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「ベテラン保育者も、新しく入った保育者も。みんなで子どもと園を育てていきたい」ベネッセがつくった“子どもと関わるための40の手掛かり”

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掲載日:2020/03/20
「ベテラン保育者も、新しく入った保育者も。みんなで子どもと園を育てていきたい」ベネッセがつくった“子どもと関わるための40の手掛かり”

ベネッセの保育園を取材(前編)する中でキーポイントの一つになっていると感じたのが、「保育の手掛かり」と呼ばれる“パターン・ランゲージ”です。

一体、どのようなものなのか。
パターン・ランゲージがあることで保育現場に生まれた変化とは…?
制作したベネッセの運営担当者のみなさんに、お話をうかがいました。

(左から)こども・子育て支援カンパニー佐久間貴子さん、前重仁美さん、開発基盤本部の加藤イオさん、米須正明さん。


パターン・ランゲージ“保育のための40の手掛かり”って?

1994年から保育事業をスタートしたベネッセが、長年に渡って大切にしてきた保育理念や実践知を、スタッフの間で共有しさらに深めていきたいという思いのもと、※パターン・ランゲージという手法でまとめたのが“保育実践から生まれたこどもが伸びる40の手掛かり”(「その子の宇宙が拡がり続けるためのことば」)。
カードや本という形にして、各園や保育者に届けています。

※1970年代に、都市計画・建築家のクリストファー・アレグザンダー氏が提唱した、建築・都市計画において真の住民参加を実現するために共通言語を構築・活用する理論。

このカードや本の中には、保育の中での子どもとの向き合い方や生活、環境づくりのヒントとなる40の言葉“パターン”が集められました(例えば「こどもからはじまる」)。

それぞれのパターンには、保育の中で子どもが置かれている「状況」、それによって起きることが多い「問題」、そんな時どうしたら良いかを示した具体的な「解決方法」、実践してみることで子どもや大人がどう変化していくかを想定した「結果」が紹介されています。

どの手掛かり(パターン)も、ベネッセの保育園で実際に働く保育者の経験や声などの“生きた事例”を元に構成されています。


街に出て子どもたちの世界を広げていこうと提案するパターン「おでかけ園庭


取材したベネッセの保育園では、散歩をしながら周辺の公園を利用し遊んでいました。

保育園事業をはじめて25年、パターン・ランゲージを作った理由

ー パターン・ランゲージというものを、今回初めて知りました。そしてそれを保育者に向けて作ったというのは、とても斬新だなと。きっかけは、どんなことだったのでしょうか。

加藤さん(以下:加藤):
我々の会社、ベネッセスタイルケアは、介護・保育事業を運営しています。
全国に300以上の有料老人ホームがあるんですが、実はそれぞれのホームには、ご入居者にとって、居心地のいい場所というのがあるんです。意図して作られた場所もあれば、そうでない場所で気持ちよく過ごされている方を見かけることもある。
これを言語化し、高齢者に寄りそった介護環境を作るメソッドとしてまとめるのはどうだろう、というのが、最初のきっかけでした。

これから20年、30年先も事業を続けていく中で、我々が大切にしたい介護・保育の質を落とさずにどんどん高めていくためには、メソッドが必要なんじゃないかと。
そうして社内で介護と保育それぞれの特長的なメソッドを言語化しようという話が出る中であがったのが、パターン・ランゲージという手法でした。
そもそもは、1970年代に一人の建築家が考案した方法。でも、どうやって作っていいのかはわからない…。ということで、新規建物の設計を担当している私たちが指名を受けたんです(笑)。

米須さん(以下:米須):
加藤も私も建築学科を出ていたので。もともとパターン・ランゲージというのは建築を学ぶ学生にとって、馴染みのあるアイデアではありました。

ー では最初は介護環境のパターン・ランゲージを作ろう、とスタートされたんですね。それで保育環境のものも、同じように?

加藤:
2016年に始まり、一年かけて介護環境のパターン・ランゲージをつくりました。

米須:
だから保育も同じような手法でつくれるかなって思ったんですけど、最初はうまくいかなかった。

前重さん(以下:前重):
まず保育園が大事にしている環境、いわゆる建物や造りはどんなものか、園長先生にヒアリングすることになり、米須さん、加藤さんも同席してくれました。
10人以上のグループ園の園長先生にいろいろお話を聞いていくと、保育での課題は、どうも環境ではなさそうだと。
ほとんどの園長先生たちが熱く語るのが、保育の中身。でもそれらは口頭伝承というか、形になっているものがありませんでした。
園長先生の保育への熱い思いや話を形にした方が、よりたくさんの園に広げていけるものを作れるんじゃないかって、私たちの考え方が変わっていったんです。

佐久間さん(以下:佐久間):
その流れとは別に、保育園の数が増えていく中で何年も前から私たち運営側がやらなくてはと考えていたのが、保育の可視化・言語化でした。
マニュアルにはできない日々の子どもとの関わり、積み上げてきたベネッセの保育の内容をどういうふうに多くのスタッフに伝えていくべきなのか。
いろんな形でチャレンジしていたんですけど、うまくいかなくって。

前重:
この資料、これまで積み上げてきた“ベネッセの保育の考え方”というのが、それこそ25年分くらいあります。

ベネッセの保育園はどの園も同じ保育理念でやっていますが、新しく入社される方や新卒の人たちに、なんかちょっと難しそうと思われることもあり。
でもちょうどいいタイミングで米須さん、加藤さんに関わってもらうことになり、「ベネッセの保育の考え方」にもきっとなにか役に立っていくだろうと、これらも踏まえて、パターン・ランゲージをまとめることにしました。

厳選したシンプルな言葉でまとめあげた40の手掛かり

ー 実際に園長先生にヒアリングをされて集めた40の手掛かり、これらはどうやってセレクトされたんでしょうか。

米須:
最初は…80、今の2倍くらいの、保育の手掛かりとなる言葉の候補があがったんです。だから、だいたい1回の打ち合わせに2〜3時間。
みんなで集まって、インタビューした園長先生の言葉をテキストに起こして、保育の中で代表的なパターンはなにか、そのパターンはどういう考え方なのか、その背後にあるのは何なんだろう…と。ずっと分析と議論を重ねた、という感じです。
その過程で70ぐらいの言葉になって、それをさらにひたすら削ぎ落とすっていう。

加藤:
その削ぎ落しの繰り返しから、本でいうとパターン名、状況(左ページ)、問題、解決方法、結果(右ページ)というフレームに、議論から発見した保育の特徴をどんどん落とし込んでまとめた結果、40のパターンになりました。


ー ある人だけに響くコアな状況や悩みなどではなく、多くの保育者の方が現場でぶつかりそうな状況や問題を見つけていく必要があったわけですよね。

佐久間:
私たち保育園を運営する側は、日々の現場で起きたエピソードや事例はたくさん持っているんですが、それを可視化したり整理したりすることは難しくって、大変なプロジェクトでした。

前重:
ベネッセの保育園が大事にしていることは伝えられるんですけど、じゃぁ大事にしていることはなんのためにやっているの?とか。突き詰められましたね。


米須:
重要なのは、一つ一つのエピソードはつくっているんじゃなくて、現場で発見したもの。だから宝物のようにいいものがあって、みんなで見つけたものに、言葉をつけているって感じでした。


ー 保育関係者にだけわかる専門用語をつかうのではなくて、一般にも、というんでしょうか。“刺さる”言葉選びをされているのが印象的です。


メイドイン園」子どもの興味・関心や発達に合わせて手づくり玩具を置いてみることが提案されています。

加藤:
マニュアルになると「やりなさい」って上から降ってくる。
でもこの「保育の手掛かり」は、読んだら「やってみよう」「自分の考え方はあっていたんだ」と、読んだ人の背中を押すものにしたかったんですね。パっと読んだ時に「あ、難しそう…」となっちゃうと入っていかないので、なるべく柔らかく。
専門的な人が読んでも、新人の人が読んでも伝わるものにしよう、っていうのはチームのみんなで目指していたものです。



ー イラストは、想像力を掻き立てられますね。


声かげん」こどもたちの自発性を第一に、タイミングを見た声かけの大切さが伝えられています。

前重:
保育士さんは感性の豊かな方が多いなと思っていて。
見開きで見た時に、左ページでキーワードや英語のフレーズが直感的に感じ、絵でさらに想像を膨らませてもらえたらと思っています。
右ページは正直、読んでも読まなくても、何かそこからヒントを得たり引出しになったりするといいな、という感じで作っているんです、私たちとしては。
やっぱり、保育は正解がないと園長先生たちからもよく聞きますし、あくまでもこれらはヒントであって、絶対ではない。
「〜ねば、ならない」にならないように、相当意識してつくりました。



ー「ベネッセの保育だから、こうやってね」という押しつけではなく。

前重:
そうです。
あくまでもこのパターン・ランゲージはヒントで、それを具現化したり自分たちで考えて提供したりするのは保育者である。
そこは、プロジェクトメンバーが大事にしたところです。


板橋三丁目保育園の階段には生花が飾られていました。パターン「本物に触れる」「生き物は保育者一人分」の実践が園内の随所に。

ーパターン・ランゲージを届けられて、園の皆さんからの反応はどうですか?

前重:
経験の長い園長先生からは感謝の言葉をいただきました。
これがあることで、スタッフにも保護者にも伝えられるようになる。大事なことは40以上あるかもしれない、けれどもよく40にまとめてくれた、というお言葉をもらいました。
新しく園長先生として着任された方は、職員間の目線合わせや園内研修が充実したり、投げかけがしやすくなったりしたと言っていて。
やっぱり活用している園は、スタッフ同士の語り合う内容が変わってきているように感じます。
完成してちょうど一年、これからもっと活用してもらえたらいいな、と。

一人ひとり、お子さんは違いますよね。
それだけ保育って難しくて、どうしたらいいのかわからない迷いがある。
でもパターン・ランゲージをきっかけに、一つでも二つでも保育の引き出しが増えたり、自分は子どもとこういう関わりをしてみよう、と思ってくれたりしたらいいなと思います。

***

(おまけのおはなし)
保育現場以外のシーンでも活用されている「パターン・ランゲージ」

ー このパターン・ランゲージ、その内容は同じですが、本とともにカードもありますよね。現場での研修や実践に使いやすそうです。

加藤:
意外と、普段隣にいる人がどんなことを思って仕事をしているのかを知らなかったり、そこまで深く話したことがなかったりすることは多いですよね。
そんな時はこのカードを並べるだけでおしゃべりが始まり、いつも隣にいる人が実はいろんなことを考えているんだ、と気づきあえる。
シェアする仕組みを作ると、学び合いの構造ができるんじゃないのかな、って狙ったのもこのカードの特徴なんです。
それが一番簡単な使い方で、研修で使うにはどうしたらいいか、ワークショップ形式で使う時は工夫したらもっと深い話ができるんじゃないか、っていうのは、もう少し開発の余地があるかなと思っています。


佐久間:
私が印象的だったのは、同じ社内で保育園に子どもを預けているパパ社員の話。
保育園から自分の子どもの写真が送られてくるそうなんですが、(集団から離れて)向こうで一人で何かやっている写真ばっかりで、それをすごく心配していた。
でも「一人でも過ごせる」という手掛かりを知って、「そういう時があってもいいんですね!」って。心がほどけたっていうのを聞いたときは、このパターン・ランゲージは、子育てのヒントになるのだと思いました。

ー 本については、出版されて一般販売もされていると聞きました。

佐久間:
園で大切にしている保育理念なので、園内で保護者の目に留まる場所に飾ったり読めるようにしていたら、保護者の方から「これは売ってもらえないんですか?」というお話があったそうです。そこで「ちょっと考えてみようか」と。
2019年度にグッドデザイン賞を受賞したタイミングもあり、出版することになりました。


『その子の宇宙が拡がり続けるためのことば』は、一般書店や書籍販売サイトなどで購入することができます。

前編: 「人と人とのつながりを一番に、家庭のような保育園をつくっていきたい」〜ベネッセの保育園〜
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「人と人とのつながりを一番に、家庭のような保育園をつくっていきたい」〜ベネッセの保育園〜

今回訪れたのは、東京都板橋区にあるベネッセ 板橋三丁目保育園。
20年以上前からベネッセグループが各地で手がけている保育園のなかの一園で、まもなく開園3年めを迎えます。

 保護者がわが子を預けたいと思える保育園を作りたい。
そんな企業の理念を体現するように、保育者一人ひとりがゆったりと子どものそばに寄り添うお家のような保育園。
時に迷ったり立ち止まったりしながらも、思いを一つに保育に向き合う保育者たちの姿が印象的でした。


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