子どもの「ケンカ」を、覗いてみよう
保育園や幼稚園で一日何度も起こるであろう
子ども同士のケンカ。
同じおもちゃを使いたかった。
◯◯ちゃんと遊びたかった。
ダメって言われて悲しかった。
子どもたちがケンカを始める理由はさまざまです。
もし目の前で子どものケンカが起きてしまったら…
あなたは何を感じますか?
あなたならどうしますか?
かほと、かんたのケンカ
神奈川県にある「りんごの木子どもクラブ」で起こった、ひとつのケンカ。
保育士の青山さんの見守る中、かんたくんの「トムとジェリーはなかよくケンカしているんだよ!」という主張と、「そんなことかんけいないよ!テレビのことは!」というかほちゃんの主張がぶつかり合います。
気持ちが高まり、距離が近づくふたり。
お互いに手がでました。
「いった」
「おれだって、いたいよ」
どちらも譲ることなく平行線を辿るケンカの中、
かほちゃんの怒っている理由がひとつ
明らかになります。
「かんたが(私のこと)いつも怒ってるって言うからだよ」
そう、かほちゃんはいつも怒っているわけではないのに、そう言われるのがイヤだったのです。
保育士の青山さんもつかさず、
「あぁ、かほちゃんはそれに怒っているのね。ニコニコ笑っている時もあるもんね」
と、かほちゃんの言葉の意図を繰り返します。
しかし、ここでケンカは終わりません。
言い合いがまた、新しい言い合いを呼び…
かほちゃんとかんたくんのケンカはどんどん広がっていきます。
「今そんな時じゃないよ!(ひも)触らないで」
「じゃあ、お前切れよ。気になっちゃうんだから、これが」
もう何をきっかけにケンカが始まったのかは、
二人にとって問題ではなさそう。
そんなやり取りをしている間に、
お昼の時間になってしまいます。
「(ケンカ終わりにして)ごはんたべたい」
というかんたくん。
青山さんが「でもこのまま終われる?」と二人に確認すると、「おわれない」とかほちゃん。
さて…
この二人のケンカはどう終わるのでしょうか?
気になる結末は、動画をぜひご覧ください。
保育士、青山さんにお話を伺いました
このケンカを見守っていた、りんごの木子どもクラブの保育士である青山誠さんに、お話を伺ってみました。
保育士/青山 誠さん(以下青くん)
子どもの姿、どう捉えてる?
ーわたし、この「かほと、かんたのけんか」の動画とても好きで何回も拝見しているのですが。
わ、そうなんだ。ありがとうございます。
ー青くんは、なんで子どもの「ケンカ」の姿を発信しようと思ったんですか?
子どもの姿を捉える時に、「いいか」「悪いか」で判断する人って多いなぁと思っていて。
ーたしかに大人って、子どもの行動を評価してしまいがちかも。
そうでしょ。
それはケンカでも言えることだなと思って。
このケンカはいいか、悪いか。
収まったか、収まっていないか。
そんな風にケンカを捉えている人って結構いると思うんです。
でもね、本当はそこに、いいか悪いかなんてないんだよね。
仲がいいからこそケンカって起きるし、「ごめんね」という方法だけがケンカの終わりじゃない。
そんなところを見て感じてもらえるといいな、と思って発信しました。
「ごめんね」「いいよ」だけが終わらせ方じゃない
ー初めてこの動画を見た時、まさかかほちゃんがかんたくんの動きに笑うことでケンカが終わるとは思ってもみなくて。
子どもたちのケンカの終わらせ方って、絶妙だよね。「ごめんね」「いいよ」で終わるケンカなんて、実はあんまりない。
ーでもそうやってケンカを終わらせようとしてしまう保育士さんって多い。
そもそも前提として、「これは私のケンカじゃない」ということに、保育士さんが気付くことが大事かもね。
寄り添いはするけど、取っちゃいけない。
ーたしかに、仲直りをさせたいと思うのは、大人のエゴなだけの時がありますよね。
そうなんだよね。
たとえば今回の場合、この二人はこの時期しょっちゅうケンカしていて。
もう、ケンカしたいんだなと(笑)。
子どもたちにとって、ケンカの内容が重要じゃないこともあるんだよね。言いたいことが言える、ということがあの二人にとっては大事だった。
だから僕は、「あぁ」とか、「うん」とかしか言ってないでしょ。
子どもの気持ちに寄り添うこと
ーそういえば、青くん全然発言していなかった!
そうなの。でもかんたとかほそれぞれに、言葉を繰り返したところがあるんだよね。
それは、かほが「かほはいつも怒っているわけじゃない」と怒っている理由を言ったところと、かんたが「給食食べるのいつも遅い」と困っていることを伝えてきたところ。
ーなんでそこは繰り返したんですか?
重要なことだから。
相手に伝えてあげなくちゃいけないと思って。
繰り返すことで、より伝わりやすくしました。
ケンカはあくまでも子どもたちのもの。
「あなたが悪かったでしょ、謝りなさい」とか、理屈で押さえ込むことができるかもしれないけど、怒っている感情はどこに持っていけばいいの?ってなるよね。正しければ、正しいほど、腹がたつことだってあるし(笑)。
だから、感情をまっすぐだせるように、その上に寄り添うようにしています。
青くんの考える、保育
ー寄り添う、ですか。
そう。保育って「子どもの心に寄り添う仕事」だと思うんだよね。
怒っているという感情に限らず、楽しいは楽しい、寂しいは寂しいよねって、その気持ちに共感すること。
でも、結構大人の声が大きいことが多いんじゃないかなと思っていて。
ー大人の声が大きい?
うん、大きすぎる。
指示、命令、禁止、評価。そんなことをしてしまいがちなんじゃないかなと。
ーたしかに、それらのことをしてしまうと、「子どもの心に寄り添う」ということからは離れてしまいそう。
だから「あれ、わたし指示してしまいがちかも」って思ったら、言葉のデトックスをぜひしてみてほしい。
「今日は3語くらいで保育してみようかな」って。
ーえ?!どういうことですか。
「あぁ」、「うん」、「そうなんだ」とかだけで過ごすの(笑)。
ーそれで、保育成り立ちます?
それがね、成り立つんだよね。
でも、もちろんそれだけだと子どもって納得しないときもあって。
「青くん、あそこにお花が咲いてるよ、見て!」
「あぁ、うん」って言うと、「ちゃんと見えてる。ねぇ、そこそこ」とか言って(笑)。
そういうときは、子どもの言葉を繰り返すといいなと思います。
「あぁ、お花咲いてるね」とか、
「これおいしい」「おいしいね」とか。
大人の言葉って案外それだけで成り立つんだよ。
ー最後にこの動画を見てくれた方にメッセージをお願いします。
子どもたちを、独立した他者として尊重すること。
感情を評価しないこと。
保育用語で言うと、「子ども理解」だと思うんだけど、それってすごく大事だと思います。
でも保育とか子ども理解って、ひとりじゃできないこと。だからこの動画を見て、ぜひいろんな人と語り合ってほしいなと。
こうしたほうがいいとか、これは悪いとか評価し合うんじゃなくて、ひとつのシーンを見て、ただ真っ直ぐに語る。そういう風に活用してくれたら嬉しいです。
(取材・編集:三輪ひかり)
*青山誠
保育者。保育の傍ら、執筆活動を行う。子どもに関わる人の対話と交流の場「りんごの木サタデーナイト」主催。第46回「わたしの保育」大賞受賞。著書に「子どもたちのミーティング~りんごの木の保育実践から」(共著・りんごの木)、4月には「あたなも保育者になれる」(小学館)を刊行。
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