保育と遊びのプラットフォーム[ほいくる]

「子どもの自己決定が保証される場所」ー木更津社会館保育園(千葉県 木更津市)

ほいくる編集部
掲載日:2015/06/06

「子どもの自己決定が保証される場所」ー木更津社会館保育園(千葉県 木更津市)

今回訪れたのは…
千葉県の内房、木更津市にある「木更津社会館保育園」(認可保育園)

今から91年前にお寺の住職さんが開設した歴史のある保育園。
創業者の孫にあたる三代目の宮崎さんは園長歴37年の大ベテランです。
里山保育をいち早く取り入れ、子どもたちが土や自然に触れる環境を積極的に作っています。

園長になる前は、千葉県庁で働いていたという異色の経歴を持つ宮崎さんと、今年から新たに加わった2人の先生にお話を聞いてきました♪



保育の様子

午前中は海の見える原っぱにおさんぽ。

お散歩する子どもたちの様子

らんらんらん~♪あれ!?だれかの靴がぬげてる!

堤防でフナムシを探す子どもたちの様子

「こっちのほうがでっかいフナムシいるぜ」

空き容器につかまえたフナムシを入れる様子

「みてみて!こんなにとれた!」

木登りをする子どもたちの様子

木登りだってすいすい、みんな裸足で登ります。

木更津社会館保育園の方針は、「自分は生まれてきてよかったのだと9歳までに確信させる」こと。先生が指示を出し過ぎないようにし、子どもたち一人一人が自分で決めて行動する、自己決定を大切にした保育を行っています。

裸でどろんこ遊びをし、鼻水を垂らし、よくケンカしケガの絶えない子どもたち。
ありのままの姿で目をキラキラさせながら、思いっきり遊べる環境が社会館の特徴です。
0歳から5歳までの園児160名を30名の先生で見守っています。

公務員だった宮崎さんが園長になった理由は?

大正時代から昭和初期にかけて農繁期(農家さんが忙しい時期)はお寺さんが農家の子どもたちを見ていたんです。昔は全国でそういった動きがありました。それが今の木更津社会館保育園のはじまりなんです。

私はお寺の家に生まれたけど、お寺を継ぐのが嫌で、公務員として千葉県庁や学校で働いていました。
しかしある日、9歳の子どもが自殺したというニュースに大きなショックを受けて、子どもたちに何が起こっているのか興味を持ったのです。

学校に入れば、テストの点数で優劣を決められてしまう子どもたちの現状を知って、人として大切にされるって何だろう?と真剣に考えました。
祖父が始めたこの保育園で、子どもたちにできる事があるような気がして、37年前に三代目園長に就任しました。

宮崎園長の写真

宮崎園長。3才からの雑巾がけや4才からの給食の自由盛り(嫌いなものを少なく、好きなものを多くするなど食べる量は自分で決める)、お父さん先生など保育環境は日々改善し新しいことへの挑戦に意欲的。

子どもたちと過ごす中で、大切にしていることは何ですか?

失敗しても潰れない、自分で立て直せる子どもになって欲しいと思っています。
その為には、幼少期に子どもたちの自発性を認めてあげること。子どもたちが、存在そのものを認められる環境を大切にしています。


先生にとって「保育」とは?

保育する側(園長、先生)にとっては、子どもたちの内から湧き出してくる欲求や感情を大切にすること。大人の考えで感情の発露を押さえつけないこと。
保育される側(園児)にとっては、自己決定を保証される環境、またそれを快感と思うかどうかだと思います。


園長の夢は何ですか?

言われた事しかできないロボットの様な人間ではなく、一人一人が自立していくように導いてあげたい。
影が薄い子って、本人も自分の存在価値を低く見ているんです。
子どもがそんな風に思う保育をしてはいけないと思っています。
子どもたちによる悲しい事件がなくなる事が願いです。

今年から社会館で働き始めた中野先生と田浦先生。共に遠方から引っ越ししてまでこの保育園を選んだ理由は何ですか?

中野:今年の3月に大阪の大学を卒業し、新卒で社会館に就職しました。
子どもと直接関わる仕事をしたいと思い、保育士を選びました。
社会館はTVのドキュメンタリー番組で見たことがあり、気になっていたんです。
就職活動の時思い切って見学に来てみたら、園内を裸で走り回る子どもたちを見て、とても驚くと共に「ここで働きたい!」と思ったので、そのまま来てしまいました。

先生の写真

田浦:私は生まれ育った長崎県で先生をしていました。
9年目に入ると保育を楽しめなくなってしまったんです。日々の忙しさから効率を優先することばかり考えてしまって…。
新しい土地でもう一度真っ白な気持ちで子どもたちと向き合いたいと思い、里山保育をしている園を探していたとき、社会館の保育方針に共感し入社を決めました。


子どもたちと過ごす中で、大切にしていることは何ですか?

中野:子どもたちが思いっきり遊べる環境づくりを心掛けています。
そのために常に子どもたちと行動を共にしています。
遠目で見たらどこに先生が居るのか分からないくらい、子どもたちの風景に溶け込みたいです。

田浦:以前の保育園では子どもたちの声を聴くことを大切にしていましたが、今は子どもたちが泣いたりケンカしていてもすぐそばに行かず、見守るようにしています。
まずは子どもたち同士、もしくは自分自身で乗り越えることを社会館では大切にしているからです。


大変だと感じる事はありますか?またそれを乗り越えるためにどう対処していますか?

中野:私は仕事自体が初めてなので、主体的に1日の流れを作ることが難しいです。研修的なものも無いので、どうすればいいか分からない時も自分で考えて行動するしかありません。ここには、モデルはあってもマニュアルはないのです。

田浦:子どもたちとの信頼関係をもっともっと深めたいです。
以前の保育園では、泣いたりケンカしたりする子たちの話を聴くことで、信頼関係を築いていましたが、社会館ではそうゆう場面で先生は子どもたちの中に入らないので。
もうとことん子どもたちと遊びこんで関わる時間を増やしていくように心がけています。

ある日、園児をおんぶしていたら他の子に「(おんぶしてるのは)せんせいがいやされるからやってるんでしょ?」と言われたんです。
子どもたちのため、と思って行動したことが実はそうではなかったというのを見透かされた気がして、ドキッとしました。


先生の写真

10年目のベテラン先生。以前の保育園とは保育方針が全く違うので、日々驚きと発見の連続とのこと。

お二人の夢は何ですか?

中野:まずは仕事に慣れる事です。
こういうふうにしていきたい!と思ったらそれを実現していけるようになりたいです。また、関西人の明るいノリを出していけるようにしていきたいです。

田浦:子どもたちにとって面白い先生になりたいです。
社会館の先生は園長含めとっても個性的。
園長は二階のベランダから庭にいる子どもたちにバケツの水をバシャッとかけたり、天狗のお面をかぶって子どもを追い回したりするんです。子どもたちもそんな園長が大好きです。
こんなことしたら怒られるかな…という既成概念にとらわれている自分を変えていきたいです。

心身共にたくましい子どもたちを育てたい!という想いがつよく伝わってきました。
木更津社会館保育園のみなさん、ありがとうございました!
どんな園なのか関心を持たれた方は、こちらのリンク先をご覧くださいね。

木更津社会館保育園
園長 宮崎栄樹
http://shakaikann.jimdo.com/