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「考えることをやめないで。」にじ作詞者、新沢としひこさんが語る、“保育と歌”で大切 にしてほしいこと<前編>

三輪ひかり
更新日:2021/05/12 掲載日:2017/02/23
「考えることをやめないで。」にじ作詞者、新沢としひこさんが語る、“保育と歌”で大切  にしてほしいこと<前編>

保育士なら一度は歌ったことがあるであろう、「にじ」や「さよならぼくたちのようちえん」など数々の楽曲を作詞・作曲している、シンガーソングライター新沢としひこさん。
実は保育園で働かれていた経験があるのを、みなさんご存知でしたか?

そんな経歴をお持ちの新沢さんだからこその、保育と歌の考えかたや、子どもとの関わりかたなどについて、たっぷりお話をお伺いしました!

「月の歌」をもっと柔軟に捉える


今日はお話できるのを、すごく楽しみにしていました!わたしも元々保育士をしていて、新沢さんが作られた歌を子どもたちと歌ってきたので。

ありがとうございます。

新沢さんの歌って、自然を感じられたり、子どもの思いを表現されているものがたくさんあるので、「月の歌」として取り入れている園も多いのかなと思うのですけど…実はわたし、あんまり「何月の歌」とか、その月の曲を決めるのって好きじゃないなぁと思っていて(笑)。


うんうん(笑)。 元々はね、昭和30年頃に、「もっと保育の中身を充実させよう!どの子にも平等に学ぶ機会を与えよう!」とする時代があったんですよね。 その中のひとつの取り組みとして「歌をもっと保育に取り入れよう」という動きもあって、「月の歌を歌う」という方法が広まったみたい。そういう風に決めちゃえば、みんなやらざるを得ないから、少し強制的でも子どもが歌に触れる機会が作れるでしょう。

そうだったんですね。 でも、真夏にクリスマスの歌を歌おうが、季節外れの歌を歌おうが、全然いいはずなのになぁって、やっぱり思ってしまうんですよね。 「ほいくる」でも歌を紹介しているのですが、「7月の歌」とか「8月の歌」というように、月で歌を調べる方って多いんです。でも、そうやって調べた曲を、どんな風に保育に取り入れているのかなぁって思うと、ちょっと悶々としちゃう部分もあったりして…。

保育のあり方や、子どもの捉え方が多様化してきているのに、今もまだ「月の歌を決めて歌いましょう」としている園は、もしかしたらそれをただの慣習でやってしまっていて、これはどういう意味があって決めているのか考えることをやめてしまっているかもしれないね。 でもね、「月の歌」の習慣は、もし保育士さんが音楽が苦手でも、新しい歌を保育に取り入れたり、今まで演奏してなかったけど11月はこういう歌があるならやってみようかなと思ったりするきっかけになると思うから、僕はあんまり悪い習慣だとは思ってないんだよね。

たしかに、新しい歌を知ったり、歌ってみようと思う機会になりそう。


でしょう。 でも僕も、1ヶ月それしか歌わないっていうのは変なのって思ったりするし、そこに縛られているのはもったいないなぁと思います。 例えば、「にじ」って6月の歌で歌ってもらうことが多いのだけど、ある時サイン会でね、「にじは6月の歌なのに、7月になっても歌いたいって子どもたちが言うんです」って相談してくれた保育士さんがいて、僕思わず「歌ったっていいでしょ、それは」って、言っちゃって。 逆に、「6月の歌で歌い始めたんだけど、『にじ』は結局一年中歌っています」って言われたりすると、「うん、音楽ってそういうものだよね」と思うんです。

たくさん考えて、何を歌うか決めてほしい


保育士をしていた時、「この歌面白いなぁ」、「これ子どもたちと歌ったらきっと喜ぶだろうな」と思って、新しい歌を保育に取り入れようとするとき、いつもどうやって共有したら子どもたちは楽しめるかな、どうやったら好きになってもらえるかなと、悩んだり考えたりしていた気がします。

えーそれはね、考えなきゃダメ(笑)!その考えるってことが素晴らしいと思う。 例えば、先輩先生が「あのね、6月はこの歌を歌うのよ。去年も一昨年もその前もそうだったし、5歳になったらこの歌を歌うって決まっているの」とか言ってくるとするじゃない。それに対して、あなたがもし「これ面白いのかな?」と思ったとしても、まずは子どもに共有してみてほしい。 その歌を歌ってみての子どもたちの反応を見たり、自分がいいなと思っていた歌もやってみたりする中で、子どもはどっちが喜ぶだろうとか、いろんなことを考えてあげてほしいなぁと思います。 そんな風に考えながら歌を保育のなかに取り入れていくと、「あ、子どもたちはこういうところに喜ぶのか」とか、「この歌だと大きな声が出ているな」とかさ、そういうことを感じる力が保育士にもついてくるんだよね。そして、その感性が鈍ってくると、「10月だから◯◯の歌」…と、自動的にやるだけになってしまう。 だからこそ毎回、「この歌って子どもたちはどう思うかな」と考えることが、すごく大事だと思うんです。


あと、保育士のみなさんには、自分の気持ちも大事にしてほしい。「わたしはこの歌どう思うかな」って。 例えば、「この歌って本当にいい歌だよね」って保育士自身が思った時って、子どもに「この歌ね、先生大好きなのだけど」って、そう教えられるじゃない。 自分が音楽とどう付き合っているかとか、どう思っているかということって、全部隠しようもなく保育に出るもの。だからこそ、「私は、この歌をこういう風に思っている」ということを、自分で気がつくことも、とても大切だと思うんだよね。

たしかに、自分がどう感じているかってすごく大切かも。 歌だけでなく、例えば食べ物にしても、実際に食べたことがあって、それをすごくおいしいと感じていて、「これおいしいよ、食べてみて!」と言うのと、食べずして「これおいしいらしいよ」と言うのだと、伝わりかたも全然違いますもんね。

そうそう。 だからもし、子どもが元気に歌ったりするのをちょっと騒がしいな、もっとキレイなメロディで優しく歌うほうが好きだなと思う先生がいたとしたら、そういう歌を歌ったり、子どもに「先生はこう思う」と気持ちを話したりしてみても、いいと思う。その先生の“人間味”みたいなものが出ることって、歌を保育に取り入れる時にすごく大切なことだから。 でもだからといって、「先生、このアイドルの曲が好きなの」と、毎月毎月流行っているアイドルの曲をクラスで歌ったりするのは、ちょっと違う。子どもたちどう?歌えている?とかさ、そこはやっぱりちゃんと考えたり、子どもの姿に目を向けることも忘れないでいたいよね。

本当にその通りですね。

うん。そして、そこから1歩進んで考えてみてほしい。 たとえば、子どもが楽しめるもので、アイドルの曲みたいな元気な曲ってどんなものがあるのかなと探してみたり、アイドルみたいに踊るパートを「アイアイ」で入れてみたりするとかさ。 なんでもいいから、そうやって“音楽と楽しく付きあう”ことを子どもたちに伝えていってほしいですね。

保育士って、「生き生きと悩む職業」だと思う


自分自身の考えや気持ちに向き合うことって、音楽だけでなく、子どもと関わる時にも、大事にしたいことですよね。

そうだよね。子どもってさ、本能的というか感覚的というか…、すごく心の真ん中と外側に出ている部分の距離が少なくて、ストレートなことが多い。逆に大人は複雑だから、本心はこう思っているけれど、いろんな鎧を着て、実際の行動は違うことをするということがいっぱいあったりするよね。 例えば保育のなかでも、これは仕事だからといって、自分の感覚とか本能とかそういうものは全部押し殺して、「みなさん、おはよう!」と元気に言ったり、「お友だちは、大切にするのよ」とかって、なんかお題目みたいに言っちゃう先生もいたりするのだけど、本当は子どもたちは根源的に生きているのだから、先生も根源的なところを大事にしないと、伝わらないって思うんですよね。


「保育は正解がない」ってよく言われるけど、現場にいると本当に毎日自分自身を問われることって多いと思う。 このケンカは止めた方がいいのか、それともこのままケンカさせた方がいいのかとか、この子の「チャレンジしたい」という気持ちは応援したいけど、ケガはさせちゃいけないよねとかさ。えーどっち?どっちが正解?って、思うことがいっぱいあるよね。 その都度、判断しなくちゃいけなくて、そういうことが疲れてしまうという先生もいるかもしれないけど、でも、そこが人間を保育していく面白さでもあり、難しさでもあって、一瞬一瞬自分を問われる素晴らしい仕事だと思うんです。 そのかわり、何にも感じなくても惰性でやっていけたりもするから、ぜひ保育士さんには生き生きと悩んで頑張ってほしいなぁ。

生き生きと悩む、ですか。

そう。絶対に子どものためにいっぱい考えたことは、花開いたり実になったりする。そういう先生が僕は「いい先生」っていうんだと思います。

新沢さんも先程「惰性でやっていける」とおっしゃっていましたが、保育士をしていると、慌ただしさというか日々の業務に追われてしまって、こなすことが目的になってしまったり、もしくは自分はどう考えるかということを、ちょっとおきざりにしてしまうことってあるかもしれないですね。 わたし自身、自分がどう考えているかとか、真正面から向き合ったことってあんまりなかったかもしれないと、話を聞いていて思いました。

「あれ、わたし惰性でやっているかも」って、その気がつくことがすごく大事だよね。子どもの目はあんなにキラキラしているのに、自分はキラキラしているだろうか…とか、子どもを通して自分のことも見てほしい。 いっぱい考えたり、いっぱい悩むことが、実は自分がいっぱいキラキラすることに全部つながっているんだと思います。 これは歌にも保育にも共通しているんだけど、どちらも答えがないだけじゃなく、奥が深い。 子どもにとってこれが一番いいだろうなって思ったことが、一週間後には「あ、もっとこっちがあった!」ってなったりしていくでしょ。 次々と「もっとこっちがあった!」ということが出てくるとい言ったら、えー果てしないじゃんという場合もあるかもしれないけれど、だからこそやりがいがあったり、考え甲斐があったりするんじゃないかな。そして、そういう一生懸命さっていうのは、僕は絶対相手に伝わると信じているし、未来につながっていくと思うんです。


前半はここまで。

後半では、この時期歌う園も多いであろう「卒園ソング」について、たっぷりお話していただきます。お楽しみに!

後編はこちら

「さよならぼくたちのほいくえん」を生み出した新沢さんの考える、新しい「卒園ソング」の選び方<後編>

「さよならぼくたちのほいくえん」を生み出した新沢さんの考える、新しい「卒園ソング」の選び方<後編>

多くの保育園や幼稚園で歌われ続ける楽曲を生み出している、シングソングライター新沢としひこさん。

前編では、保育と音楽で大切にしてほしいことや保育者の役割についてお話いただきました。後編では、「卒園ソング」にスポットをあて、さらにたっぷりとお話を伺います!


新沢としひこ


新沢としひこ:シンガーソングライター(所属:アスク・ミュージック)・元保育士
1963年生まれ。
東京の保育所で保育者を経験した後、シンガーソングライターになり、数多くのCDや楽譜集を発表。
代表作『世界中のこどもたちが』は、小学校の教科書に採用され、カバーも多数。
現在は、ソロコンサートやジョイントコンサート、保育講習会の講師として活躍するかたわら、CD制作のほか児童文学の執筆や絵本を出版するなどマルチに才能を発揮している。


雨宮みなみ


雨宮みなみ(あめみやみなみ):こども法人キッズカラー代表
1986年生まれ。
和泉短期大学児童福祉学科を卒業後、保育士として6年間子どもたちと携わった後2010年起業。自身の保育士経験を軸に、「あったらいいな」を形にHoiClue♪の立ち上げを行う。
2014年に第一子を出産し、一児の母でもある。

(執筆・撮影:三輪ひかり)