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「“今これやりたい”を大切に」ーシンフォニア保育園(東京都 江東区)

三輪ひかり
掲載日:2016/10/12

「シンフォニア保育園」の特徴はどんなところ?

「シンフォニア保育園」の特徴はどんなところ?


シンフォニア保育園の特徴は、子ども自身の「今これやりたい!」という気持ちを、何より大事にしているところでしょうか。

この時間はこれをしなきゃいけないということや、逆にこれはやってはいけないということは、シンフォニアではありません。
(見学させていただいた美術の活動も、クラスの子どもたち全員が参加しているわけではありませんでした)

そんな子どもたちの「今これやりたい!」という気持ちを、大人が黙って見守っていると、毎日、私たち保育者のほうが、新しい発見と学びの連続で。

「子どもだからまだ無理だろう」とか、「子どもだからこうするだろう」とか、大人が持っている概念を押しつけたり、余計な声掛けや手助けをしたりしていた時には見えなかった、“本来の子どもの姿”が見えてくるんですよ。

すごく興味深かったのが、最初子どもたちは、(1)散歩にいく、(2)お部屋で遊ぶ、(3)テラスで遊ぶ、と大人の頭で考えられる選択肢の中から、今やりたいことを選んでいたんですけど、そのうち、それ以外の、(4)の選択をするようになっていったんです。

「ぼくはこれをしたい」って。

子どもって、大人が考えているよりも自分で考える力と伝える力、そしてこれをしたいという想いを持っているんですよね。

最近子どもたちの間で「流行っていること」はなに?

最近子どもたちの間で「流行っていること」はなに?


「虫」ですね!
どのクラスでも、常に「虫」が子どもたちのそばにいます。


この辺りは、作られた街なんですけど、意外と自然があるんですよ。

実は、以前は虫を捕まえてきても、じゃあその後はどうする?…と、子どもたちはそこで虫との関わりが終わってしまっていたんです。

でも、7月にネイチャー・エデュケーションという自然教育や自然体験をされている方を講師に呼んで、職員研修をして。

職員全員で外に出かけて、虫を取ったり、自然にたくさん触れたりすることを、保育者たち自身も体験することによって、その更に一歩先の虫との関わりが、子どもたちの中に生まれてきたように感じます。

子どもたちは、虫と生活し、遊び、学びます。


子どもたちは、虫と生活し、遊び、学びます。

保育の様子を見ていただいたので、感じたと思いますが、子どもの今やりたいをすべて受け止めるからこその、大人の葛藤みたいなものもあります。

子どもたちは、まずその虫にたくさん触れようとしますからね。
力加減だってわからないし、虫はどんどん弱っていってしまう。

セミも、蟻も、他の虫や生き物たちも。
もう何匹犠牲になってもらったか…(苦笑)。

でも、最初は、虫カゴの中に積み木をいれるはひっくり返すはで、本当に虫さんごめんなさいという気持ちでいっぱいではあるんですが、そこの経験を見守ることによって、子どもたちは自分の体験を通して、虫との向き合い方を学んでいくんですよ。

保育のおもしろさを感じるところは?

保育のおもしろさを感じるところは?


園長としては、職員(保育者)の変化ですかね。

一緒に保育について向き合ったり、話をよくするんですけど。
その後、実際に先生たちが子どもと向きあった時に、今までとちょっと違う関わり方を試みていたり、新しい気づきを得たりしている瞬間を見ると、本当に嬉しい気持ちになります。

あと、園長になる前は、子どもと気持ちがぴたっと合うというか。
声をかけなくても、相手の気持ちがわかったり、あぁ向こうもわかってくれているなと、共鳴したりする時が、すごく好きでした。

これは、担任ならではの醍醐味かもしれませんね。

保育の課題と、その課題を解決するために取り組んでいることとは?

保育の課題と、その課題を解決するために取り組んでいることとは?


理論とか研修、学びということだけでなく、子どもとどう向き合っていくか。本当の意味での、「保育者の質の向上」ですかね。

どうしても保育をしていると、子どもやどう保育するかということばかりに目がいきがちになってしまう。

でも、いくらひとりひとりが保育スキルが高くても、保育者同士が互いを認めたり、相手を大事にしたりできないと、いい保育はできないんですよ。

だから、わたしはシンフォニアの園長に就任した時に、こういう保育をしましょう、という話よりもまず、大人(保育者)のチーム作りをしたんです。

シンフォニア保育園全体がひとつのチームであり、各クラスそれぞれがチームで。

子どもと向き合う。
仲間と向き合う。
自分と向き合う。

の3つの向き合うと、

相手に伝える。
伝えてくれたことを受け入れる。

の2つの勇気を基本として、その上で、“自分たち”はどんなクラスを目指し、3月にどんな子どもの姿を見たいのかを大切にして、チーム作りを始めました。

今年度が始まって、まだ4ヶ月なので、まだまだこれからだと思いますが、立ち返るべき場所があるというだけで、職員たちの毎日の振り返りの仕方や、意識が変わったように思います。

子どもたちと関わる上で大切にしていることは?

子どもたちと関わる上で大切にしていることは?


とにかく「子どもが今やりたいことを没頭してやれる」を、保証してあげることですね。

たとえば、「もう少し大きくなってからにしようね。」とか、「それは赤ちゃんがすることだから、やめましょう!」という言葉を聞いたりすることがあると思うんですけど、そうやって禁止するのではなく、認めて、見守ってあげる。

それがその子の根っこになる、と信じています。

正直、わがままな子に育っちゃうんじゃないの?とか、しつけはしなくていいの?とか、目に見えない不安を抱くこともありますよ。

でも、子どもたちはやりたいことをしっかりやれて、その行動を、そして自分自身を認められていると感じることができて、初めて、周りを受け入れられるようになると思うんです。

そして、その土台が満たされた時に、大人から子どもに伝えたい“人として生きていく上で大事なこと”も、子どもにきちんと届き伝わるのではないでしょうか。

シンフォニア保育園が考える「保育」とは?

シンフォニア保育園が考える「保育」とは?


私たちは、子どもの“今なにしたいか”を大切にしていますが、それは、子どもたちひとりひとりの“一生”を見据えているから。

小学1年生になった時に困らないように…ということで、保育ってするわけじゃない。

そうじゃなくて、その子が人として生きていくために、ここがあるんです。

いいんです、1年生の時に多少困っても(笑)。
子どもたちに、自分で乗り越える力があれば、大丈夫。

子どもたちの人生は、保育園を卒園しても続いていきます。

だから、この保育という場で子どもたちが過ごす6年間は、その子が人として生きていくための最初の6年。

人間の一番大事な土台を作る大事な場所であり、時間。
それがここ(保育)なんだ、と思うんです。

社会福祉法人みわの会 「シンフォニア保育園」
http://www.miwanokai.jp/sinfonia/


取材:三輪ひかり/雨宮みなみ 文 ・写真:三輪ひかり