「人は、環境によって育つ」_ 園庭が子どもにも大人にも育ててくれるものとは?

前編では、園長の一見千枝子さんに、西池袋そらいろ保育園の園庭が、完成された場所ではなく、「育ち続ける場所」である理由を伺いました。
そこには、「豊かな遊び環境とは何か」という問いだけではなく、保護者と一緒につくることや、子ども自身が判断する力を育てることなど、「人が育つ環境」を15年にわたって考え続けてきた積み重ねがありました。
そして、その話の最後に語ってくださったのが、「大人が判断する安全から、子どもが判断する安全へ」という言葉。
その考え方は、実際に子どもたちの姿としてどのように育っているのか尋ねると、一見さんはある出来事を静かに語り始めました。
「僕はぶつからなかったよ。守ったよ」
私がそらいろ保育園に入職して間もない頃、いつものように、年長組の男の子が、高さ約1.5メートルほどのタワーから飛び降りて遊んでいたんです。
子どもが飛び降りて遊ぶだろうと想定してつくった遊具なので、下で遊ぶ子とぶつからないように工夫してつくられていましたし、普段から子どもたちも保育者も、お互いに周りを見ながら遊んでいました。でも、その日、その瞬間だけ、1歳の子がふっと下に出てきたんです。
「怪我した!」そう言って事務所へ連れてこられた年長組の男の子の太ももは、大きく擦りむけていました。小さい子を避けようとして、体をひねったんですね。
当時の園長と一緒に「痛かったね」と声をかけると、その子はなんて言ったと思います?「僕はぶつからなかったよ。守ったよ」って言ったんです。

普通だったら、「あの子が出てきたから」とか、「痛い」と言ってもおかしくない場面ですよね。でも、その子の口から出てきたのは、自分の怪我ではなく、「守れた」という言葉で、私は本当に衝撃で。「ああ、この園で大切にしてきたことは、ちゃんと子どもたちの中に育っているんだ。」そう思いました。
しかも、その日、お迎えに来たお母さんへ出来事をお伝えしたら、「危ないじゃないですか」と言われてもおかしくなかった出来事なのに、お母さんは涙を流しながら、「ありがとうございます」そう言ってくださったんです。
ー 子どもの姿にも心を動かされましたが、この「ありがとうございます」という言葉にも驚きました。
あの出来事を通して、私は、「人は、変えようとして変わるものではない。環境によって育っていくものなんだ」と強く感じました。
つくり続けるということが、教えてくれること。
ー 今、お話しを聞きながら改めて園庭を眺めていたのですが、この園庭自体も変わり続けることを前提につくられているように見えました。
そうなんです。私たちが手づくりにこだわる理由の一つも、そこにあります。目の前の子どもたちに合わせて、つくり替えられる。やり直せる。それが手づくりの一番の良さなんです。
例えば、この2段タワーも、最初は高さが約1.8メートルありました。でも、子どもたちの遊ぶ姿を見ていると、「高すぎて挑戦したいと思えない子」が多かったんです。そこで、「どのくらいの高さなら『やってみたい』と思えるだろう」と、保護者も一緒に園庭プロジェクトのメンバーで話し合い、脚を約30センチ切って、高さを約1.5メートルにしました。

すると今度は、チャレンジする子が増えることで、その先にある斜面で遊ぶ子とバッティングする可能性が出てきたので、反対側に板を付け足しました。
やってみる。子どもの姿を見る。みんなで話し合う。またつくり直す。その繰り返しで、この園庭はつくられてきました。
ー 「つくり続けること」そのものが、ここに関わる人を支えているのではないかと感じました。というのも、一度で完成させようとすると失敗が怖くなりますが、「まずやってみて、子どもの姿から考え直そう」という前提があるからこそ、大人も挑戦できるのではないか、と思ったんです。
そうですね、安心して失敗できるというのは大きいと思います。
そしてそんな風に大人が「やってみよう」「違ったら変えてみよう」と試行錯誤している姿を見ながら、子どもたちもきっと、「うまくいかなかったら、やり直していいんだ」と感じていると思うんです。

私はこれからの時代、「助けて」と言える人になることが、とても大事だと思っています。地域の福祉事業者の方たちと話していても、本当に困っている人ほど、「助けて」と言えないことが多いという課題がでてきます。「迷惑をかけちゃいけない」「頑張らなきゃいけない」そんな思いを抱えて、一人で耐えてしまうと。
でも、小さい頃から、「うまくいかなかったね」「じゃあ、一緒に考えよう」そんなやり取りを見たり、自分自身も繰り返したりして育った子は、つらい時に「助けて」と言える人になっていくんじゃないかなと思うんです。
あと、園庭にある自然もまた、子どもたちに同じことを伝えていると思うんですよ。冬になれば葉っぱが落ちる。春になれば、また芽吹く。自然は、「変わっていいんだよ」「どんなあなたも受け入れられるべき存在なんだよ」と、そのことを当たり前のように見せてくれているんだと思います。

保育者もまた、育っていく
ー 最後に、一見さんのお話を聞いていると、園庭づくりも、保護者との関わりも、すべて「人が育つ」ということにつながっているように感じました。一見さんは、人が育つ上で一番大切なことは何だと思いますか。
私は、保育って、とてもアナログな営みだと思っています。効率化やサービス化、スリム化も必要なことはあります。でも、それだけでは人は育ちません。
人が育つのは、人と人との関わりの中なんです。だから、子どもと関わる保育者自身が、まず自分と向き合うことが大事だと思っています。
子どもたちと過ごしていると、「うれしい」「悲しい」「悔しい」「苦しい」――保育者自身も毎日いろいろな感情を味わいます。その一つひとつを、「私は今、どう感じているんだろう」と受け止めていく。その積み重ねがあるからこそ、子どもの感情も受け止められるようになるんです。
「私はこうしてほしい」ではなく、「この子は今、本当は何を願っているんだろう」。そんなふうに子どもを見る目が育っていく。それも、保育者の育ちなんだと思います。

ー その保育者の育ちを支えているものの一つが、この園庭でもあるんですね。
そう思います。
室内だけでは見えにくい子どもの姿があります。でも自然の中へ出ると、子どもも大人も予定通りにはいきません。だからこそ、思いがけない姿に出会えるんです。
「この子って、こんなことを考えていたんだ」 「こんな力があったんだ」そんな発見を重ねながら、保育者もまた育っていく。
だから私は、園庭は子どもを育てる場所というか、人を育ててくれる場所なんだと思っています。
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撮影:雨宮 みなみ
この記事の連載
「育つ園庭」は、どうやって生まれるのか。── 保護者とともにつくる、西池袋そらいろ保育園の環境づくり
そして、ここは「完成された場所」というよりも、「日々、少しずつ育ち続けている場所なんだ」という印象を受けました。
