「真似をする子」〜造形あそびとこどもたち Vol.6〜
今日はそんなこどもたちの真似をする姿についてです。
2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。
今回出会ったのは…
真似をする子
ある保育園で、お店やさんごっこのお絵かきワークショップをやった時のことです。
仲良し友達のさっちゃんとゆきちゃんは2人で同じ果物屋さんの絵を描いていました。
さっちゃんが先にくだもの屋さんを描きはじめ、ゆきちゃんは、それを見て「それいいね!」「わたしもくだものだいすき!」といってあとから真似をして描きました。
その時のゆきちゃんの様子はというと、さっちゃんのくだもの屋さんの絵を見ながら、何とも嬉しそうに自分も絵を描いていました。そうして、完成するとお店屋さんごっこを存分に楽しみ、活動後は自分の描いた果物屋さんとペープサートを大切に持って帰りました。
こんな風に真似をすることが嬉しそう、楽しそうなこどもの姿を見ることがあります。
一方で、さきほどのさっちゃんの真似とは逆の印象をもつ真似の姿もあります。
また別の園で、お絵かきワークショップをしていた時のことです。
不安げな表情のいっちゃんは、「ライオンかきたいんだけど、どうかけばいいかわからないよ。」といって僕のところにやってきました。
じゃあ、一緒に描いてみようかと誘うと、いっちゃんは、僕の描くライオンの絵を真似して描きました。
その後、描いたもので遊んだり、他の子の描いた作品も見たりしているうちに、だんだんと自分の描く線への不安や緊張もほぐれていったのでしょう。最初は僕の真似をして描いていたいっちゃんでしたが、2枚目、3枚目と自分の描きたい絵を描くようになり、僕のところへ聞きにこなくなりました。
そうして、活動終了後、片付けをしていると、いっちゃんが最初に真似をして描いたライオンが床においてありました。
「いっちゃん、このライオンはどうする?」ぼくが聞くと「それは、いいや。ひでちゃんにあげるよ。」と答えました。
そして、いっちゃんは、2、3枚目に自分で描いた絵だけ持ち帰り、最初に真似をして描いたライオンだけ持ち帰りませんでした。
2人の真似の姿を比べてみると、表向きは「真似をする」という同じ行為であっても、二人の思いは大きく違うように思います。最初のさっちゃんの真似は、お友達のことが大好きで、お友達が描いた果物屋さんを「私も描いてみたい。」「その絵、素敵だな」という素直で前向きな思いがモチベーションとなった真似といえるでしょう。
一方で、僕のライオンを真似して描いたいっちゃんは、最初は不安で自信がないから、僕の絵を真似していたのでしょう。
そして、そこからだんだんと活動が進むにつれ、自分の思いや線に自信が持ててくると、自分の好きな絵を描き、最後には、自分の気に入った絵だけを持ち帰ったのでしょう。
こどもたちの「真似をする」という行為は、行為そのものよりも、本人がそれをどんな気持ちで真似をしているかに注目することが、保育者の関わりのポイントであるように思います。
本人が嬉しそうに真似をしているのか、それとも不安げで真似をしているのか。
それによって、保育者のサポートや環境づくりの関わり方は大きく変わります。
こどもたちが真似をする姿を見た時は、それを本人が嬉しそうにしているのか、それとも不安そうにしているのか。 ぜひ注目しながら、子どもたちと関わっていってもらえたらと思います。
目に見える行動や作品の完成度ではなく、こどもたちの思いにアンテナをはること。
その思いを想像し、寄り添うこと。
大切にしていけたらいいですよね。
明日からもこどもたちと楽しい時間になりますように。