保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]by 小学館

「育つ園庭」は、どうやって生まれるのか。── 保護者とともにつくる、西池袋そらいろ保育園の環境づくり

三輪ひかり
掲載日:2026/08/21
「育つ園庭」は、どうやって生まれるのか。── 保護者とともにつくる、西池袋そらいろ保育園の環境づくり
西池袋そらいろ保育園の園庭を歩いていると、子どもたちが夢中になって遊んだ跡があり、手をかけ続けてきた木々や手づくりの遊具があるのに気がつきます。

そして、ここは「完成された場所」というよりも、「日々、少しずつ育ち続けている場所なんだ」という印象を受けました。

2段になっている手作り砂場。どうしてこんな形なんですか?と質問すると、「他園の面白い砂場を参考にしたんです」と園長の一見さん。
砂場のすぐ横には、井戸がありました。
ここが池袋だということを忘れてしまうほど豊かな緑。
園庭には、菌ちゃん農法で行っている畑も。
暑かった取材日、多くの子どもたちは裸足になってたっぷりと水遊び。
園庭の隅に見つけた、遊び跡。

この園庭は、どうしてこんな場所に育っているんだろう。

西池袋そらいろ保育園 園長・一見千枝子さんにお話しをお聞きしながら、その問いをたどっていくと、見えてきたのは「園庭づくり」の工夫だけではなく、保護者との関わりや子どもとの向き合い方など、保育の本質につながる考え方でした。

一見千枝子さん

公立保育園保育士18年、パート保育士4年の経験を経て2014年4月に西池袋そらいろ保育園に入職し、2017年4月に園長に就任。私立保育園園長会役員の他、特定非営利活動法人 園庭・園外での野育を推進する会の理事や他園の研修講師、保育士養成校の授業を担当するなど、多くの方と繋がることや対話を重ねる機会を大切にしている。「子どもの幸せは、まずは大人が幸せであること」であるから、大人がちゃんと自分のご機嫌をとれるよう心身の健康についての勉強をしている。子どもの面白い世界や子どもに関わる大人が大いに悩み生き生き働く世界に魅力を感じるワーク・エンゲイジメントなタイプ。

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「育つ園庭」は、どうやって生まれたのか

ー この園庭には、「出来上がった」というより、「育ってきた」という言葉がしっくりくるように感じました。ここまで育ってきた背景に、どんな考え方や積み重ねがあるのか気になりました。

私は2014年に西池袋そらいろ保育園へ入職したのですが、その頃にはすでに、「そらいろ保育園ではどんな保育をしていくのか」「そのためには、どんな環境が必要なのか」を職員みんなで学び、議論する中で、「園庭プロジェクト」が立ち上がっていました。

以来、17年近くに渡って、園庭を子どもたちの育ちに欠かせない場所としてつくり続けています。

園長の一見千枝子さん

その背景にあるのは、「人格形成の土台をつくる乳幼児期の育ちは、遊びの中にある」という考え方です。身体機能も、人との関係も、社会性も、人として大切なことの多くは、遊びを通して育まれる。

だからこそ私たちは、「子どもたちにとって、本当に豊かな遊び環境とは何だろう」と問い続け、その答えとして大切にしてきたのが、五感をたっぷり使って遊べる外環境だったんです。

ー 「豊かな遊び環境」という言葉は、よく耳にします。でも、一見さんのお話を聞いていると、それは単に自然が多いとか、遊具が充実しているということではないように感じました。そらいろ保育園では、どんな環境を「豊かな遊び環境」だと考えているのでしょうか。

大きく3つあります。
一つ目は、自然と触れ合えること。

都会の限られたスペースではありますが、17年かけて園庭を育ててきたことで、子どもたちの目線に立つと、森の中にいるような空間が少しずつできてきました。土や水、植物、生き物。子どもたちは毎日、五感をたっぷり使って自然と出会い、遊んでいます。

二つ目は、遊びがどんどん展開していく場であること。

園庭プロジェクトでつくってきた遊具には、「こう遊ぶもの」という正解がありません。例えば大きな斜面も、ある子にとっては滑り台になり、ある子にとっては山になります。子どもの自由な発想を引き出してくれる環境であることが大切なんです。

三つ目は、子どものチャレンジを促すこと。

子どもたちは、「自分を成長させよう」と思って遊んでいるわけではありません。「楽しそう」「やってみたい」その気持ちだけなんです。

だからこそ、その「やってみたい」という気持ちが自然と湧いてくるような園庭をつくりたいと考えてきました。

園庭は、人との関係も育てていく

ー 園庭を歩いていると、いろんなところに“つくり途中”があることに気がつきました。そらいろ保育園では、完成した園庭ではなく、園庭をつくっていくプロセスそのものを大切にされているように感じます。そのプロセスの中で、一番大切にしていることは何ですか。

何より大切にしているのは、「保護者と一緒につくる」ことです。保育者だけでは、この園庭にはならなかったし、この保育も続けられなかったと思います

というのも、一緒に園庭をつくることで、保護者の皆さんが当事者になっていくからです。「子どもたちはどう遊ぶかな」「ここは危なくないかな」そんなふうに、保育者と同じ視点で園庭を見るようになる。すると、保護者は“お客さん”ではなく、一緒に園をつくる“仲間”になっていくんです。

だから、もし子どもが怪我をしても、「ああ、あそこね」というところから会話が始まります。「あんな遊具があるから危ない」「ちゃんと見ていたんですか」そんなふうに責任を問う話にはならないんです。

それに、自分たちがつくった場所で子どもたちが夢中になって遊んでいる姿を見るのは、本当にうれしいことなんですよね。「自分もこの園の役に立てた」「ここは自分たちの園なんだ」そんな実感が、保護者の皆さんの中で少しずつ育っていく。

もちろん、「何かあっても許してもらえる」ということではありません。お互いを理解し合い、同じ方向を向いて子どもの育ちを支えられる関係になっていく。私は、それが一番大きいことだと思っています。

保護者と園庭づくりをする時に、もう一つ大切にしていることがあって、「子どもの前でつくる」ということなんです。

ー 安全面を考えると、子どもがいないときに作業をするという選択もあると思います。それでも、あえて子どもたちの前でつくることを大切にしているのは、なぜなのでしょうか?

もちろん安全への配慮は必要ですが、それ以上に、園庭ができあがっていく過程を子どもたちと一緒に味わうことの方が大切だと考えているんです。

子どもたちは、いつの間にか完成した遊具を見るのではなく、「ここが草地になってきた」「何ができるんだろう」そんなふうに少しずつ変わっていく様子を見ながら過ごすことで、「できあがったら何ごっこができるかな」「一番高いところまで登るぞ」と、そこで遊ぶことを楽しみにするようになるんです。

完成した環境だけではなく、その過程そのものが、子どもたちの遊び心を育ててくれるんですね。

それに、お父さんやお母さん、保育者が一生懸命作業している姿って、本当にかっこいいんです。

子どもたちは、身近な大人の姿をよく見ています。そして、「あんなふうになりたい」「こんなことができるんだ」と、自然に憧れを抱いていく。その存在が近くにいることは、とても大切だと思っています。

もちろん、小さいうちはファンタジーの世界を思い切り楽しんでほしい。でも、その先には、「この人みたいになりたい」と思える身近な大人がいることが、その子が自分の未来を描く支えになっていくのだと思うんです。

「大人が判断する安全」から、「子どもが判断する安全」へ

園庭プロジェクトが始まった頃につくった冊子に、こんな言葉があります。

「大人が判断する安全から、子どもが判断する安全へ」

私は、この言葉が本当に大好きなんです。今でも何度も読み返しては、胸が熱くなります。

例えば、子どもが棒を持っていたとします。もちろん、そのまま走っていたら「歩こうね」と声はかけます。でも、「高いところに登るなら棒は置いて」とは、ほとんど言いません。その子が、自分でどう判断するのか。私たちは、その力を信じて見守ります。

ー 「子どもを信じる」という言葉は保育の中でもよく使われます。でも実際には、怪我への不安や保護者への説明を考えると、どこまで任せていいのか迷う保育者も多いと思います。そらいろ保育園では、その葛藤とどう向き合っているのでしょうか。

その葛藤があるのは、とても自然なことです。管理したほうが怪我は減るかもしれない。止めたほうが安心かもしれない。でも私たちは、そこで必ず問い直します。

「誰のためなんだろう」「何のためなんだろう」

怪我をしないことが一番大事なのか。ケンカは悪いことなのか。危険は、全部なくしたほうがいいのか。一つひとつ問い続けていくと、「いや、そうとも言えない」というところに必ずたどり着くんです。

子どもが育つために必要な経験まで、大人が先回りして奪っていないだろうか。私たちは、いつもそこに立ち返るようにしています。

***

 撮影:雨宮 みなみ

この記事の連載

「人は、環境によって育つ」_ 園庭が子どもにも大人にも育ててくれるものとは?

前編では、園長の一見千枝子さんに、西池袋そらいろ保育園の園庭が、完成された場所ではなく、「育ち続ける場所」である理由を伺いました。

そこには、「豊かな遊び環境とは何か」という問いだけではなく、保護者と一緒につくることや、子ども自身が判断する力を育てることなど、「人が育つ環境」を15年にわたって考え続けてきた積み重ねがありました。
そして、その話の最後に語ってくださったのが、「大人が判断する安全から、子どもが判断する安全へ」という言葉。
その考え方は、実際に子どもたちの姿としてどのように育っているのか尋ねると、一見さんはある出来事を静かに語り始めました。