保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「いいこと思いついた!」〜造形あそびとこどもたち Vol.1〜

矢生秀仁
掲載日:2023/04/14
「いいこと思いついた!」〜造形あそびとこどもたち Vol.1〜

2023年度からスタートした、連載コラム「造形あそびとこどもたち」。
造形の時間を通して出会った子どもたちの姿から、その奥にある子どもの世界を覗いていきます。

今回出会ったのは…


「いいこと思いついた!」

子どもたちが、お絵描きや工作の遊びに夢中になっている中で、よく聞こえてくる素敵なセリフがあります。
それは、
「いいこと思いついた」
です。

自分のひらめきに心が躍り
「あ!いいこと思いついたー!」
と喜びの声をあげる子もいれば、嬉しい気持ちがこぼれるようにぼそっと
「いいこと思いついちゃった。」
とつぶやく子もいます。


先日もこんな場面がありました。

2歳クラスでお絵描きをして遊んでいたときのこと。
小さい画用紙におばけの絵を描いていたカイくんが、嬉しそうに言いました。

「そうだ。いいこと思いついた。」

その良い顔。
あまりにも嬉しそうなので、

(何が浮かんだの?)

つい聞いてしまいそうになりましたが、そこはせっかくのひらめきです。
自分で動き出す前に、大人のリアクションを意識させてしまってはもったいない。
まずは自分のアイデアに自分だけで存分に浸ってほしい。
そう思いなおし、聞きたい気持ちをぐっとこらえて、静かに様子を見ました。

するとカイくん。
なにやらセロハンテープを長く切りました。
30cmくらいでしょうか。
けっこう長いです。
音でいうとビーーーーーーーッくらい。
伝わりましたか?笑

(あ、テープはそんなに長く切らないほうが貼りやすいよ)
(みんなも使うから、少しずつ使おうね)

ここでも一瞬、声をかけそうになりましたが、またこらえました。
カイ君には「いい考え」があるからです。

カイ君は、そのセロハンテープの先をさっき絵を描いていた紙に貼りました。
紙からテープがびろーんと伸びているような状態です。

そして、部屋の仕切りで使われていたパーテーションにテープの半分をひっかけるようにして貼りました。

カイ君の一挙手一投足には迷いがありません。
自分の頭の中に浮かんだイメージを一つ一つ遂行していく感じ。のっています。

その一方、今度は担任先生の表情から心の声が聞こえてくるようでした。

(そのパーテーションは使っているから、そこには貼らないでほしいな。)

そこで僕は先生に小声で話しかけました。
「カイくん、何かいい考えがあるみたいですよ。ちょっと見ててみましょう。」

二人でひっそり見守ります。
すると、カイ君の方から、息をはずませやってきました。

「ねえ、見て見て!」

視線の先には、パーテーション。
セロハンテープがだらんと伸びています。(絵はパーテーションの裏側)

パーテーションの前に立ったカイ君が、テープの端をつまんで言いました。

「いくよ、それー!!」

セロハンテープの端を勢いよく引っ張ります。
すると、パーテーションの裏から反対側のテープの先に貼られた絵がひゅうっと飛び上がってきました。

「ほら!お化けだぞー!」

カイ君は、セロハンテープを紐に見立てて、それも透明で見えにくい仕掛けに見立てて、お化けが飛び出てくることをひらめいたのでした。

「わー!びっくりしたー。」

そのひらめきに驚き、笑いながら先生と顔を見合わせます。

(いい考えでしたねぇ。)
(待っててよかったですねぇ。)

アイコンタクトで、カイ君の姿を喜びあいました。

この「いいこと思いついた」という一言、こどもたちは普段から本当によく言いますし、みなさんもよく聞いていることでしょう。
ですが、あらためて考えてみると、これはとても素敵で大切にしたい瞬間だなと思います。

なぜなら、
「いいこと思いついた」
というのは、

自分の心がときめくようなアイデアが、自分の経験と想像力によって閃いたということ。
そして、「このアイデアを自分ならきっと形にできるだろう!」と自身に期待する「自信」の表れだからです。

自分のアイデアに期待し、それを形にできる自分を信じる。
実はこれって、大人になっても欠かすことのできない幸せに生きる力の一つだと思います。

子どもたちは、そんな生きる力の原体験を遊びの中で積み重ねているのではないでしょうか。


コラムを読みながら、ほんの少しでも、みなさんの日々の保育の安心になれたり、気づきになれたら嬉しいです。

今日も、明日も、こどもたちと幸せな一日になりますように。