「豊かな子ども時代を」—むくどり風の丘保育園(神奈川県 相模原市)
「むくどり風の丘保育園」の特徴はどんなところ?
園の保育目標が「豊かな子ども時代」なのですが、その目標の実現に向けて、子どもたちがこの園で過ごす中で、さまざまな自然体験や生活体験ができる環境づくりを目指しているということは、園の特徴のひとつかもしれません。
乳幼児期の子どもたちが自分からやりたいと思うことや、何度もなんども繰り返し集中して行っている事柄が、その子の発達の課題(発達過程)にぴったりあっていると考えていて。
そんな子どもたちの自ら“育とうとする力”を充分に発揮できるような環境を用意するように心がけています。
モンテッソーリをベースとして取り入れているのは、そんな子どもの主体的な学びを援助するエッセンスや参考になる部分がたくさんあると思っているからです。
また、どの園にもある保育の指導計画も、子どもの主体性を大事にしようということ思いから、ここでは「援助計画」と「環境構成計画」という名称に置き換えて作成しています。
どんなマインドで保育をするかということを、ひとつひとつきちんと確認したり、大切にすることで、ずいぶん保育者の子どもに対する関わりかたは変わっていく。
先生たちもひとりひとり違う人間なので、全く同じ保育をしているというわけではないし、それぞれに個性があっていいと思うのですが、“考え方のものさし”だけは共有できるようにしたいと思っています。
保育でおもしろいと感じることは?
「一緒に生きている」と感じるところかなぁ。
私が尊敬するある先輩の園長先生が「保育セッション」(※)という言葉を使われているのですが、まさにその言葉が表すように、日々の関わりの中で即興的にいろんなドラマが生まれる、というか。
子どもたちと毎日過ごしていると、計画通りにいくこともあれば、予測をどんどん超えていくこともある。そして、そこからまた新しい展開がはじまる。それが保育のおもしろいところだと思います。
※参考:『保育の場に子どもが自分を開くとき』(室田一樹・著/ミネルヴァ書房)
http://www.minervashobo.co.jp/book/b105943.html
保育の課題と、その課題を解決するためにしていることは?
以前、汐見稔幸先生がある研究会で、「教育実践あるいは保育というのは、ある価値を子どもに選ばせたいという大人の思いと、ある価値を自分で選びたいという子どもの思いの接点で、子どもが選び続ける営みだ」とお話してくださったことがあるのですが。
子どもの主体性が大事という中にも、大人の意図や願いはあっていい。でも、大人の意図が強くなりすぎると子どもの主体性が失われていく…。そのバランスが、保育の難しいところでもあるなと日々感じています。
基本的に大人の願いは環境に出るものだと思うんです。
例えばこのエントランスに暖炉があることも、部屋でクッキングができたり、園庭に様々な草木を植えてあったりしているのも、意図してそうしているんですよね。
子どもに、何か気付いてほしいことがあったり、感じてほしいという意図があってそうしてある。
でも、その意図が本当に子どもの深い部分のニーズにこたえているのか、強くなりすぎていたり、逆に弱くなりすぎて伝わらなかったりしていないか。日々の保育の中で「振り返りをする」ことを大切にしながら試行錯誤していくしかないと思っています。
「保育」において大切にしていることは?
「自由であること」と、「人と気持ちよく生活すること」のバランスを大切にしています。
自分も自由でありたいし、子どもたちにも自由に過ごしてほしい。でも、園のなかで一人で暮らしている訳ではないですからね。個々の自由と自由がぶつかり合うことがあります。そこで喧嘩になったり、トラブルになったりということも起こるのですが、はじめからそうならないように止めてしまうのではなくて、そんな葛藤や失敗もいっぱい経験しながら、自由であることと同じくらい、人といて楽しいとか嬉しいとか、みんながいたからこんなこともできたとか、そういう実感をもって育ってほしいと思っています。
子どもたちは、何年後かにはむくどり風の丘を卒園する。でも、自分らしく生きていくことと、人と繋がって共生して生きていくことは、子どもたちが大人になってもずっと続いていきます。
そのベースとなるような体験を、たっぷりこの園で経験してもらえたらいいなぁと心から思うのです。
子どもとの関わりで大切にしていることは?
ちょっと誤解を受けそうな言い方になるかもしれませんが、「子どもだからという対応はしない」ことですかね。
もちろんコミュニケーションをとる際に、どうやったら相手(子ども)に伝わりやすいかを考えて、使う言葉や表情を工夫することはありますが、そのなかでも、相手もひとりの人格をもった人間であるということは忘れないようにしています。
これは多分、自分の原体験も関係しているのですが、私が幼稚園の年長児くらいの歳の頃、歌のお姉さんやお兄さんが出てくる番組を見るのが実はあまり好きではなかったんです。大人はそんなつもりないと思うのですが、その当時はすごく「あぁ、今自分子ども扱いされてる」って感じていた記憶があって(笑)。
子どもと関わる大人(特に保育者)はついつい子どもの前では頑張ってテンションをあげて接しようとしてしまいがちですが、もっと自然体で子どもと関わるとステキだよなぁと思ったりします。
保育のなかの「保育者の役割」とは?
保育所保育指針には「保育者等の役割として大切なことは、子どもの発達に必要な経験を積み重ねていくことができる“環境を計画的に構成”し、子どもの心身の状況により“適切な援助”をすること」と書いてあるのですが、まったくその通りだと。
…でもそれが一番むずかしいんですよね(笑)。
むくどり風の丘保育園の「夢」は?
なにか特別な保育をしているからとかではなく、なんかほっとするな、こういう保育もいいなという意味で、むくどり風の丘保育園を知ってもらえたら嬉しいですね。
「あぁ、こういう保育園がこの地域にあってよかった」と思ってもらえるような、子どもたちが自発的に無理なくのびのび育つ姿や、大人と子どもの幸せな関係のイメージ、持続可能な社会のためにも、“自然っていいなぁ”と素直に感じられる子ども時代の原体験の大切さなどを、自然と伝えられる園でありたいです。
◆基本情報
名称:むくどり風の丘保育園
運営:社会福祉法人ムクドリ福祉会
住所:〒252-0134神奈川県相模原市緑区下九沢 1558-14
クラス構成:0・〈1〉歳児 花組 / 1・2歳児 山組、海組…各12名程度
〈2〉・3・4・5歳児 風組、光組…各25〜30名程度
http://www.kazenooka.ed.jp/index.html
取材・文・写真 三輪ひかり