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ともだちになればいいんだよ! 〜第52回「わたしの保育記録」佳作〜

新 幼児と保育
掲載日:2020/06/20
ともだちになればいいんだよ! 〜第52回「わたしの保育記録」佳作〜

第52回「わたしの保育記録」応募作品の中から、佳作を受賞した作品をご紹介。

(一般部門)
ともだちになればいいんだよ!

そらいろえん
山本 真紀


そらいろえんは、海沿いにある古民家を改造した。子どもが15人ほどの小さな園。1歳半~6歳までの子どもたちが兄弟のように育ちあい、大自然のなかでのびのびとお互いの個性が和音のように響きあう園をめざしている。

12月のある朝から、庭にコンビニのゴミが捨てられるようになった。休日に出勤すると、中学生が音楽を大音量で流しながら庭のデッキで髪の毛を切っていたので、叱ると「空き家だと思ってた」と悪びれる様子も無く立ち去っていった。

そして、次の日から、ゴミの量は増えていった。
もう少し、丁寧に考えて叱ればよかったと後悔し、近所の方に聞くと「昨日も夜に園の庭にいたわよ」と同じ子どもたちということが分かった。
養護教諭の友人に相談すると
「中学生くらいの悪ぶっている子は誰かに気にしてもらいたいはずだから、あなたが中学校に行く機会があることで気にかけてもらっていると感じ、変わるかもしれない」といわれた。思春期特有の悪ふざけ、でも、この子たちも園の子と同じ子どもだ。数年後のこの子たちだと思って接してみよう、と思った。中学校で読み聞かせがあるというので、行かせてもらうことになった。読み聞かせの後に「近くに来たら遊びにおいで」と声をかけた。

園へ帰ると「ずるい! 僕たちも読み聞かせに行きたかった!」と子どもたち。
そして、6歳のチミ君が「だって、お友達の家にはゴミを捨てないでしょ。僕たちも中学生とお友達になれば、中学生もそんなことしないよ!」
みんな、口々に「中学生とお友達になりたい!」「読み聞かせに行きたい!」というので…「たしかにお友達の家にゴミを捨てたりしないはずね。でも、中学生に絵本を読み聞かせに小さい子どもが行くのは少し難しいかな…」。たしかに素晴らしい考えだけど、小さな子どもが絵本を読むというのは現実的に断られそうだと思った。

「みんなで、作った絵本を読みたいです、と中学校にお願いしてみるのは、どうかな?
頑張って作ったことを話したら、いいですよ、といわれるかもしれない」

想像以上に盛り上がり、絵本を作ることが決まった。
「中学生が面白いお話ってどんなのだろう?」。6歳のヘイ君は家でも真剣に考えすぎて頭が痛くなってしまうほどだった。

絵本を作るなんて難しいことは飽きてしまうと思ったが、意外にもみんな真剣だった。
ある日、「海亀の子どもが岸まで流されているよ」と近所のお兄さんが教えてくれた。弱った海亀のこどもが岸に流れ着いていた。

園に連れて帰り、図鑑で何を食べるか調べると、「小さい魚だって」「海藻って書いてあるよ!」「じゃあ、海にアーサー採りに行く!」クリ君が言い出して、みんなでアーサーをあげると海亀のこどもがパクリッ!
「食べたー!」と大歓声!
「みんな静かにあっちへ行こう。静かにしてたらもっと食べるんじゃない」とヘイ君。海亀のこどもを日陰に置いて子どもたちは部屋に入った。
「元気になったら海へかえしてあげよう。」ユユ君。やどかりを始め海の動物は飼うのが難しいと知っている子どもたち。

海に海亀の子どもを連れて行くと、元気に泳ぎだした。
「僕たち、海亀の子どもを救ったね。」5歳のロウ君。
「これって、ヒーローみたいじゃない?」と6歳のチミ君。
「じゃあ、これをお話にしたらいいんじゃない!!!」ストーリーは動き出した。

次の日、海に着くと「こんなに海にゴミがあったら、昨日の海亀の子ども、死んじゃうかもね…」とポツリとロヒ君。
「みんな、手伝って!」チミ君の掛け声に大きな綱に集まった、よいしょ!よいしょ!と力を合わせて階段の上まで運んだ。
大きなスイカほどもある浮きを拾ったり、たくさんのペットボトル。美ら海水族館に展示してある海亀の死骸の標本のお腹にはくらげと間違えて食べてしまったビニール袋がたくさん詰まっている。それを思い出してビニール袋は特に注意をはらって拾っていた。

2歳のマネちゃんまで、両手にペットボトルを抱えてきたのには驚いた。
ゴミ拾いは大変だ。いつもは参加しない子どもも“海亀の子どものため”と頑張っていた。この日は、7袋のゴミのビニール袋に大きな浮き、大小の綱を拾った。

年長ふたりを中心に、ストーリーを考え始めた。海亀の子どもを助けるヒーロー。“ソライジャー”が決まった。

「ヒーローだから、マジムン(沖縄の悪霊や妖怪などをいう)がいるよね」
「絵は、どうしよう。人間が戦ってる絵は難しくて描けないなぁ」
色々な絵本を見て研究していると、「この絵本みたいに人間は写真にしたらいいんじゃない。僕、やどかりかけるよ」「海の絵も描けると思う」とコラージュの絵本を参考にすることにした。

小さい3歳のナッちゃんと2歳のカリ君がマジムンをやってくれることになった。
チミ君の弟のカリ君は、まだまだ反抗期の真っ最中。「カリ君が怒って暴れるのはマジムンみたいだからちょうどいい」なんて、チミ君。そして、“まだ、小さなマジムンがあそびたかったけれど、ちょっとやりすぎてしまった”というストーリが出来上がった。

「でも、これでも、絵本は短いね」
「もう一回、マジムンが現れたら!」
「じゃぁ、必殺技は何がいい?」
「キックとかパンチは、ナッちゃんとかカリ君がかわいそうだから…」う~ん。

そんなある日、おやつにヒラヤーチーを自分たちで作って食べると「美味しすぎて倒れちゃう」と5歳のロウ君がふざけて倒れる真似!

「これだよ! 必殺技!」ヘイ君。「スーパーヒラヤチーだ!!!」チミ君。

写真もひと苦労、海沿いで風が強いのでマントが顔にかかってしまったり、ポーズがなかなか揃わずに何度もやり直し、2歳のカリ君はみんなにいろいろいわれてへそを曲げてポーズを取ってくれなくなったり…。でも、大変だからこその熱が伝わってくる。絶対に作り上げたいと意気込みが伝わってきた。
水筒の水をガブガブ飲み、暑い沖縄で、走り回って汗を流しての撮影、根気良くねばった。

お話を考え始めて4か月がたった3月。ソライジャーの絵本は完成した。
中学校に電話をして事情を説明した。3月は中学校もいそがしい時期である。これは、もし、受けてもらえたとしても年長のこども達が卒業した後になるかもしれないと思いながら話をさせていただいた。

ところが、後日、快く「家庭科の授業で小さな子どもたちと触れ合う授業がありますのでどうぞ。」と電話があった。
急に決まったことで練習は2日しかなかった。年長児は、ひらがなが読めるが、それより小さい子は私がセリフを伝え大きな声でいうことになった。40人の中学生に聞こえるように話す練習として部屋の端から端までセリフをいう練習をした。

当日は、みんな緊張してガチガチだった。ナミちゃんのおじいちゃんから教えてもらった瞑想を1分間、中学生に発表する前に行なった。「これで、緊張しないでうまく出来る」みんなで、そう信じて「そらいろ戦隊ソライジャー!」と読み出した。

「やんちゃな中学生で…」と家庭科の先生から聞いていたのだが、中学生も温かく拍手をして聞いてくれた。その温かさに押されるようにそらいろえんの子どもたちもやりきった。 終わった後に、へにょへにょになったヘイ君が印象的だった。
中学生が家庭科の時間に作ったボーリングやつみきなどのオモチャであそんでくれた。子どもたちにとっては、“お友達”になれた瞬間だ。

なんでも「いいよ」と人にゆずってしまいがちなヘイ君が主人公をしっかりとやりきった。中学校で口火をきったのもヘイ君だ。入園したてのときには下を向いて発言しない姿が信じられないほどしっかりした面持ちだった。
チミ君も入園から、お母さんと離れられない! と一番泣いた子どもだった。その子が、中学生の前で堂々と大きな声で読み上げたとき、卒園前にこの姿を見られて幸せだなぁと思った。

自分たちで、困難を克服する方法を考え、計画し、実行して、長い時間かけてやり遂げたことは子ども達の血や肉となり、これからの人生を支えていくだろう。そして、パタリと園の庭にゴミが捨てられることがなくなった。園にゴミを捨てた中学生は、家庭科のクラスにはいなかったのだが、真剣に信じたことはどこかで繋がり叶うのだろうと思った。



受賞のことば

年長組のふたりの男の子の『純粋な思い』と『行動』から生まれた物語です。受け止めてくださった地域の中学校の先生や生徒の方に感謝でいっぱいです。
また、ニュースには悪いことが取り上げられやすいですが、教育現場にこのような温かい風が吹いていることを紹介でき、このような機会をくださった小学館の方にお礼申し上げます。これからも、素敵な子どもたちと、小さな奇跡が起こせたらと思っています。



講評

山梨大学教授 加藤 繁美

自然で自由な雰囲気を基礎に、日々の生活に向きあっていく保育者と子どもたちの関係性を、行間に垣間見ることのできる実践の記録です。自分の園を舞台に生じた「社会問題」に対峙していく過程で、子どもたちの「生活の物語」をつくりだし、「発達の物語」をつくりだしている点がステキです。何といっても、「ともだちになればいいんだよ」という子どもの言葉が、実践を貫く視点に位置づけられている点が重要です。

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