\開催レポート/ほいくる研修会〜先生になる前に知っておきたいこと〜
“せんせい”になる前に知っておきたいことや準備しておいた方がいいことって、何だろう?
“せんせい”になりたての頃の不安や緊張を、これからの安心ややりがいにつなげられたら…。
そんなテーマで、HoiClue[ほいくる]では初めての“研修会”を開催しました。
これまでワークショップやイベントは実施したことがあったけれど、“研修会”というカタチは初めて。なので、HoiClueメンバーもちょっとドキドキしながら、当日を迎えたのでした。
参加予定者の中には来れなくなってしまった方もいましたが、こじんまりしながらもアットホームな雰囲気の中、研修会はスタートしました!
先輩保育士の経験から伝えたい、先生になる前に知っておきたいこと
今回の研修会の講師は、2人の先輩保育士。
一人は、HoiClue発起人である雨宮みなみ。
もう一人は、こどもの王国保育園 園長で、保育ドリプラの代表も務めている菊地奈津美さんです。
HoiClue発起人の雨宮みなみ
こどもの王国保育園 園長の菊地 奈津美さん
2人とも、保育士になって10年以上。
いろいろと壁にぶつかった当時を振り返り、その中でつかんできたこと、後輩である新米保育士さんが知っていたら役に立つのではないかと感じた“5つのこと”を、話してくれました。
(1)知ること、聞くことを怠けない
・不安は、知らないことが多ければ多い分、膨らむもの。
・反対に考えると、知ることで、不安を軽減することができそう!
・知るためには、調べることが必要な時もあれば、聞くことが必要な時も。
・わからなかったら、とにかく聞く!を徹底する。
・どうしてもドキドキしてしまう場面もあるけれど、どうしようかなぁとそのままにしているうちに、大ごとになることも…
・自分からキャッチすることを怖がらずに、知ること・聞くことを大切に。
雨宮:
元保育士のほいくるスタッフの一人が「わからないことはとにかく聞く!一年目に許される特権だと思って、実践していました」と話していて。
でも私は最初、質問するタイミングが難しくて、なかなかすぐに聞くことができなかった。自分でなんとかしようとしていました。
だけど、聞くほどのことじゃないかも…そう思った時こそ、自分から情報をキャッチすることを怠けてはいけないなぁと、自分の経験を振り返ってみて思います。
質問するときのポイントは、質問への回答と合わせて「なんで、そうするのか」についても聞くこと。そうすれば、イレギュラーなことが起きたときでも、「なぜそうするのか?」という“判断軸”を理解できているからこそ、自分なりの判断がしやすくなると思います。
菊地さん(以下:菊地):
保育士になりたての頃は、自分が何を教えてほしいのかわからない。質問される先輩たちも、何を聞かれているのかわからない…なんてことがありますよね。
そのままにして時間が経つと、周囲は「わかってるもの」として過ごしてしまい、ふとした時に「あれ…、実はわかっていなかった(共通の認識を持てていなかった)のか…?」って気づいたりして。
だから、わからなかったら、その時に聞いてほしいなと思う。
それを半年経ってから聞くのは、やっぱりちょっと遅いような気がしますね。
(2)自分のなかで、最低限できることをきちんとする
・あいさつ
・メモをとる
・時間に余裕を持つ
・一度言われたことは、覚えるようにする
・きちんと睡眠をとる! などなど
簡単なようで…
「あれもできなかった、これもできなかった」と焦る気持ちが出てくることも。
でも、そういう時こそ、まずはできることをしっかりやることで、少しずつ自信がついてくる。
雨宮:
思い出してみると、当たり前のことなのに、できていないことが意外に多かった…。体調管理なんかもまさにそうなんですけれど、気持ち的な余裕がないと難しかったりして。
1年目は自分の体調が悪くてもなかなか言い出しにくくて、「休みをください」と言えませんでした。
でも一度、「あぁ、もうこれはなんとか自分の気持ちや体調を整えないと、子どもたちにあたってしまう」という危機感を感じた瞬間があって。
それでおもいきって、主任の先生に正直に、「今自分はこういう状況だから、1日お休みをください」、というような手紙を書いたことがあるんです。
なかなか言いづらいかもしれないけれど、でも何かあってからでは遅いので、最低限の自己管理として、自分でできることはやった方が良いなと思いました。
ちなみにお休みをいただいた後は、「復活しました、ありがとうございました!」という内容のお手紙を書いた記憶があります(笑)。
(3)「できないからどうするか」と向き合う姿勢
・自分の都合は、子どもたちや保護者には関係のないこと。
・たとえできないことがあっても、それを「〜だからできない」と言い訳をするのではなく、「できないからどうするか」と向き合う姿勢が大事。
・“経験が豊富なベテランで、保育には慣れているけれど、プロ意識がなく自分の想いばかり優先している保育士”と、“新卒でまだわからないことやできないことがあるけれど、責任を持ち、子どもの成長を考え一つずつ向き合っていく保育士”。
もし自分の子どもを預けるとしたら、どちらの保育士に預ける?
・大事なのは、できることやこなすことではなく、一つひとつに真摯に向き合うこと。
・子どもたちの成長を、心から考えることができれば、きっと行動にも自然とプロとしての意識と責任が伴ってくるはず…!
雨宮:
これは私が子どもを預ける側になって感じたことなんですが、毎日子どもの様子を丁寧に教えてくれることって、すごくうれしいんですよね。自分の子を一日ちゃんと見てくれていたんだなぁというのが、お迎えの時に話しただけでも伝わってきて安心するんです。反対に、そこをおざなりにされていると、ものすごく不安になる。
これは、ベテランの先生であっても、若い先生であっても同じことで。
例え経験がなくても、真摯に向き合ってくれているかどうか、ということがとても重要だと私は思っています。保育をする上で経験の差は大きいかもしれないけれど、関係ない部分もあるとヒシヒシと感じました。
新卒だから、入ったばかりだからできない…と思うことが、最初は、多いかもしれない。
でも厳しく言えば、それは自分の都合で、子どもたちや保護者には関係のないこと。一度現場に出てしまえば、プロとして向き合わなくちゃいけないな、と思うんです。
できないことは誰にでもあるけれども、言い訳にするんじゃなくて「じゃぁ、どうするか?」って考えること、向き合うことが大事だなぁって。
多少わからないこと、できないこと、悩むことがあっても、子どもにとって何が良いかを真摯に考えていくことができたら、きっといろいろな壁が出てきた時にも強く在れるんじゃないかなぁと思います。
菊地:
私が園長を務める東京・東日本橋にあるこどもの王国保育園は、施設としては広くないんですよ。
だからオープンしたとき、もっと広くて条件のいい園からきた保育士は、最初戸惑いや不便なことも多かったみたいで。
でも一見マイナスに見えることも、使い方によって狭いからこそできること、生み出せる工夫とかが、きっといろいろあると思うよ、と伝えてきました。
「できないから、どうするか?」っていう考え方は、私も大事だなって思いますね。
(4)お母さんの話
・園で働き始めると、毎日子どもたちが登園してくれるのが当たり前。
・でも、目の前の子どもたちが生まれるまでには、いろんなエピソードが。
・妊娠中の話。出産のエピソード、生まれてからの話。
働き始めると、なかなか聞く機会がないけれど、知っておくと知らないとでは関わり方にも違いがある。
雨宮:
0歳児のお母さん方に、エコー写真や出産や子育ての記録を持ち寄ってもらい、みんなで語り合う時間をつくったことがあるんです。そこでお母さんたちの妊娠・出産の経験を聞くと、みんなそれぞれ、ちがっていて。お母さんたちが話す、その子の背景にはとても重みがありました。
現場に出ると、園に子どもが来るのが当たり前。そんな話を聞く機会はなかなかないけれど、知っているのと知らないのとでは、子どもたちを預かる重み、関わるときの意識がまた違ってくるんじゃないかなと思います。
だから、そういう話をちょっと聞ける機会があると、保育にも大きくつながる部分があるんじゃないかな、と私は思っています。
もうひとつお話したいのが、私の保育士時代の忘れられないエピソード。
お母さん方と関わる中で時々ちょっとギスギスしてしまうことがあって…
その一つが子どもの爪。
危ないから爪を切ってきてくださいね、と伝えていても、なかなか切ってこない方がいるんですよね。
でも実際に自分が子育てしてみると…
子どもの爪って、まぁなんて伸びるのが早いんでしょう。切ったばっかりなのに、もう伸びてる。ウソでしょって(笑)。
そういう自分の体験を通して感じたのは、先生から注意されるタイミングは、だいたい自分が仕事ですごく忙しかったりして、余裕のない時なんですよね。
今考えると、私が保育士だった時にお母さんたちにかけるべきことばは、「お母さん、爪を切ってきてください」じゃなくて、「お母さん、大丈夫ですか?最近忙しいですか?」だったかなぁって。
自分が先生にそう声をかけてもらったら、どれだけ救われただろうって思いました。
だからそんな風に、お母さん、お父さんの立場を知れる機会なんかがあると、いろいろなものの見方がちょっと広がるんじゃないかな、って思ったりします。
菊地:
うちの園でも保護者と一緒に子どもを育てている感覚は、大事にしたいなと思っていて。
子どものことは話をするんですが、仕事の話を聞く機会はあまりないかなぁ…
保護者が「最近、忙しくってね」なんて愚痴をこぼせるくらいの関係に、もうちょっとなりたいなって、この話で改めて思いました。
(5)保育に「正解は、ない」ということ
・正解は、ない。
・知らないことがあることを知らないって、とっても怖いこと。
(知った気にならないこと)
プロとしての自覚と心構えを忘れずに。
目の前にいる子どもたちの姿を大切に。
雨宮:
これが…一番大きいことかな、って思います。
以前、対談させていただいた新沢としひこさんの、心に残っていることばを引用しますね。
「保育は正解がない」ってよく言われるけど、現場にいると本当に毎日自分自身を問われることって多いと思う。
このケンカは止めた方がいいのか、それともこのままケンカさせた方がいいのかとか、この子の「チャレンジしたい」という気持ちは応援したいけど、ケガはさせちゃいけないよねとかさ。えー、どっち?どっちが正解?って、思うことがいっぱいあるよね。
その都度、判断しなくちゃいけなくて、そういうことが疲れてしまうという先生もいるかもしれないけど、でも、そこが人間を保育していく面白さでもあり、難しさでもあって、一瞬一瞬自分を問われる素晴らしい仕事だと思うんです。
そのかわり、何にも感じなくても惰性でやっていけたりもするから、ぜひ保育士さんには生き生きと悩んで、頑張ってほしいなぁ。
(「考えることをやめないで。」にじ作詞者、新沢としひこさんが語る、“保育と歌”で大切 にしてほしいこと<前編>より)
雨宮:
正解があったほうが、楽だとは思う。
一人で葛藤することはすごくしんどいだろうし、上の先生から指示されたら従ってしまった方がきっと簡単だろうし。
その中でいかに、生き生きと悩んでいけるかって…すごく難しいなと思う部分でもあるんです。
今日こうして話したことも、みなさんに何を伝えるかすごく迷って、選びました。
でも私が話したことも正解ではないし、あくまでも私が考える「先生になる前に知っておきたいこと」。
多分これから先、みなさんが経験を積む中でそれぞれ出てくるでしょうし、それを後輩の人たちに伝えていってほしいなぁと思っています。
菊地:
よく園の保育士から「こどもの王国保育園らしさって、なんですか」って聞かれることがあって。
そんなときは、自分自身で考えることが、うちの保育園らしさなんじゃないかな、って伝えています。
園として理念や大事にしてほしいことはあるけれど、それとともに先生たちは現場でそれぞれ模索していったほうがいいし、探求できる先生たちであってほしいなって思います。
そういう保育の奥深さは、これからうちの園に来る保育者にも伝えていきたいなって思います。
参加した先輩保育者が「知っておけばよかったな」と思ったこと、いろいろ
・実習は先生が付いていたけれど、保育士になった初日からいきなり現場でいろいろ任されることが。実習の延長みたいな気持ちだと乗り切れないし、プレッシャーがあるって知っておきたかったなって思った。
・子ども達を惹きつけるための歌や手遊びのレパートリーを、いろいろ知っておけばよかったなって。目まぐるしい保育のなかで、ちょっと落ち着いて子どもたちの様子を見ることができる時間になる。
・慌ただしいと、目的を見失いがちになるから気をつけてねって、あの頃の自分に言いたい(苦笑)。
たとえば子どもの事を考えての戸外遊びだったはずなのに、いざ外に出ると、いかに安全に、この次の流れをスムーズにするために…ということに偏ってしまったり。予め見通しを持たなくちゃいけないなと。
・専門学校に2年間通って保育士になったけれど、ピアノ経験が少ない。ほかに何か代わるものがあればいいけど、それがなかったときにプレッシャーを感じてしまって…やっぱり手遊びとか歌、制作も含めていろいろと引き出しを持っておくことが大事だなと感じた。
・保育士になりたての頃は、園によって保育が違うことをわかっていなかった。だから自分の園で見たものが絶対、当たり前だと思っていた。ほかの園の人と話してみて初めて「そんなのもありなんだ〜」と知った。
・当時は、雑誌に載っている制作活動をするとき、書いてある通りに作らなくちゃいけないような気がしていた。手遊びも“ちゃんと覚えなくちゃいけない”とか、正しくやることにとらわれていたなって。
今、後輩の先生たちが相談にきたら、それらを参考にしながらもオリジナルでやってみたらいいんじゃない?ってアドバイスする。もっと子どもと愉しんでみればいいよ、って。
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ほいくるでは、今後もこういったみんなで考えたり、学びを深めたりする機会を作っていきたいと思っています。
今回参加できなかった皆さんも、よければまたの機会に、ぜひあそびに来てくださいね。