ミツバチの世界にふれた日。_「こわい」の先の、「つながり」を知る。:うみのこのとって食ってつながる暮らしVol.4

この連載の舞台になる「うみのこ」は、神奈川県逗子市にある認可外保育施設。逗子の山と海に囲まれた小さな古民家で、3歳〜6歳までの28人の子どもたちが暮らしています。
そんなうみのこの暮らしに欠かせないのが、食べること。
海山の恵みをいただき、畑で野菜を育て、自分たちで料理する。
生産者、料理人、食べることに欠かせない人々とつながり、本物と出会う。
どんなふうにうみのこで“食べる”ことが起きているのか、一年を通してお届けしていければと思っています。
逗子の養蜂家を訪ねる
5月中旬。
うみのこの子どもたちは、日頃から遊び場のひとつとして行かせてもらっている通称「トシさんやま」へ、採蜜時期を迎えたはやし養蜂さんの見学に向かいました。
はやし養蜂の林寿裕さん(トシさん)とうみのこの子どもたち。
トシさんは子どもたちに語りかけます。
「ここはみんなにとっては遊び場だけど、実はトシさんにとってはお仕事をする場所なんです。何をしているかというと、ここでハチを育てているんだよね。」
ハヤシ養蜂場には、ブランコやツリーハウスなど子どもたちが遊べる場所がありますが、その少し奥にはハチの巣箱がいくつも並んでいます。ハチや多様な生き物たちが暮らしている山に、私たち人間がお邪魔しているんだ、と、訪れる度に思います。
「みんなにとってハチさんってどんな生き物?」と、トシさんが訊ねると、
『ちくっ!』
『むし!』
『とぶ!』
と、それぞれにハチのイメージを言葉にする子どもたち。
「そう、どれも正解。ハチってちくって刺すよね。針があります。でも、この中でハチに刺されたことある人いるかな?・・・刺されたことある人、少ないね。ハチって刺すイメージがあるけど、みんなのことを「よし!刺しに行こう!」と刺すことって実はないんです。」
うみのこでも、ハチに刺されづらいように、山へ入る際には黒色の服を控えるなどしていますが、よく山に遊びに行くわりに、うみのこでハチに刺された子は少ないことに気がつきます。
トシさんの話を聞いて、一人の子が疑問を言葉にしました。
『じゃあ、わるいことをしたときにハチさんはさすの?』
「悪いことをした時も刺さないよ。だって、別に悪いことをしても、ハチがぶ〜んってみんなのところに来ることってないでしょう。
じゃあどんなときに刺すのか。まず、ハチの巣のすごく近くに誰かがきた時に、「お、何をしに来たのかな。誰が来たのかな」というふうに、ハチさんは調べに飛んできます。でも、近くに来たからいきなり刺すということはなくて、そこで、大きな声で話しをしたり、ハチを怖いと思って手で払ったりすると、ハチさんも「攻撃された!危険だ!」と思って、初めてそこで刺そうとします。だから、敵じゃないなと思ったら刺さないんです。
ほら、巣箱のこんなに近くにいても、トシさん刺されていないよね。これ(防護服)を着ているからというのもあるけど、ハチは怒っていないんだよね。」
ブーンという羽音が聞こえる距離にドキドキと鳴る子どもたちの心臓の音も聞こえてきそう。
「あと、『ハチは飛ぶ』と言っていた子がいたけれど、みんなが好きな果物や野菜の種が土の中で育って、芽が出て、花が咲いたら、ハチが飛んでくるんだよね。それは、ハチさんが花の蜜を吸いに来ていて、それがみんなが食べている『はちみつ』になるんです。」
1箱に2万匹のハチが住んでいる。2万匹のうちの1匹だけが女王蜂で、残りの1万8000匹が働きバチ(雌バチ)、2000匹が雄バチ。雄バチは働かない。
「そしてその時に、もうひとつハチさんは大事なお仕事をしていて、花粉という花の粉を体にくっつけて、蜜を集めに花と花を移動する間に、その花粉がお引越しをするお手伝いをしています。そうすることによって、みんなが食べるイチゴやきゅうり、かぼちゃ・・・いろんな果物や野菜が育つんです。
だから、「ハチって刺すから嫌い!」と思っている子もいるかもしれないけれど、ハチがいなくなったら大変なんだよね。なので、トシさんはハチを守ってあげたいなとも思っていて、ハチのごはんになるお花もいっぱい育てたいなと思っています。」
トシさんやまに植えられ、育ちはじめた新しい芽。
「あとは、ミツバチを見かけたら、「あ、このハチはトシさんのところのハチかもしれないな」と、優しく見守ってくれたら嬉しいです。怖いなと思っても、花の蜜を集めてるんだなという風にみんなが見守ってくれるといいなと思います。」
トシさんの話を聞き、ハチに対する思いが変わったのか、一人の子が言いました。
『おれ、ハチさわりたい!』
「いいよ。触ってみようか。」
すぐにその声に応えるトシさん。
巣箱から一匹のハチを選び、子どもに差し出す。
ゆっくりとハチに手を伸ばします。
「あれ、刺さないね。なんで触っても大丈夫なんだろう?」
『ハリがなかった!!!』
「そう、よく気がついたね。雄バチは針を持っていません。ハチがみんな刺すってわけじゃないんだよね。それに、トシさんが育てているミツバチは針を持っているけれど、オオスズメバチみたいに凶暴ではありません。おとなしい性格なんだよね。
ハチ=刺すではないということを、みんなに知ってもらえたら嬉しいです。」
・・・
その後、うみのこの園舎に戻って、はちみつ搾り。
「このキラキラ光っているのがはちみつです。ハチさんって頭がすごくよくて、集めてきた蜜の水分が少なくなってもう発酵しなくなったなというところで、蜜に蓋をするんです。それをしたら、みんながいつも食べているはちみつの状態になったという印。蓋は蜜蝋といって、化粧品やろうそくによく使われます。」
蜜蝋の蓋を切り開くと、中からトロッと溢れ出てくるはちみつ。「わあ!」と思わず漏れる、子どもたちの声。
ミツバチが1万個もの花を訪れて、ようやくスプーン1杯のはちみつができあがります。
「今日はこれから遠心分離機という機械を使って、みんなにはちみつを搾ってもらいます。搾ると言っても、ぎゅーって搾るんじゃなくて、蜂の巣をこの機械の中に入れて取ってをぐるぐる回してもらうと、穴からはちみつが出るような仕組みになっています。」
「1,2,3,4,5・・・」とみんなで数を数えながら回します。
「天然の蜜蝋は食べることもできるんです。少しずつみんなも食べてみてね。今日搾ったはちみつは、明日また届けます。お楽しみに!」
蜜蝋は、ガムのような弾力があります。
口の中に広がる甘み。食べないと言った子も、おいしい!という周りの様子を見て、「やっぱ食べてみる!」と手を伸ばしていました。
翌日届けられたはちみつ。
今回採れたのは淡い色が美しい「藤の花」の蜜。
うみのこでは、年長組が隣町にある養鶏場「チキチータファーム」に卵を買いに行き、自分たちで育てた小麦を粉にして作ったパンに、トシさんのはちみつと手作りしたバターを塗って、いただきました。
「てにくっついたー!」「ベタベタする〜!」「いいにおいがするね」「こねるの楽しいー!」と感じたことを言葉にしながら生地作り。
ほっぺたが落ちそうな美味しさ!!!
監修:養蜂家 林寿裕(はやし養蜂)さん
撮影/執筆:三輪 ひかり