保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「終わりにするのがはやい子」〜造形あそびとこどもたち Vol.7〜

矢生秀仁
掲載日:2023/10/13
「終わりにするのがはやい子」〜造形あそびとこどもたち Vol.7〜
今月も造形活動に見えるこどもたちの姿を皆さんと一緒に丁寧に見ていこうと思います。
今回注目するのは「終わりにするのがはやい子」です。

2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。

今回出会ったのは…


終わりにするのがはやい子

みんなで活動していると、他のこどもたちよりも早く「先生、できた。」と言いに来る子、いますよね。
他のこどもたちがまだ作っている中で、一人だけ「できたから、もう終わりにする。」という子がいるとき、どう声をかけようか迷う先生も少なくないのではないでしょうか。
そして、「もう少しこんなところも作れるじゃない?」とアドバイスをしようか、それとも「それじゃあ、好きな遊びをしていいよ。」というのか。
この二つが最初に思い浮かぶのではないかなと思います。
ですが、ここでちょっと一呼吸おいて、じっくり考えてみましょう。

こどもたちが「早く終わりにする」時、そこにはこどもの数だけ理由があります。
今日はそのうちの二つの視点を紹介したいと思います。

まず最初の理由は、「想像が煮詰まったから終わりにする」という場合です。
こどもたちは自分の作品を作っているとき、自分のもっている知識と経験からイメージを膨らませて作品を作っています。 
ですから、例えば月齢が高かったり、家庭の時間も含めて遊びの経験が豊富である子ほど、自分一人で想像できるディテールが細かくなります。
反対に、経験が少ない子ほど、一人で描くイメージの世界はぼんやりとしています。そして、このぼんやりとしたイメージで作っている子に「できた!」というのが早いことが多いです。本人の中では、それ以上のイメージを一人で膨らませる引き出しが少ないからでしょう。

そんな時にオススメの関わり方は、できた作品でごっこ遊びをすることです。


ある保育園で乗り物づくりの工作をしていた時のことです。
ある男の子が、早々に僕のところにやってきました。
「できたよ!」
その作品を見ると、空き箱にタイヤがついているシンプルなもので、その他の部分が細かく作られているというわけではありませんでした。 だけど、けいちゃんは、満足しているようでした。
なので、 「おぉ、いいねいいね。じゃあ先生も乗せてください。」と言って、ペープサートでつくったお客さんを乗せてもらおうとしました。すると、その瞬間。
「あ、ちょっと待って。椅子とシートベルトがなかったわ!つけてくる!」
と言って、また工作に戻っていきました。

このように、ごっこ遊びを通して友達や先生のリアクションによって、イメージするディテールが細かくなり、 新しいアイデアが浮かぶということがよくあります。

もう一つの理由は、本当に満足しているという場合です。 

これはまたある別の幼稚園でカバン作りの工作をしたときのことです。

その翌週に遠足に行くということで、 本物のカバンには入れられないものでもなんでももっていける「魔法のかばん」を空き箱で作っていました。また、あわせてカバンにもっていくものを画用紙に描いていました。

すると、担任の先生が少し困った様子で一人の子を僕のところに連れてきました。
「あの、あきちゃんもうできちゃったみたいで。」
先生は物足りなさげな顔でしたが、対照的にあきちゃんは満足そうな顔をしていました。
そこで、僕は質問をしました。
「おぉ、もう完成したんだね。あきちゃんは、まほうのカバンになにをいれるの?」
そう聞くと、嬉しそうにかばんから一枚の紙を見せてくれました。
「わたしはね、あめとあまぐもをもっていくの。そしたらえんそくが、はれるでしょ。」

なんとも素敵なアイデアを教えてくれました。
遠足が晴れるように雨と雨雲をカバンにしまう。そんな発想がひらめいたらもう大満足ですよね。
そのままアキちゃんは、カバンをしょって園庭に遊びに行きました。
この時のあきちゃんは本当に満足したから終わりにしたのですね。


ということで、今回は二つの理由を紹介させてもらいました。

あらためて考えてみると、完成が早い遅いというのは、本人にとってはなんの問題もないんですよね。 他の子と比べるから早い遅いという概念が生まれています。
本人にとっては、満足しているから、または自分の想像の限りを尽くしたから「終わりにした」だけのこと。それが他の子より早くても、遅くても、それが本人のタイミングなのです。
ですから、本人が満足しているなら、その思いを尊重して、余計なアドバイスはせずにしっかりと受け止めてあげてほしいなと思います。
反対に、本人もまだ気づいていない想像の世界がありそうならば、作った作品でごっこ遊びをすることで、想像の世界を一緒に膨らまし、「あ、いいこと思いついた!」とその子自身が新たな発想をひらめくきっかけを作るサポートをしてあげてほしいなと思います。

目に見える作品の完成度や早い遅いではなく、こどもたちの思いにアンテナをはること。
その思いを想像し、寄り添うこと。

大切にしていけたらいいですよね。


明日からもこどもたちと楽しい時間になりますように。