保育のきっかけを、みんなと耕してきた15年──HoiClue、15歳の現在地

HoiClueは、2025年で15周年を迎えました。
日々の保育の中で「こんなとき、どうしよう」と思った際に、そっと寄り添えるような、おもわず子どもの姿を思い浮かべて明日が楽しみになるような“保育のきっかけ”を共有したい——。そんな思いから始まったHoiClueは、たくさんの方のアイデアや声とともに、少しずつ育ってきました。
この節目のタイミングで、編集長・雨宮みなみが、はじまりのこと、続けてきた理由、そしてこれからのHoiClueについて語ります。
雨宮みなみ
保育士として子どもに関わったのち、2010年にHoiClueを立ち上げる。
2022年からHoiClueの運営主体となった小学館のもとでHoiClueを運営、編集長を務める。
「15歳」のHoiClueに寄せて
ー HoiClue、15周年おめでとうございます。いま、どんなお気持ちですか?
周年に特別な思い入れはない方ですが、「15年」って人でいえば15歳、中学3年生なんですよね。そう思った時に、こんなにも長く、いろんな方々と一緒に歩んでこれたことは当たり前じゃないなと思って。作り手として関わってくださった方々にも、サイトを訪れてくれる読者の皆さんにも、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
HoiClueスタッフ。(ここには写っていないお休み中のメンバーや遠隔のメンバーも)
ー 15歳と考えた時、“HoiClueさん”は今どんなふうに育っていると思いますか?
まず思い浮かぶのは「みんなに育てていただいているな」ということ。そして「豊かに育っている」とも思います。その豊かさって一言では言えないけれど、「答えがない」ということを大切にしてきたからこそ育まれてきたものじゃないかと感じています。
それから、今回インタビューを受けるにあたって、「HoiClueが人間だとしたら、どんな子に育ったと思う?」とこれまで近くでみてきた息子に聞いてみたら、「自然な感じに育ったんじゃない?」と言われて。ああ、たしかにって思ったんですよね。遠回りしたり、チャレンジしたり、反省したり、笑ったり泣いたり、そういうことをHoiClue自身経験してきたからこそ、等身大のままに育ってきたんじゃないかなと思っています。
HoiClue編集長 雨宮
原点にある「保育のきっかけ」
ー そもそも、HoiClueを立ち上げたきっかけは?
実は、保育士1年目に体調を崩してしまったんです。なりたくてなりたくて就いた職業だったはずなのに、突発性難聴になり、帯状疱疹になり、子どもたちにも「そんなに頑張らなくていいよ」と言われるくらい、毎日疲れ果ててしまって。
そんな中、夏頃から年長さんの担当を託してもらったんですね。それで、この子たちの残りの保育園生活を「保育士1年目の私」と「経験豊富な先生」が過ごすのだと、良くも悪くも全然違うものになるなって思った時に、ものすごいプレッシャーがあったけれど、絶対にこの子たちにとっていい半年間にしたいと思ったんです。
一気に経験を積むことはできないから、とにかくインプットしよう!と。でも、当時はまだガラケー(スマートフォン以前のケータイ電話のこと)だったので、今みたいにインターネットで簡単に情報が得られるというわけでもなく、夜遅く園からの帰り道に本屋に寄って、保育書を買って。
そんな日々の中で、「あぁ、明日の保育どうしよう」ではなく、「明日、子どもたちは何するかな」「これやったらどんな反応するかな」と、子どもの姿を思い浮かべながら明日を楽しみにできたらいいなと思ったんです。それが、のちのHoiClueの原点になっています。
立ち上げ期のHoiClue(ガラケーサイトのみでした)
ー 「HoiClue」という名前の由来も、そんな想いから?
ひらがな表記で「ほいくる」としてスタートしたのですが、「ほいく(保育)」と「クルー(きっかけ)」を掛け合わせて「保育のきっかけになるものにしたい」という想いから名づけました。
ー 実際、HoiClue(当時ほいくる)をはじめてみてどうでしたか?今でも覚えている、開設当初の印象的だった出来事があればお聞きしたいです。
手探りでほいくるをはじめてしばらくした頃、自分が子どもと楽しんだ遊びをとにかく書き出してみたんです。そうしたら、一人でたしか200〜300種類くらいの遊びが出てきて。
ー 200〜300!すごい数ですね。
経験年数がたった数年の私の引き出しでこんなにあるということは、みんなでシェアしあえたらもっと豊かになるのでは?!と気づけたことは印象的でした。
以前のHoiClueサイト。「タネ」という表記や、「みんなのタネ」というカテゴリがある。アプリを通して読者が投稿できる仕組みをつくり、「みんなのタネ」として紹介していた。
あと、遊びの数が増えた頃に、読者の方から「これは何cm×何cmで作ればいいんですか?」と問い合わせが来たことがあったんです。その時に、きっと「◯cm×◯cmです」と返した方が親切だとは思ったんですけど、正確性を求めないものや、正解がないものの場合、「こうやるんです!」という書き方をしてしまったら、それを実際に作ったり、遊んだりする子どもたちの遊びや表現の自由みたいなものまで奪ってしまわないかなと考えました。やってみてうまくいかなかったらもう一度作り直してみる楽しさもあるし、そこから全く意図しなかったところへと遊びって広がっていく可能性もあるはず。
当時から、どこか表層的なイメージのある「ネタ」という言い方はせず、遊びの「タネ(種)」と言うことを一貫してきたんですけど、読者の皆さんが求めている利便性ももちろん大事だけれど、あくまでもHoiClueはタネでありクルー(きっかけ)である。という、そこのバランスの取り方は、ちゃんと葛藤し続けていきたいなと思わせてもらったひとつの機会になりました。
ー HoiClueはタネであり、クルー(きっかけ)である。この15年そのためにやってきたことや大事にしてきたことがあれば教えてほしいです。
大人よがりなサイトにはしたくないなということは、強く思ってきました。これまで出会った子どもたちの姿を常に心に留めながら記事を書いたり、企画をしたり。一緒にHoiClueを作っているスタッフたちも、保育の現場出身の人がいたり、子育てをしている人がいたり、子どもと関わってきた人ばかりなんですよ。共に運営している小学館さんもまた、子どもを軸としてきた歴史や書籍があって。
今はお休みしていますが、「コドモガラクタラボ」といって、子どもたちがガラクタのようなもの(廃材など)をつかって自由に遊びを探究できる場所を月に一度、オフィスを開放して運営していました。実際に遊びに来てくれる子どもたちの姿を見ながら、「作りたいもの」を先にイメージしてそれに合う材料を探す子もいれば、「この材料が使いたい」と材料から作るものを選ぶ子もいるというような子どもの姿に触れて、やっぱり遊びって自由だな、子どもたちの発想って面白いなと、私たちにとって原点に立ち戻るような、大切な時間でした。
コドモガラクタラボのようす
あとは、地域、園の形態、規模、保育者年数など、みんなそれぞれに違うバックグラウンドをもった保育者さんたちが集まって、ゆるりとおしゃべりを楽しむ「オンラインおしゃべり処」企画や、HoiClue運営チームと共に“あそび”や“こども”の探究をする「HoiClue Lab.あそび探究室」で、保育者さんと話す機会を定期的に作っているんですけど、そういうところで子どもたちや保育現場の“今”を知る機会を作り続けることは意識しています。
子どもの隣にいる私たちを耕す
ー HoiClueは「子どもの隣にいる」こと、「保育者さんと共に」ということをずっと大事にされているんだなと話しをお伺いしながら感じています。
HoiClueの届け先は大人(保育者)だけれど、その先には保育の現場があって、子どもたちがいる、ということは常に大事にしてきました。
私たちの理念に「子どもの“やってみたい”っておもしろい」という言葉を置いているのですが、保育や子育てを取り巻く課題は山積みだし、答えも一つではないけれど、“子ども”と“遊び”について探究し続けながら、子どもたち自身から溢れる“やってみたい”を楽しめる社会であり続けたいなと思うんです。
HoiClue10周年のタイミングで、「こどもの世界を、のぞいてみよう」「こどもの目線で、見つめてみよう」という2つのアプローチからつくったリトルプレス。
HoiClueとしては、「子どもの隣にいる私たちを耕す」というコンセプトを2024年から掲げていて。
ー 子どもの隣にいる私たちを耕す。
「耕す」には、凝り固まった思考や心をほぐして豊かな土壌にしていくイメージを込めています。HoiClueは情報を消費する場ではなく、私たち運営メンバーを含め、保育者さんや子どもに関わる全ての大人が互いに耕しあえる場でありたいなと。
言葉の通り「育ちを保つ」と書いて「保育」だと思うんです。一人ひとりの子の育ちが保たれ、やってみたいや遊びが保障される保育であってほしいし、それができる社会でありたい。そのためには子どもに関わる大人たち自身が豊かであること、幸せであることがすごく大事なんじゃないかなという思いから生まれました。
ー 周年はあんまり意識してないということでしたが、ここからまた歩み続けた先、HoiClueはどんなふうになっていたいですか?
HoiClueを立ち上げた頃は、いつかHoiClueはなくなっていいと思っていたんです。子どもを取り巻く環境や社会が豊かになって、HoiClueが必要なくなったという状態が良い未来だろうと。でも今は子どもたちが育つ土壌が、より豊かであるために、ここからまた、“子どもの隣にいる“たくさんの人と交わっていけたらなあと。読者のみなさんにとって拠りどころと思ってもらえるような、みんなが耕しあえる一つのきっかけの場としてあり続けたいです。
出版を通して子どもが育つ環境にアプローチしてきた小学館さんだからこそできることもまだまだたくさんあると思っていますし、ここから踏み出していく16年目の一歩もまた、みなさんと一緒に歩んでいけたらな、と。
ー 最後に、いつもHoiClueを見てくれている読者の皆さんへ一言お願いします。
「15年間分のありがとうございます」と「これからもよろしくお願いします」もう、それに尽きます!
取材・執筆:三輪 ひかり
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おかげさまで…15周年を迎えました!〜8月8日 ほいくるの日に寄せて〜
これもひとえに、たくさんの方が関わってくださったおかげです。ありがとうございます!
今年は、HoiClueがこれまでお届けしてきたこの15年分(!)のコンテンツを、HoiClue独自の視点からダイジェスト版でお届けしたいと思います。