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「生命性に触れる体験を」ー岩屋こども園アカンパニ(京都府 京都市)

ほいくる編集部
掲載日:2016/12/02

岩屋こども園アカンパニの特徴はどんなところ?


岩屋の子は、よく“伸びのびしている”という表現をされることが多いかな。
僕らは、伸び伸び保育や自由保育を目指しているわけではないんですけれども、結果的にそう感じる部分があるのかなぁというのが、特徴の一つ。

園として大切にしているのは、自分でしたいことをみつけて、「おもしろかったぁ」と思える経験。
そういった経験を通すことで、自分のことが好きになるし、“生命性に触れる体験”ができるんだと思います。

生命性に触れる体験って、自分でみつけた遊びの中にあるんですよね。
自分でみつけた遊びを通して、“生きる意欲”、そういうものが子どもたちの中に蓄積していくんだろうなと思っています。


それから、職員同士仲が良い。
職員と子どもの仲が良いというのも、保護者が岩屋を選んだ理由としてよく言われる特徴の一つです。

—そういえば取材中、園長先生が移動する度に子どもが集まるのが印象的でした。

それは多分、職員のおかげですね。
例えばね、お家でお母さんがお父さんに「お醤油とってくれる?」とお願いするのと、「お醤油とって!」とお願いするのとだと印象が違いますよね。
そういうようにして、子どもの父親像は母親がつくり、母親像は父親がつくると僕は教えられてきたんですけど。
きっとそれと同じなんじゃないかな。



最後にもう一つ大きな特徴としては、自然環境の中にあるということと、広いというところ(写真は、冬の杜)。
逆にいえば、ここは通うにはとても不便な場所にあるんですけれど。
園内にはスタジオやシアターやアトリエがあって、室内と戸外の両方を含めて子どもが育つ環境が充実しているというのが、環境的な特徴です。


岩屋こども園アカンパニらしいエピソードは?


まずは、中学3年生の男の子を筆頭に、職員の子どもでここを卒園した子、今通っている子、来年から入園する子を合わせると、50人を越えること。
今現在も、在園中の子だけで、20人弱はいるかな。親子で同じクラスにならないようにするだけで担任が決まってしまうくらい(笑)

それから2つめに、13年間求人を出していないけれども、職員が入れ替わっていること。ここの実習生や卒園児がきてくれることが多いですね。
少し前に小学校6年生の子たちが同窓会をした時には、ほとんどの子が集まったんですよ。

幼少期の頃のここでの思い出が深いのか、時間が開いてもみんなで集まったり、卒園児の就職率が高かったりするのはうれしいなぁと思います。



あとはね、見てもらえればわかるように、うちはほぼ毎日作品展状態(笑)。
これが当たり前。
だから作品展のときは、子どもたちの作品をより丁寧にきれいに展示するだけ。
その日だけを大切にするというよりは、日常を通していろんなことを楽しんでいます。


保育のおもしろいところって?


なんだろうなぁ。言葉にすると難しいけれど…
子どもたちが一生懸命なところというか、うそをついても、本音がむき出しになっている無防備なところというか。

もし、自分の本心を相手にさとられないようにすることが大人だとしたら、その真逆のところにいるのが子どもかな。
そんな“むき出し”の子どもと触れ合えるのが、おもしろいなぁと思いますね。


保育をする上で、大切にしていることは?


子どもに寄り添う職員って、ものすごく大きくて大切な存在で、その人たちが働く環境はとても重要だと思うんですよね。
でもそれって、具体的じゃないとあかんと思うんです。
僕は研究者じゃないから、実践してなんぼでしょ。どんなに理想を掲げたって、掲げるだけでは意味がない。だから、保育の環境を整えるというところでは、これまでにいろいろと実践してきました。

職員の定着率をあげるために、子持ちでも働ける環境をつくる、ということからスタートして。
2年間、残業ゼロというのもやりました。
誰かが残業したら、その原因になったものをやめる。

例えば、運動会の準備で残業したとしたら、運動会をやめることにする。
そうすると、「残業したら運動会ができなくなる!えらいことになるで〜」ということで、今ある時間や環境の中でどうするかを考えるようになる。

会議は、日中に会議の時間をつくって、話し合いがしたい人はその時間にする。
すると、限られた時間しかないので、みんなそれぞれ担当者がレジュメを用意して準備をした上で効率的に話し合いができるようになる。



そうやってずいぶん働き方を見直していったけれど、保育内容の質が落ちることはありませんでした。
みんな余分に頑張っていただけだったんですね。

他にも、保育指針や教育・保育要領を通して自分たちの保育の何がどこにあたるかを具体的に読み解いていくなど、まだまだいろんなことをやりました。
そうしていくことで、自信を持って胸を張れるようになっていったかな。

僕たち大人自身が楽しんでいたり、自信を持っていたり、それこそ生命性に触れる機会を大切にしていくことで、子どもたちに、「この世界はこんなに美しいよ」ということも伝えられると思うんですよね。


室田園長が考える、そもそも、保育とは?


大人って、子どもに対して育てようとしたり、教えようとしたり、しつけようとしたりしますよね。
もちろんそれは子どもを幸せにしようと思ってのことだけれども、でも、子どもには子ども性というのがあって。

子どもの無邪気さやイノセンスに触れて、こちらが、心や濁った目を洗われたりすることってあるじゃないですか。
「子どもってすごいなぁ」っていう、大人の魂を浄化してくれるような。
それが子どもというか、僕は子ども性と呼んでいるんですけどね。

なんでこんなに洗われるのかというと、子どもと触れ合うことで、自分がむき出しでいた子ども時代が呼び起こされるからなんですよね、きっと。
小汚い世の中で過ごすうちに忘れてしまうんですけど、子どもと触れ合うことでまた目覚めさせられる。


一クラスで考えたら、30人くらいの子ども性が溢れているわけでしょ。
そう考えると、僕たちって、子どもを手伝うことはできても、教えるっていうのはちがうんじゃないかなぁって。
一緒に何かをすることはあっても、教えるというよりはこちらが気付かされるとの方が多い。

こんなにありがたい仕事はないなぁと思う。
これが保育じゃないかなと思います。


さいごに夢を教えてください

あと4年半で引退すると、決めているんですけどね。
その時に、僕がやった通りのことを引き継いでいくんじゃなくて、自分がこれまで積み上げてきたものを、次の世代の人たちが自分たちに合った形で継承してくれることかな。

たぶん、辞めるときはむちゃくちゃ淋しいでしょうね…
でも、次になる人の頭がまだ柔軟で、失敗したり何かあったときに、謙虚に素直に受け入れられるような歳の時に交代した方が良いだろうなぁと思うんです。
それが、僕が早くに引き継いでいく理由です。

岩屋こども園アカンパニ
http://www.iwayanomori.org/index.html



取材・文・写真:雨宮みなみ

▼今回取材した、室田一樹園長先生が書かれている本のご紹介


・保育の場で子どもを理解するということ:エピソード記述から“しる"と“わかる"を考える
・保育の場に子どもが自分を開くとき―保育者が綴る14編のエピソード記述
・子どもの遊びをデザインする―エコマネジメントの視点から (保育園経営ブックレット)