないわよ。

柴田 愛子
りんごの木子どもクラブ代表。保育者。1948年 東京生まれ。
37年間「子どもの心により添う」を基本姿勢に保育をするかたわら、保育雑誌や育児雑誌などに寄稿。子育て支援ひろばや、保育園、幼稚園、保育士や幼稚園教諭の研修会などでも講演。子どもと遊び、子どもたちが生み出すさまざまなドラマをおとなに伝えることで、子どもとおとなの気持ちいい関係づくりをしたいと願っている。
主な著書:「つれづれAiko」「それって保育の常識ですか?」「こどものみかた」「保育の瞬間」

絵本:「けんかのきもち」(日本絵本大賞受賞)「ぜっこう」「ありがとうのきもち」「ともだちがほしいの」



インタビュー・文:三輪ひかり
写真:中野亜沙美


この記事の連載

「保育者は“子どもに感動できる大人”を育てるのが仕事。」柴田愛子さんと捉え直す、私たちが居る意味。

「保育者は“子どもに感動できる大人”を育てるのが仕事。」柴田愛子さんと捉え直す、私たちが居る意味。

今回、2020年秋発刊のほいくる初の本『こどもこなた』に掲載する巻頭インタビューのため、柴田愛子さんにお話を伺いにきましたが、本には載せきれないほど、子どもに寄り添うための保育者のあり方の話をたくさんしていただきました。

これは私たちの胸のなかだけに納めておくには勿体無い!…と思い、web記事特別号として、前・後編2本立てでみなさんにお届けすることにしました。
愛子さんと“子ども”を語る時間。ぜひお楽しみください。


柴田愛子さんのインタビューが掲載されているHoiClue冊子「こどもこなた」はこちら

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