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「子どもは、みんなで育てる」ーたつのこ共同保育所 (神奈川県 川崎市)

三輪ひかり
掲載日:2016/10/19

たつのこ共同保育所の特徴はどんなところ?

保育園の中の写真


「共同保育」というカタチをとっていることかなぁ。

元々たつのこは40年前、当時のお母さんたちが「子どもを預けっぱなしにするんじゃなくて、仕事をしながらも、自分でも子育てをしたい」という思いで集まり、スタートした保育園なんです。

そしてその意思と想いが、「保育者と親が対等の立場で運営する保育園(=共同保育)」として受け継がれ続けています。

共同保育って、みなさん聞いたことあるのかな?

もしかしたら、あまり聞き慣れない言葉かなと思うんですけど、保護者が係りとかお手伝いというレベルではなく、もっと密に関わる保育園と言ったら、分かりやすいかもしれないですね。

たつのこの場合だと、園の最高決定機関である「運営会」に保護者も参加してもらう。

最近でいうと、保育料の値上げをするかどうかも、保護者を含めみんなで決めましたよ。
普通の園だったら、保護者には言わないような園の情報も、全部保護者にオープンにして、話し合うんです。
会計報告とか、保育者の人件費とかも全部筒抜け(笑)。

でも、そうするとたつのこに関わる全てのひとが、たつのこの事を心から考えてくれる。
本当に居心地のいい、大切な場所になっていくんですよね。

子どもが遊んでいる写真


あと、保育のカタチが移り変わってくのも、たつのこの特徴かもしれません。

たつのこの保育がどうっていうことより、その時のたつのこの人たちが、保育を創り上げていくことを大事にしているんです。

少し前の話になるんですけど。

例えば4年前、たつのこの入所のしおりには、「私物はたつのこに持ってきてはいけません」と載っていたんです。
でも当時、2歳位の子でどうしてもこれがないと保育園に行けない、手放せないっていう物がある子がいて。

その時に、それは本当にダメなのか?
ダメだとしたらなんでダメなのか?
「たつのこで、ダメって決まっているからダメなんだよ」ではなく、もう一度その“決まり”に向き合うことにしたんです。

そうすると、結局考えかたは、みんなバラバラだったの(笑)。

友だちに貸せるんだったら、持っていってもいいんじゃない?という考えもあれば、みんなで遊べるものだったらいいという考えがあったり。
保育園に持って行っていいものとよくないものがある、と。
パパはお酒が好きだけど、会社には持って行かないぞと話をするパパもいたりして(笑)。

たくさんたくさん話し合って、しおりからはなくしたんです。
「私物を持ってこないでください」という一文は。

でももしかしたら、この先その一文がまたしおりに載ることもあると思うんですよ。たつのこは、その時にたつのこにいる人たちで、創っていくものだから。

でも、そうなった時にもきっと
自分で決める。
親と話あって決める。
みんなで決める。
ということは、大事にしていると思うんです。

印象に残っている「たつのこ」らしいエピソードとは?


それが良いとか悪いとかではないんですけど。

他の保育園と公園で一緒になった時に、その保育園の子が転んでしまったんです。
そうしたら、その園の子どもたちは、「せんせーい!◯◯ちゃんがころんだ!!」って、先生に助けを求めに行って。

その様子を見ながら、「たつのこの子どもたちならどうするのかな?」と考えていたら、その後見事に、たつのこの子も転んだら、子どもたちは「だいじょうぶ?」って、まずその子に駆け寄っていったんですよ!
誰ひとりとして、わたしのところには来なかった。
それが、すごくたつのこの子どもたちらしいなぁと思って、嬉しかったですね。

日頃、大人を頼るという生活をしていないからこそ、自分たちでなんとかしよういう力が、子どもたちの中で育っているのかなぁと思えた瞬間でした。

保育のおもしろさとは?


保育って、「人間関係」だと思うんです。
だから、先が読めないし、どうなるか分からないことばっかり。

そこが大変だなぁと思うことももちろんあるんですけど、すごくおもしろい所でもあるのかなぁと思います。

特にたつのこだと、「見守る」というスタンスを取ることが多いからこそ、毎日子どもたちの間でドラマが起こって、予想もしていなかった世界や、思いの移り変わりを、子どもたちが見せてくれるんです。

子どもの世界を覗かせてもらえるって、幸せですよね。

保育をする上で、大切にしていることは?


「やりたいことをやる、大人も子どもも。」ということかなぁ。

これはわたし自身の話になるんですけど、社会人になったばかりの時、何も言われないとできない人だったんです。
失敗がすごく怖かったんですよね。
だから、1から10までやること言ってもらえないとできなかったし、分からないことは、聞いてからじゃないとやらなかった。

でもそんな私が子どもたちに、「好きなように遊んでごらん。失敗しても大丈夫だから、折り紙も工作も自転車も。」って言ってるんですよ。

…矛盾だらけでしょ(笑)。
そんな自分が、失敗してもいいなんて説得力ないなぁと思って。

だからそれからは、わたしもやりたいことは失敗を恐れずにやろうと思えるようになったし、子どもだけじゃなくて、大人もやりたいことをやることを大切にするようになりました。

子どもたちと関わる上で、大切にしていることは?


「自分の気持ちに正直でいること」ですかね。
さっき言った「やりたいことはやる」に近い部分でもあると思うんですけど。

保育者はこうでなくちゃとか、頭でばかり考えている間は、子どもたちと対等な関係ではいられない。

楽しいとか、楽しくないとか。
やりたいとか、やりたくないとか。
そういう気持ちは子どもを子ども扱いはしないで、正直に伝えたいなぁと思っています。




たつのこが考える「保育」とは?


「保育」は、この先子どもたちが生きていく上で必要となる力の基礎を身につけられる場であり、時間でありたいですね。

保育園にいる今は、大人との関わりも密だし、自由の中で子どもたちは過ごしているけど、学校に行けば集団生活が始まり、誰かに守られることって少なくなっていくと思うんです。

だからこそ、「自分で生きていく力」を身につけてほしい。

それは、保育園で何かができるようになるとか、保育園が小学校に入るための準備期間とかそういうことではなく。
子どもたちのもっとずっと先を見据えた、人として生きていくためのステップ。

いきいきと人生を歩んでいく、そのための核となるのが保育だと信じています。

 

その保育のなかで、「保育者」の役割とは?


子どもたちに、何かを考えたり気付く「きっかけ」を与えてあげることかな。

答えを教えてあげることって、簡単だと思うんですよ。
でもそれじゃあ「自分で生きていく力」は育たない。

それこそ一問一答みたいな感じで、あるパターンの時にしか通用しない、それ通りじゃないと何もできないという状態には、子どもたちになってほしくないなぁと思っていて。

そのためにも、「答え」ではなく「きっかけ」をプレゼントできる保育者でありたいです。



「夢」を教えてください。

子どもの写真


たつのこが創設された40年前より、フルタイムで働く母親も増えているし、社会はどんどん変化している。
だから正直、共同保育所ってまさに時代を逆行している部分もあると思うんです。

でも今の世の中だからこそ、「サービス業じゃない保育所」がすごく大切なんじゃないか、と思っていて。
そもそも人を育てることは、やってもらう、やってあげるとか、そういうサービス業じゃないですしね。

だから、子どもをみんなで育て、人と人が繋がる場で、これからも在りたいなぁと心から思います。



子どもの写真



取材・文・写真:三輪ひかり