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カブとアオムシとだいち組の成長記録〜第53回「わたしの保育記録」優秀賞〜

新 幼児と保育
掲載日:2020/07/07
カブとアオムシとだいち組の成長記録〜第53回「わたしの保育記録」優秀賞〜

第53回「わたしの保育記録」応募作品の中から、優秀賞を受賞した作品をご紹介。

(一般部門)
カブとアオムシとだいち組の成長記録

学校法人双葉学園 認定こども園 みらい平ふたばランド(茨城・つくばみらい市)
安達 有美


これは31人のだいち組の子どもたちが育ててきたアオムシに対し、一人ひとりがいろいろな思いを抱え、考え、悩み、涙を流しながらも、クラスの皆がひとつ大きくなった記録です。

4月。

新しい環境、新しい友達、新しい先生に緊張した顔つきで入室する子どもたち。私の園では、4、5歳児に進級すると異年齢保育になる。私自身も保育士になって5年目になるが、はじめて4、5歳児の異年齢保育の担任となった。子どもたちも私自身も、すべてが新しいスタートであったが、どんなクラスになるのだろうとワクワクした。そしてこれからの生活に期待を抱きながら、グループ決めをしたり、おむすび会(クラスの親睦を深める会)で行うボール運びへ向けて、力を合わせて練習したりという日々が続いた。


作ったことのない野菜を作る

私の園では、日々の保育から食育にもつながるよう、3歳児から栽培を行なっている。3歳児は1種類の野菜を栽培するが、4、5歳児になると2種類の野菜を作ることができる。だいち組でも何を育てるか話し合った。

「ミニトマトがいい!」

「おれはナス!」

と年中・年長ともに、たくさんの意見が飛び交い、計10種類ほどの野菜が挙がった。その中でもエダマメは、

「いっぱいできるんだって!」

「じゃぁ、いっぱい食べられるね!」

とひとつはエダマメに決まった。

「作ったことない野菜がいいなぁ」

とつぶやいたひとりの年長児の意見に共感し、もう1種類は皆が作ったことのない野菜にしぼっていったが、なかなか決まらず……。私がそんな子どもたちの姿を見守っていると、年中児のひとりの男の子が野菜の本を見ながら、

「これなぁに? たべたことない」

といって私に見せてきたのがアスパラガスだった。

「え~アスパラガスきらい」

と話す子が多く、私の中では、嫌いなアスパラガスも、自分たちで育てれば食べられるようになるかも、と考え、本をよく読むと、なんとアスパラガスを収穫するには3年かかるとの文字が……。

「アスパラガスは3年かかるんだって。みんな卒園しちゃうね(笑)」

「えーーー!食べられないじゃん!」

と皆で大笑い。この日の話し合いはここまでとなり、自分たちでどの野菜がいいか調べて、再度話し合うことになった。

後日、さっそく子どもたちに意見を聞いていくと、カブとトウモロコシの意見が多かった。昨年の劇で「大きなカブ」を行ったクラスの子が、カブに興味を示していたのと、トウモロコシはおいしいからとの理由だった。トウモロコシはほかのクラスが栽培することに決まっていたので、その旨を伝えると、カブに決まった。

種をまく日には、年長児がシャベルで土を運び、年中児が手でならし、協力しながらひとり1粒の種をまいていった。じょうろで水をあげ、手を合わせ、

「おいしくなりますよぉに……」

と願いを込めた。この日からだいち組の栽培が始まった。

毎日欠かさず水をやり、午後は「土の色が乾いてる」と気にかける子どもたち。努力の甲斐あってか、数日後には芽を出していた。

「わぁ! ふたばっこだ!」

と自分たちの仲間のように話す子どもたちを見ると、とても微笑ましかった。


カブをとるか アオムシをとるか

順調にエダマメもカブも育ち、たくさんの葉もついてきたころのことだ。野菜の生長とともに大きくなっている何かが葉につくようになった。だいち組の虫博士であるR君が「はらぺこあおむしだ!」と叫ぶと、クラスの皆が集まってきた。

「うわ~いっぱいいる。きもちわるい」

と騒ぐ年長児の女の子たち。

「あれ? エダマメにはいないね」

子どもたちのいうとおり、エダマメの葉には1匹もいないが、カブの葉にだけたくさんアオムシがいた。「アオムシにカブ食べられちゃう」とひとりがアオムシを葉から離し園庭に逃がすと、まわりにいた子どもたちも捕まえて逃がし始めた。私も、網や肥料をまいてアオムシがつかないようにしなくちゃな、と考えていると、虫博士のR君だけが捕まえたアオムシを自分の虫かごに入れていた。本当に虫が好きなんだなぁと思いながら様子を見ていると、「はらぺこあおむしだからおなかがへってるんだよ。ゆうみ先生、アオムシって何食べるのかな?」と聞いてきた。

正直少し驚いた。と同時に反省した。カブのためにアオムシを取り除くことしか考えていなかった自分は、この子たちの何を育てたくて栽培しているんだろうと思った。そこで、クラスで話し合うことにした。

次の日。カブの葉がアオムシに食べられていることについて皆はどう思っているのか、問いかけていくと、ほとんどは「カブを守る」という意見だった。R君は消極的で自ら発言することはなかなかないので、私からR君を指すと「アオムシはおなかが減ってるんだよ」と答えた。私も悩んでいた。皆ではじめて話し合って決めたカブの生長をとるのか、アオムシをきっかけに、生き物も生きていることを伝えるのか……。

「R君のいうとおり、アオムシも生きているから、ご飯食べないと蝶になれないね。でも皆ががんばって育てているカブが食べられちゃうね。どうしようか……」

皆で悩んでいると、年長児のMちゃんが「どっちも大きくする!」と答えた。どっちも大きくするにはどうしたらいいか、さらに問いかけると、

「カブにいるアオムシを取って、虫かごで育てればいんじゃない? そしたらどっちも大きくなる!」

「やったーーー!」

と騒ぐ子どもたち。子どもたちで決めたことならと思い、私はどちらもきちんと世話をできるのかだけを確認した。全員そろって「できます!」と答えたので、様子を見ていくことにした。話し合いが終わるとすぐにカブのところへ行き、アオムシを捕り始めた。「先生虫かご持ってきて! 早く! 逃げちゃうよ!」と怒られる私。虫かごを持ってくると、きゃーきゃー騒ぎながらもがんばって捕まえる男の子。女の子はさわれない子がほとんどだったので、アオムシを見つける係となっていた。図鑑を広げ、何を食べるのか調べると、次の日からキャベツを持ってくる子や、自分の虫かごを持ってくる子もいた。毎朝、テラスで虫かごを広げ世話を続けていると、アオムシを捕まえる係、虫かごを掃除する係、アオムシを見つける係と自然と係が決まっていた。日が経つにつれ、干からびてしまうアオムシがいると、家でお父さんに聞いたり、図鑑を見たりしながら、水も入れなければいけないことに気づいたり、子どもたちが本気で育てているのが日々伝わった。


アオムシとの別れ

ある日、「アオムシが逃げてる!」と子どもが勢いよく虫かごを持ってきた。よく見るとさなぎになっていた。図鑑を見せながら、さなぎになったこと、ひとつ大きくなったことを伝えると、「すげー! トランセルだ!(*)」と喜んでいた。そのころには、女の子も「かわいい」といって、アオムシを捕まえられるようになっていた。「はらぺこあおむし」をうたいながら世話をする子どもたちの姿がかわいかった。

アオムシがさなぎになった数日後……。虫かごの中に、3匹ほどのモンシロチョウが飛んでいる。それを発見した子どもたちは「ちょうちょになったー!」と大喜び。しかし、大切に育ててきたアオムシが蝶になり、そこからどうするのか、また話し合うか! と考えていると「自然にかえしてあげなきゃ」とMちゃんが言い出した。それでいいのか聞くと、「虫かごちっちゃいし、さなぎが全部ちょうちょになったら大変だよ! 飛べないもん!」と答えた。

「子どもは大人が思っているより大人」とはこういうことをいうのでしょうか。そんなことを思っている間に「みんな呼んでくる! いってらっしゃいしなきゃ!」とMちゃんは走り出した。皆がテラスに集まったところで、虫かごを開けると勢いよく飛び出し、モンシロチョウは飛んで行った。皆で「いってらっしゃーい」と叫んだ。姿が見えなくなるまで手を振り見送るとМ児が「ばいばーい。またあそびにきてねーー!」と最後に泣きながら叫んだ。するとまわりにいた子どもたちも涙を流しながら手を振っていた。どんな思いでいったのかはMちゃんにしかわからないが、Mちゃんなりに考え、さまざまな気持ちを抱えていたように感じた。

飼っていた約30匹のほとんどのアオムシがモンシロチョウになり、そのたびに皆で送り出した。カブも無事収穫することができ、給食でおいしく食べることができた。カブもアオムシもどちらも育てることが正解だったのかはわからない。しかし、私たち保育者が大事にしなくてはいけないのは、ちょっとした出来事からつながる子どもたちの心の成長だと思う。日々の生活の中で、子どもたちがどう考え行動し、そこで何を感じたのかを受けとめること、運動会や発表会などの行事も大切だが、今の時代の子どもたちには、それが特に大切だと感じた。

それから2か月たった今でも、モンシロチョウを見かけると「あ、かえってきた! おかえりー!」と微笑みながら蝶を見守る子どもたち。そんな姿を見て私は心の中でささやいた。「アオムシもカブも大きくなったけど、だいち組の皆が一番大きくなったよ」


(*)『ポケットモンスター』に登場するさなぎ型のモンスター。

受賞のことば

このたび、このような賞をいただけたことを大変光栄に思います。私は、園の方針である「楽しくなければこども園ではない」を合言葉に保育をしています。

今年度初めての4、5歳児担任で、子どもたちとのかかわりや、援助の部分では悩みながらの保育でした。今回、私の保育記録の事例を通し、子どもたちから沢山のことを学びました。子どもたちと向き合うこの仕事に正解はなく葛藤の毎日ですが、そこにおもしろさがあると気づけたような気がします。だいち組の皆がいろいろなことを感じ、考えながら進めたことをまとめたものですので、だいち組みんなの賞だと思っています。

これからも何気ない毎日を大切に、子どもたちと楽しく過ごしていきたいと思います。

理事長先生をはじめ、園長先生、職員の方々、いつも支えてくださる保護者の皆様、そして、たくさんのパワーをくれるふたばっこに感謝の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございました。



講評

鶴見大学短期大学部教授 天野 珠路

畑でカブを育て、そのカブの葉を食べてしまうアオムシをどうするか話し合い「どっちも大きくする!」と決めた、その名もだいち組の子どもたち。栽培する野菜を決めるのも、アオムシを虫かごで育てるのも、見事にかえったモンシロチョウを放つのも子どもたち一人ひとりが考え、意見を出し合い、みんなで決めていきました。

「はらぺこあおむしだからおなかが減ってるんだよ」と虫博士のR君、さなぎから蝶になり「自然にかえしてあげなきゃ」とMちゃん、虫かごから飛ぶ蝶を見送り、その後、園庭のモンシロチョウに「おかえり!」といって喜ぶ子どもたちの姿が生き生きと記されています。子どもとともに悩んだり共感したりしながら保育者自身も成長する過程が描かれているといえるでしょう。

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