保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

第7回 のびのび遊べる環境をつくろう(環境編)

関戸博樹
掲載日:2012/11/12
こんにちは。
前回のコラムでは、遊びと保育士の関係の深さや、遊び理解や子ども理解といった専門性を身につけることの重要性についてお伝えしました。

これらの専門性と関係して重要なポイントになってくるのが、子どもを取り囲む環境です。

では、具体的にはどのような視点で、どのように日々の保育環境を整えていくことが大切なのでしょう?今回から、屋内や野外でできる工夫など、実践的な話に入っていきたいと思います。
 
子どもを取り囲む環境において、まずは子どもが「のびのび遊べる」かどうかという視点を持ち、そのための環境づくりから始めることが大切だと私は思っています。ちょっと抽象的なので、何をもって「のびのび遊べる」なのか、5つの項目に分けて中身を紐解いていきましょう。

1)「自然(水、土、植物、日差し、風、石、火、生き物など)に触れて遊ぶことが出来る」

子どもは環境に左右されやすい性質を持っているので、盛り土の斜面があれば上ったり下りたりするし、枝や落ち葉や石などがあればすぐに手にします。

水溜りはかなりの確立で中まで入りますし、ダンゴムシ、バッタ、カエルなどの生き物は捕まえずにはいられません。もちろん、草むらの中のような狭い所や木の上などの高い所も大好きです。このように自然は子どもの「やってみたい」という意欲を刺激する装置としては最高の環境です。

この意欲を刺激する大きな要因として、子どもの起こす働きかけに対して容易に反応が返ってきて、更に反応が様々だという特徴が挙げられます。

泥に手をつっこんだ時のひんやりした感触、水溜りに入った時の水面の揺れや光の反射、投げた石の跳ね返り方、拾った枝や登った木肌の手触り、生き物の動きなどなど。どれも一瞬として同じようにはならず、子どもたちの「やってみたい」気持ちを飽きさせません。

このように、自然は子どもの遊びを受け止める懐が深く、園庭や近隣の公園、緑地などの屋外環境での遊びは出来うる限り積極的に行うと良いでしょう。

2)「子どもが扱いやすいたくさんの素材がある」

すでに完成された物で決まった遊びをする環境よりも、自由に扱える様々な素材がたっぷりある環境の方が、子どもたちの「やってみたい」気持ちを刺激します。

木の実や落ち葉、水に泥といった自然素材はもちろん、大量の空き箱、材木・木っ端、布などの端切れ、本物だけどもう使わない古道具(鍋、おたま、ちりとり、靴べら、たわしなどなど)、おもちゃやガラクタなどなど。

子どもたちが動かし、運び、転がし、持ち上げ、積み重ねたり、組み合わせたりされながら、どんどんと子どもたちの「やってみたい」方向に使われ方を変化させていくことができます。 

3)「つくったり、壊したりができる」

2)とも似ていますが、様々な素材を使っていることで遊びに完成がなく、「今一番おもしろいカタチ」に常に変化させることができます。水路、基地などの目に見える形が変わっていく遊び方だけでなく、ごっこ遊びなどでもなりきっている役割や遊びの方向性を一定ではなく変化させることができます。

4)「選択肢がある」

誰かが提案した一つの遊びに対して、やるかやらないかの選択肢だけではなく、常に様々な遊び方の選択肢があることが、子どもたちの「やってみたい」気持ちを受け止める環境をつくることにつながります。

5)「適切な危険にふれることができる」

子どもの成長にとって、すべての危険を遠ざけてしまうことは避けなければなりません。なぜならば、子どもは自身の限界を越えた危険に対しては無闇に触れようとすることはなく、「やってみたい」気持ちの表出される環境の多くは、子どもが危ないことへの挑戦を通して成長をしていくために適した環境であるからです。

にも関わらず、すべての危険を子どもから遠ざけることは、子ども自身のリスクマネジメント能力を奪い、危険に対する判断や対応のできない育ちを促進してしまうことになります。高所から落下しない慎重さや身のこなし、ブランコや自転車などでのスピードの調節、刃物などの道工具の危険性を知りながら適切に扱うこと、デコボコした地面での走り方、長い棒や枝などの扱い方、ケンカの際の力加減などなど。

子どもの成長を促進し、子ども自身が予見できる危険は「リスク」と呼びます。逆に子どもの成長よりも重大なケガを負う可能性が高く、子ども自身が予見できないような危険は「ハザード」と呼びます。子どもたちの遊ぶ環境にリスクはできるだけ多くあるようにし、ハザードは出来うる限り排除するようにしましょう。


以上の1)〜5)のような視点で遊び環境をつくり、子どもたちの遊び方に応じて必要な変化を加え、更に自身のつくった環境や子どもへの関わり方を「子どもにとってのびのび遊べていたか」と振り返っていくことが大切です。

その繰り返しが、遊び環境の質を高めるために何をすると良いのかということを意識化することにつながります。

専門性は、無自覚・無意識のものとしてではなく、自身がなぜその行動をとるのかといったはっきりとした意識化の上で身につくものだからです。

冒険遊び場(渋谷はるのおがわプレーパーク)にて、乳幼児を連れて集う親子たち
冒険遊び場(渋谷はるのおがわプレーパーク)にて、
乳幼児を連れて集う親子たち

予告

次回は引き続き、のびのび遊べる環境をつくろう(大人の姿勢編:園内での調整、保育の軸、保護者への発信)です。お楽しみに☆