保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「テーマと違うものを作るこども」〜造形あそびとこどもたち Vol.4〜

矢生秀仁
掲載日:2023/07/14
「テーマと違うものを作るこども」〜造形あそびとこどもたち Vol.4〜

2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。

今回出会ったのは…


こどもたちの造形や制作の活動の中には、「今日は〇〇を作ろう!」と保育者がテーマを決めることもありますよね。

その場合、多くの子はそのテーマにそって作ることを楽しみますが、中には「ちがうものを作りたい!」という子もいるものです。

今回はそんな「テーマとは違うものを作りたい」というこどもたちの姿についてお届けしたいと思います。


テーマと違うものを作るこども

ある保育園の5歳クラスで、「空き箱でカメラ作り」をしていた時のことです。
みんな思い思いにカメラ作りを始める中、ユウくんが僕のところにやってきました。

「ぼくさ、カメラよりつくりたいものがあるんだ!いい?」 

「もちろん!なんでも好きなもの作ったらいいよ。」

僕が返事をすると、彼は走って戻っていきました。
みんなはカメラを、ユウくんはカメラではない「何か」を夢中になって作ります。

途中、担任の先生がその様子を少し気にして、僕のところに質問に来ました。
「ユウくん、カメラとは関係ないものを作ってるみたいなんですけど、いいんですか?」
「もちろんです。自分で作りたいものがあるって素敵なことですもんね。何ができるんでしょうね。」
そう言って、そのあとも担任の先生と一緒にユウくんの様子を見ていました。

しばらくすると、ユウくんが完成した作品を持ってやってきました。

「見て!できたよ〜、これ!」

「お、何ができたの。教えて教えて。」

「これはね、変身セット!こっちがフック船長のかぎつめでしょ。こっちはナイフと、こっちは鉄砲。これで海の宝物取りに行くんだよ。」

嬉しそうに説明してくれました。

「それは、いいねぇ。」
そう答えると、ユウ君は、さらに教えてくれました。

「妹のさっちゃんにお土産に持って帰るんだ。家に帰ったら2人で遊ぼうと思ってね。」

なんと、それは自分が遊ぶだけでなく、妹へのお土産でもあるのでした。
その後海賊になりきって工作とごっこ遊びを満喫し、最後は大切にカバンにしまって持ち帰ったユウ君でした。

テーマと違うものをつくるこどもたちというのは、従来の保育観、教育観ですと、「あの子は、テーマのものが作れなかった」とまだまだネガティブに見られやすいように思います。
お迎えの際、「うちの子だけ、また変なものを作って」というお母さんの感想を聞くこともありますが、これは、実はとてももったいない見方・捉え方なので、ぜひ立ち止まって考えてみてほしいなと思います。

なぜなら、「自分の作りたいものがある」というのは、とても素敵なことだからです。
「保育者がテーマを提案しても、自分の作りたいものがある」ということは、言い換えると、「自分が表現したいテーマを自分で見つけられた」ということです。

保育者が提案したテーマによってこどもたちの想像と表現の世界が広がることは、もちろん素敵なことです。ですが、 保育者が提案した遊びやテーマよりも、自分のやりたいことが明確にあるというのは、それ以上に素敵なことだと思います。ですから、こうしたこどもたちの姿も温かく受け止めてもらえたらと思います。

それと合わせて、ぜひお母さんやお父さんにも、「みんなと同じテーマのものが作れなかったんじゃなくて、自分でテーマを見つけられたんだよ。それって素敵なことなんだよ。」と、伝えてもらえたらと思います。

子どもたちの行動は同じでも、親や保育者がその行動をどう捉えるかによって、子どもたちの姿は魅力にも課題にも見えるものです。

そう考えると、もしかしたら保育というのは、子どもたちと「どう関わるか」以前に、子どもたちを「どう見るか」が大きな鍵を握っているのかもしれません。


明日も子どもたちと穏やかで素敵な1日になりますように。